フェアアイル柄の遺産
最高の技が紡ぐフェアアイル柄は、装いを際立たせるだけでなく、神聖な島の遺産を守る象徴でもある。
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フェア島は、英国で地理的にもっとも孤立した有人島で、シェトランド本土から24マイル、オークニー諸島の最北端から27マイル離れた場所にある。Googleマップでこの島をズームアウトしてみると、その地理的状況に驚くことだろう。
島には約60人の住民が定住しており、その多くは島の南端に暮らしている。伝統的には、農業と漁業が主な職業だったが、現在では経済は多様化している。それでもなお、牧羊は島の生活において非常に重要である。多くの島民は子羊の出産や羊毛刈りを手伝っている。
フェア島には約6,000年前に初めて人が住み始め、その痕跡は現在でも見ることができる。後に、この島はヴァイキングやノルマン人の入植者にとって重要な拠点となった。
ここ数百年において、フェア島での生活は非常に厳しいものだった。しかし、1948年にスコットランドの自然保護活動家、ジョージ・ウォーターストン卿が所有者となり、1954年にはスコットランド・ナショナルトラストに所有権が移されたことで、島の生活は安定した。
フェア島は、その名前を冠したニットウェアで世界的に有名だ。代々受け継がれてきた独特のパターンで知られている。主に女性である編み手は、それぞれのパターンを選び、独自の解釈で編むことで、無数のバリエーションを生み出してきた。それらはひと目で「フェアアイル柄」としてわかるアイデンティティに溢れている。
伝統的な「輪編み」では、ローカルでは「ワイヤー」と呼ばれる二重針と特別なパッド付きの編みベルトが使用されている。島では手編みされたニットが販売されており、島産の本物のフェアアイル・ニットウェアには、産地の証明として「スター・モチーフ」商標が付けられている。
フェアアイルのパターンの起源は不明だが、そのデザインがムーア人のパターンに似ていることから、1588年にこの島で難破したスペインの無敵艦隊の船「エル・グラン・グリフォン」との関連が語られることがある。
また、さらに昔にヴァイキングがもたらしたという説もある。一説によると、通りかかった船が食料や水と引き換えに島にパターンの編み物をもたらしたそうだ。そして島の女性たちがシンプルな編み物に独自の模様を加えたらしい。
19世紀半ばまでには、パターンが施された衣服が島の名産となっていた。「OXO」パターン(幾何学的な「O」と「X」の繰り返し)や、アンカー、羊の角、ハート、シダ、花などのが基本模様として使用される。デザインは島の生活や環境を反映したものとなっている。
フェアアイルの伝統的なニットウェアは、手紡ぎの糸を用い、さまざまな方法で染色されていた。たとえば、青い糸の染色にはバルト海沿岸の船との取引で得たインディゴが使用され、赤色(マダー)はマダーの根と島特有のコケ「コルカレット」を混ぜて作られた。本物のフェアアイル編みでは、1列あたり2色、全体で平均4色が使用される。
1920年代、デザイナーのココ・シャネルは、フェアアイル産のニットの実用性に注目し、プルオーバーを着用した。彼女はそのパターンを自身のコレクションにも取り入れた。
20年代のファッション界の重要人物、写真家セシル・ビートンもフェアアイルを愛用したひとりだ。当時、ケンブリッジ大学の学生だった彼は、ヴィンテージの衣服に夢中で、中でもフェアアイル・セーターが特にお気に入りだった。
しかし、1920年代にフェアアイル柄をメインストリームへと押し上げたのは、当時のプリンス・オブ・ウェールズ(後のエドワード8世)だった。画家ジョン・セント・ヘリアー・ランダー による肖像画では、彼がフェアアイル柄のVネックセーター、ツイードのフラットキャップ、白いピンカラーシャツ、黒いネクタイを着こなし、ケアンテリアを手に持った姿が描かれている。
このスタイルは、今日でもメンズウェアの傑作コーディネイトとされている。プリンス・オブ・ウェールズは、プライベートなゴルフクラブやスキーリゾートでフェアアイルの衣服を好んで着用した。
第二次世界大戦中の衣料配給制により、フェアアイルは大きな影響を受けた。編み物用の毛糸が不足し、ニッターたちは既製の糸や再利用した材料を使用せざるを得なくなった。鮮やかな色を生み出す染料も入手困難になり、シンプルな一色染めや天然の未染色の羊毛で困難な時期をしのいだ。
1960年代になると、デザイナーのオジー・クラークなどがフェアアイル柄を再び取り上げた。ロックミュージシャンのミック・ジャガーや、彼のチェルシーの邸宅に集った仲間たちによって、フェアアイルセーターはスウィンギングロンドンの象徴となった。ビートルズ、ロッド・スチュワート、エリック・クラプトン、デヴィッド・ボウイもフェアアイルセーターを好んで着用した。中でもザ・フーのピート・タウンゼントは、ステージでVネックのフェアアイルベストを定番として着用し、その個性を際立たせた。
フェアアイルは移ろいやすいファッション史のなかで、トレンドの表面からは消え去った時期もあったが、幾度となくよみがえってきた。それは流行を超えた、普遍的な美しさが宿っているからだろう。
購入するなら、フェア島から取り寄せるのが最善だが、それが難しければ、信頼できるブランドのものをチョイスしよう。スコットランドでは、ジョンストンズ オブ エルガンやキャンベルズ オブ ビューリーが王室との強い結びつきを誇っている。ロンドンのジャーミン・ストリート53番地に位置するニュー&リングウッドの新しいラムズウール製フェアアイル・デザインは、クリスマスにふさわしい洗練された装いとなるだろう。