エヴァンゲリオンのテーマ曲「残酷な天使のテーゼ」どうして女性に支持されるのだろう?
来年リリース30周年「残酷な天使のテーゼ」
1995年10月4日。テレビ東京系で放送が開始されたアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』。そのオープニングを飾った「残酷な天使のテーゼ」が来年で発売から30周年を迎える。
時の流れの早さに驚くと共に、最初のテレビシリーズにおいて半年間しか使われなかった同曲が、ここまで愛され、歌われ続けるとは誰も予想できなかったはずだ。特に多くの女性がカラオケで歌い続けてきた理由は、歌詞の魅力が色褪せないからではないだろうか。
エヴァって一体何? 未完の最終回が引き起こした社会現象
14歳の主人公 “碇シンジ” がロボットに乗って謎の敵から人類を守る。『新世紀エヴァンゲリオン』は、さまざまな謎を散りばめながら、今までのロボットアニメとは違う空気感でファンの心を掴んでいった。
それは主題歌である「残酷な天使のテーゼ」についても同様で、そこには大きなテーマが隠されていた。当時ではありえないくらいのカット数を詰め込んだミュージックビデオ。そこにはよくあるアニメ主題歌のようにタイトルやロボットの名前は全く出てこない。
作詞家、及川眠子が明かした楽曲エピソード
蒼い風がいま 胸のドアを叩いても
私だけをただ見つめて微笑んでるあなた
そっとふれるもの もとめることに夢中で
運命さえまだ知らない いたいけな瞳
歌詞のテーマは子を思う母親の気持ち。ズバリ “母性” だ。子どもの成長を慈しみながら、来る運命を託すような内容。当時の熱狂的なエヴァファンの考察は歌詞にもおよび、テレビシリーズのストーリーに不在ながらも、キーポイントとなる主人公の母親 “碇ユイ” の心情を描いた歌詞だと解釈され、放送されていない裏設定の憶測にまで解釈が及んでいた。
この曲の作詞を担当した及川眠子は1989年の『日本レコード大賞』に輝いたWinkの「淋しい熱帯魚」などをはじめ、80年代末から90年代にかけてのアイドルポップスにはかかせない作詞家だ。彼女は著書『ネコの手も貸したい 及川眠子流作詞術』の中で「残酷な天使のテーゼ」について、高橋洋子が主人公の少年目線で歌うのに疑問を感じ “母親” “年上の女性” 目線で歌詞を書き上げたと語っている。
カラオケ人気を支える “大人の女性”
アニソンとしての人気とともにカラオケでも人気となった「残酷な天使のテーゼ」。難しいメロディーなのに歌っていて爽快感もありカラオケランキングでは長年上位をキープし続けている。この曲を歌う層は30代以上の大人の女性が多いようだが、その中にはまったくエヴァンゲリオンに興味が無く、アニソンにすら興味も無い人もいる。なぜこれほどまで女性に支持されるのだろうか。
女神なんてなれないまま 私は生きる
この楽曲のテーマは “子を思う母性” だと先に述べたが、しかしその反面、“あなただけが” “閉じこめたい” “悲しみ” など、愛情の裏返しのように “寂しさ” や “妬み” などネガティブなフレーズが散りばめられている。未来ある次の世代に置き去りにされてしまう不安や寂しさも併せて表現しているのだろう。こういった二面性が女性の支持を得て、じっくりと歌詞を噛み締めて歌いたい曲になったのだろう。
伝説から神話になる名曲
テレビアニメに始まり、社会現象を起こしながらショッキングなエンディングで終わる旧劇場版。2007年からはストーリーを再構築した新劇場版が始まり、2021年「シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇」でシリーズ全体として、四半世紀にわたる壮大な物語に幕が下ろされた。
アニソンとして「残酷な天使のテーゼ」の人気はこれからも続いていく。そして同時に、ひとつの流行歌として誰かの人生に寄り添う名曲としても歌われ続けるだろう。どんな物語で、誰が作って歌っていたのかさえぼやけてくる50年後、いや100年後も、大人の女性が口ずさんでいるかもしれない。楽曲が神話になる未来がきっとくるはずだ。