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OHASHI HILLが目指す「全ての人が居場所感を得られる施設」を体現するインクルーシブな設計思想とは

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OHASHI HILLが目指す「全ての人が居場所感を得られる施設」を体現するインクルーシブな設計思想とは

2025年4月に福岡市の大橋エリアに開業予定の複合商業施設「OHASHI HILL(おおはしヒル)」。大橋駅前にかつて存在した「ゆめアール大橋(大橋子どもプラザ)」の跡地に建設されるこの施設は、多様な背景を持つ利用者を受け入れる「インクルーシブデザイン」を施設計画の一部に採用しています。プロジェクトを率いる株式会社えんホールディングスは、建物だけでなく地域全体を巻き込む新しい街づくりを模索中。そんな一歩となるOHASHI HILLが、大橋エリアにどのような価値をもたらすのか。本記事では、その全貌と理念、そして関わる人々の想いに迫ります。

多様性を尊重し、すべての人が「自分の居場所」と感じられる空間を目指す「インクルーシブデザイン」。この先進的な設計思想を一部に取り入れた「OHASHI HILL」の事例を通じて、インクルーシブデザインの本質と可能性を探ります。

 

 

 

インクルーシブデザインとは?

昨今、「インクルーシブデザイン」というキーワードがデザインの世界で注目されています。

 

「インクルーシブデザイン」では、多様な背景を持つ人々が主体的に関われるような共創型プロセスを用います。この考え方は、課題解決にとどまらず、新しい価値を生むことを重視しています。

 

特に建築において、「多様性を包摂する空間は、多様な人々の主体的な参加で作られた、居心地の良さを感じられる場所が望ましい」と語るのは、インクルーシブデザインの先駆者である九州大学の平井康之教授です。

 

2025年4月、福岡市大橋エリアに誕生する「OHASHI HILL」は、インクルーシブデザインを取り入れたプロジェクトです。その設計には、障がいのある方、高齢者、アーティストなど多様な住民の声が反映されています。

 

 

 

2025年4月にいよいよ開業!「OHASHI HILL」の全容とは

福岡市大橋エリアに新たに誕生する「OHASHI HILL」は、地域と共創する都市型複合施設として注目されています。このプロジェクトは、福岡市が進める「ゆめアール大橋」跡地の再開発事業としてスタートし、株式会社えんホールディングス(以下:えんHD)が事業者に選定されました。

 

 

全体の施設設計をもとに、ウェルネス、多様性、環境、文化芸術の4つのコンセプトを計画。幅広い世代と多様な背景を持つ人々が気軽に集い、交流できることを目指しています。特に、屋上公園や多目的スペースは利用者が自由にその場の使い方を創造できる設計が施されており、「余白」を重視した設計思想が最大の特徴です。

 

 

今回は、このプロジェクトに内外で関わっている人たちにお話を伺いました。

 

 

 

お話を聞いた人:西川辰之介さん・平井康之教授

西川辰之介さん:利用者目線を具現化するプロジェクトリーダー(株式会社えんホールディングス 不動産事業本部 アセットマネジメント部 課長)

株式会社えんホールディングス 不動産事業本部 アセットマネジメント部 課長。地域住民と共創する街づくりを牽引する「OHASHI HILL」のプロジェクトリーダー。同施設の館長も兼任する。

 

「このプロジェクトは、福岡という街に支えられた私たちが、この街に恩返しをする。単なる開発事業ではなく、地域と人がつながるような場を作りたいという思いで取り組んでいます。

 

えんHDは、これまでマンション開発を中心に事業を展開してきましたが、OHASHI HILLは地域と共に新しい価値を作り上げる挑戦です。

 

このプロジェクトでは、多様な人々の意見を聞き、それを形にするプロセスの重要性を学びました。

 

えんHDとしては建物を完成させるだけでなく、その先の運営や地域との関係性を育てることに力を注ぎたいと考えています」

と語る西川さん。

 

平井康之教授:インクルーシブデザインの専門家(九州大学大学院 芸術工学研究院 ストラテジックデザイン部門 教授)

九州大学大学院芸術工学研究院ストラテジックデザイン部門 教授。コクヨ株式会社でデザイナーとして活躍後、英国王立美術大学院(RCA)でインクルーシブデザインと出合う。市民との共創による社会的課題解決を目指す、日本の先駆的なインクルーシブデザイン専門家。

 

まず、施設のなかの屋上公園の使い方に関する企画に関して、大学の先生がプロジェクト段階から関わっているという座組になった背景について伺いました。

 

「今回のプロジェクトの関係者が、たまたま平井教授と知り合いで。施設コンセプトとの相性の良さからお引き合わせいただき、『今こういうプロジェクトを企画しているのですが、良かったらご意見いただけませんか?』というのがきっかけでした」

と、西川さん。

 

平井教授は、九州大学芸術工学部でデザイン学を研究する教授であり、国内で2000年代初頭からインクルーシブデザインを提唱した先駆的研究者です。

 

大学を卒業後、コクヨ株式会社でデザイナーとしてのキャリアを積み、英国王立美術大学院(RCA)に留学、そのつながりでインクルーシブデザイン研究をRCAと始めました。「インクルーシブデザイン」の概念を日本に広める活動を行い、地域社会の課題解決やデザイン教育の現場で積極的に活躍しています。2000年代初頭から、日本ではまだ馴染みの薄かったインクルーシブデザインの必要性を主張し、教育現場や公共事業での活用を推進。その活動の中で、「デザインとは課題解決の手段にとどまらず、新たな価値を創造する力である」という信念を培いました。

 

平井教授のキャリアはデザインが持つ可能性を追求し、特に「すべての人がアクセスできるデザイン」から「多様な人々と共に価値創造するデザイン」への展開を目指してきたものです。

 

「インクルーシブデザインの本質は、多様な視点を取り入れ、課題を解決するだけでなく、新しい可能性を探ることにあります。例えば、『SOS(助けて!)』を感じる課題を発見し、そこから『WOW(すごい!)』デザインを引き出すプロセスが重要です」と平井教授は語ります。

 

 

 

OHASHI HILL開発までの経緯/きっかけ

福岡市の公募事業

OHASHI HILLプロジェクトは、この地にかつて存在した「ゆめアール大橋」の移転・廃止をきっかけに行われた跡地活用の推進事業に向け、新たな社会課題や価値観の多様化への対応を重視した開発事業者の公募が始まりました。「単なる商業施設ではなく地域住民が共に使い方を模索できる場を」というえんHDの理念が評価され、事業者との選定に至りました。

 

「福岡市が求めているのは、単なる経済的合理性だけではなく、市民と共に街づくりを進めるための具体的な提案でした。OHASHI HILLでは、地域の歴史を受け継ぎながら、新しい交流の場を生み出したいと考えました」と西川さんは振り返ります。

 

大橋駅前という好立地と文化を融合した新施設「OHASHI HILL」は、福岡市の街づくりの新しいモデルとして注目されています。施設の建設までの経緯を振り返ると、かつてこの地で親しまれた「ゆめアール大橋」の閉鎖・解体後、地域に開かれた暫定活用施設「OHASHIはらっぱ」も施設の理念の体現に大きな影響を与えています。

 

「OHASHIはらっぱ」とは?

2023年8月1日から2024年3月10日までの期間、地域住民が自由に使える広場として活用されました。この期間中、以下のようなプロジェクトが行われました。

 

●世界的庭園デザイナー石原和幸氏による「ウェルカムガーデン」:鮮やかな植栽が駅前を彩り、訪れる人々を迎え入れるデザインになりました。

●地元アーティスト津島タカシ氏とおおはし保育園のアートプロジェクト:仮囲いに津島さんのアートをかたどったシールを貼りました。地域の子どもたちとの共同制作を通じて、アートと人をつなぐ試みが実現しました。

 

>>当時の様子はこちら

 

 

「『OHASHIはらっぱ』の期間を通して地域の方々と直接触れ合い、この土地がいかに地域住民にとって大切な場所なのかを再確認しました。この経験が『OHASHI HILL』の運営に対する考え方に大きく影響を与えています」と西川さんは語ります。

 

「実は、ゆめアールのなかに本校の大橋サテライトがあったので、もともと親和性は高く、距離感が近かったんです。

九州大学大橋キャンパスからゆめアールをあらためて見つめなおすと、市民との交流であったり、ワークショップだったり、そういう文化がサテライトを通して身近にありました。OHASHI HILLに関しては非常に親近感を持って取り組んでいます」と、平井教授。

 

大橋駅前エリアはこれまでも地域と文化を結ぶ場として重要な役割を果たしてきました。その流れを受け継ぎつつ、新たな形で地域に貢献するのが「OHASHI HILL」の目指す姿です。

 

「OHASHI HILL」の名称の由来や背景

そんな「OHASHI HILL」は、都市と自然の共生をテーマに、「緑の丘のような立体的な都市型緑化」を行うというイメージで設計されました。このデザインには、訪れる人々が自然と調和した空間でリラックスできるようにとの想いが込められています。

 

また、福岡でアートを学ぶ学生たちが、自らの作品を気軽に発表できる場所が不足しているという課題に着目し、作品展示なども可能なスペースも設けられます。これにより、若いアーティストたちが地域社会とつながりを持つ場を提供します。

 

これらの取り組みを通じて、「みんなが『居場所感』を得られる場所」という理念を具体的なデザインとして実現しています。

 

こうした設計の一つひとつが、「インクルーシブなデザイン」であると言えます。誰かが考えた場所を別の誰かが利用するという一方通行ではなく、作る人と使う人が、作る前に「こうしたい」「こう使いたい」を一緒に考えたことが、この「OHASHI HILL」の画期的なポイントです。

 

 

 

OHASHI HILLが取り組む「インクルーシブな施設設計」とは

では、OHASHI HILLが取り組む「インクルーシブな施設設計」とは、具体的にはどんなものなのでしょうか?

今回、このプロジェクトで取り組まれたワークショップの経緯や出てきた声をもとに見ていきましょう。

 

 

理念の実現に向けた取り組み

施設設計段階において、平井教授のファシリテーションのもと、障がいのある方、高齢者・アーティスト・教育関係者など地域住民を対象にしたワークショップが複数回実施されました。これにより、利用者の多様なニーズや想いが計画に反映されました。

 

例えば、屋上公園はランニング等の用途に向けて、小規模な陸上トラックが敷設される想定でしたが、ワークショップの過程で「運動をする場所だと、自分はここにいてもいいとは思えない」という声が。一見、運動ができる場所は多くの人に開かれているように思えますが、運動することが難しい人からすると、そこは自分にとっては安心・安全でくつろげる場所とは思えない、という発見につながりました。

 

 

結果、人工芝を全面に敷設したフリースペースに計画は変更され、「走る人」と「くつろぐ人」が共存できる場所を創出するなど、細部まで利用者目線を重視した修正が行われました。

 

 

「最初のワークショップでは、多くの参加者が『自分たちが施設をどう使いたいか』を具体的に話し合うことで、施設の完成形に対する期待が生まれました。私たちはそれを受け止めながら、より多様な使い方を提案できる施設に仕上げました」と平井教授は振り返ります。

 

まさに、「SOS(助けて!)」を課題のままで終わらせず、ではどうすればよいかまでをみんなで考えることで、「WOW!(すごい!)」と思える使い方が生まれたんですね。

 

他の開発事業との違い

「OHASHI HILLの設計では、利用者が自分の使い方を見つけられる『余白』を意識しました。施設の用途を固定化するのではなく、使う人が自由にその価値を拡張できる仕組みを目指しています」と西川さん。

 

 

「インクルーシブデザインの真髄は、全ての人が『ここは自分が使いたい場所だ』と思えることです。この理念を具体化した点で、OHASHI HILLは画期的な取り組みだと感じています」と平井教授。

 

そして今後、こうしたインクルーシブデザインの考え方をもとにした設計が増えてくるうえでの「OHASHI HILL」の存在意義はますます大きくなるのではないでしょうか。

 

 

 

取材を終えて

えんHDは、マンションディベロッパーとしての豊富な実績を基に、「総合ディベロッパー」として新たなステージに進む転換点をOHASHI HILLに求めています。この施設は、「建物100%の完成度」ではなく、「利用者を含めた100%」を目指す新しい街づくりの形を提示しています。

 

 

「この施設を利用する人たちが自分の役割を見つけ、その結果として施設そのものが進化していくことを期待しています。OHASHI HILLがその出発点になればと思います」と西川さん。

 

「インクルーシブな考え方が全国に広がることで、社会全体が多様性を受け入れる文化を育む土壌ができると信じています。OHASHI HILLがそのモデルケースとして成長することを楽しみにしています。」と平井教授。

 

施設設計の一部にインクルーシブデザインを採用したOHASHI HILLは、利用者の多様性を包み込む設計思想を持つ画期的なプロジェクトです。えんHDが総合ディベロッパーとして新たな一歩を踏み出すこの施設は、地域住民と共に成長し続ける未来の街づくりの象徴となるのでは、と感じました。

 

 

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