生前整理や終活の進め方とは?介護職がアドバイスを求められた際のポイントを解説します!
本日のお悩み:生前整理や終活に関するアドバイス、介護職から伝えられることとは?
現在、デイサービスで働いているのですが、利用者さんのご家族から、終活について相談を受けました。その利用者さんは最近認知症の診断を受けたばかりで、症状が進行する前に生前整理を行いたいとのことです。
生前整理や終活などに関して、ご家族にポイントをお伝えしたいと思っているのですが、どのようなアドバイスがよいでしょうか。教えてください。
介護職としての専門領域の中でのアドバイスを意識しましょう
執筆者/専門家
羽吹 さゆり
https://mynavi-kaigo.jp/media/users/7
高齢者の3人に1人が認知機能に関する症状を抱えている
高齢化の進展に伴い、認知症と診断される人が増えています。令和4年度に政府が行った調査によると、65歳以上の高齢者のうち、認知症の人の割合は約12%、軽度認知障害(MCI)の人は約16%とされています。※
また、これらを合わせると、高齢者の3人に1人が何らかの認知機能の低下を抱えているということがわかります。つまり、認知症は誰にとっても他人事ではなく、事前の準備が重要な時代になったといえるでしょう。
※出典:政府広報オンライン知っておきたい認知症の基本
生前整理や終活はデリケートな問題!対応する際は慎重に!
介護職は、利用者さんやそのご家族から多様な相談を受ける立場にあります。介護技術や介護保険制度、各種サービスに関する質問が多い一方で、認知症の進行を見越した「生前整理」や「終活」に関する相談も増えています。
しかし、これらの話題はデリケートであり、対応には慎重さが求められます。特に、認知症の診断を受けたばかりの方は、症状が進行する前に整理を進めることが大きな安心につながります。
1.生前整理で介護職ができるアドバイス
そもそも生前整理とは?
まず、生前整理について考えてみましょう。
生前整理とは、自分が元気なうちに持ち物を整理し、必要なものと不要なものを選別することを指します。近年、高齢化の進行とともに、生前整理を専門とする事業者も増えてきました。
不要なものを減らすことで暮らしが快適になるだけでなく、死後の家族の負担を軽減する意味もあります。ただし、ご家族が本人の意向を確認せずに進めると、関係が悪化する可能性もあります。そのため、専門事業者が介入し、ご本人の意思を尊重しながら進めることでスムーズに進行するケースも少なくありません。
また、生前整理は物の整理だけではなく、財産や契約に関する整理も含まれます。特に、銀行口座、保険、年金、クレジットカードなどの情報をリスト化しておくことは、将来的にご家族が手続きを行う際に大きな助けとなります。
【具体例あり】生前整理に対して介護職ができるアドバイス
認知症が進行すると判断能力が低下し、先述した口座の管理や、契約関連や財産、物の整理などが困難となるため、早めに対応しておくことが望ましいでしょう。
そのため、介護職がご家族にアドバイスする際は、以下のような一般的な声かけがおすすめです。
2.終活で介護職ができるアドバイス
そもそも終活とは?
次に、終活についてです。終活とは、人生の最期に向けた準備を指し、お葬式や遺言、相続などに関する希望を整理する取り組みを意味します。
最近では「エンディングノート」の活用が一般的になり、財産管理に関しては司法書士や信託銀行などの専門サービスが広がりを見せています。終活は単なる準備ではなく、自分の人生を振り返り、残された時間をより充実させるための手段ともいえます。
【具体例あり】終活に対して介護職ができるアドバイス
利用者さんのなかでも特に、認知症の診断を受けた方の場合、意思を伝えられるうちに「どのような医療や介護を希望するのか」「どんな葬儀をしたいのか」「遺産の分配についてどう考えるのか」
といったことを整理しておくことが重要です。
これには、ご家族との話し合いの機会を作ることが欠かせないため、介護職がご家族にアドバイスをする場合は、以下のような声かけをしましょう。
人生会議を活用し、利用者さん・ご家族の双方に寄り添いましょう
人生会議(ACP)とは?
さらに、最期に関係するアドバイスなどを行うにあたって、介護職の方々には、「人生会議(アドバンス・ケア・プランニング:以下ACP)」の活用を推奨します。
ACPとは、利用者さん本人を中心に、ご家族や医療・介護の専門職が将来の医療やケアについて話し合い、意思決定を支援するプロセスを指します。かつては「最期について話すのは縁起でもない」と避けられがちでしたが、ACPの普及により、高齢期においても自分の意思を反映した生活が重視されるようになりました。
人生会議(ACP)の実践方法
ACPの実践としては、まず「利用者さんご本人の思いを丁寧に聞くこと」が大切です。
認知症の進行により意思を伝えにくくなったとしても、日常的に寄り添う介護職員が利用者さんの思いを汲み取ることは可能です。「何を大切にしているのか」「どのように生きたいのか」など、利用者さんの価値観を尊重しながら、最期に向けた医療や介護について話し合いを続けることが重要となります。
ご家族の気持ちに寄り添うことも忘れずに!
また、介護の現場では、利用者さんだけでなく、そのご家族の気持ちにも配慮することが求められます。認知症の進行に伴い、介護方針をめぐって家族間で意見が対立することも少なくありません。
こうした場合、介護職員が中立的な立場から、利用者さんの過去の言動や生活習慣をふまえた助言をすることで、家族間の調整をサポートできることもあります。時には、家族が抱える精神的負担を軽減するためのケアも重要となります。
最後に:柔軟な姿勢で質の高いケアやサポートを行いましょう
人生の終わりは誰にも予測できません。しかし、「自分らしい暮らし」を続けるために、どのような介護を受けたいのか、どのような治療を希望するのかについて、定期的に意思を確認し、主治医や介護関係者、ご家族と話し合うことが大切です。選択肢を考え、準備することで、万が一のときにも慌てずに対応できるでしょう。
介護職員の最大の強みは、利用者さんの「今」に寄り添えることです。利用者さんが本音を言葉にできるよう支えながら、その意思を尊重した支援を行うことが、介護職としての重要な役割ではないでしょうか。さらに、コミュニケーションを大切にしながら、継続的なケアを提供することで、信頼関係を築くことができます。
生前整理や終活に関する相談は増え続けています。すべての相談に対応するのは難しいかもしれませんが、介護職としてできることは、専門家につなぐ役割を果たしながら、利用者さんやご家族がスムーズに準備を進められるよう支援することです。介護職が専門性を活かし、柔軟な姿勢で対応することで、より質の高いケアを提供できるのではないでしょうか。
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