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大阪・淡路の中古サイクルショップ「タラウマラ」。地元民からカルチャー好きの若者まで幅広く受け入れる

LIFE

淡路駅から淡路本町商店街を歩くこと4分。中古自転車を扱うお店「タラウマラ」が見えてくる。表向きは、地元の自転車屋、だが店内に入ると本やレコードが並ぶ、カルチャーショップ!?取材中には、自転車の空気を入れに立ち寄る人や、修理をしてもらいに来る人、レコードと本を探しにくる若者など、年齢層も幅広い。そんなワイドな顔を持つお店を営んでいる、店主の土井政司さんにお話を伺った。

自転車屋から自転車屋へ

―お店オープンはいつ頃になりますか。
土井さん:オープンは、2020年の1月。ちょうど今年で5年目になります。
ここでお店をやる前は、同じ淡路でサイクルショップ「すずめ」という名前で中古のママチャリ屋さんを5年ほど営んでいました。そこがちょうど立ち退きになり、新たに店をやろうということで、屋号を「タラウマラ」として新しくお店を立ち上げました。

―「すずめ」の時も土井さんが一人で経営されていたんですか。
土井さん:もう一人、元々喫茶店をやっていたおばちゃんと一緒にやっていましたね。実務に関しては僕がほとんどやっていたんですけど、共同経営みたいな形ですね。

―元々、その喫茶店のおばさまが自転車屋をされていた…?
土井さん:いえ、まったく。彼女は喫茶店しか知らなかったんです。でもめちゃくちゃ飽き性で、いろんなことに手を出す人だったんですよ。次はこれが流行るって言ったら、それに手を出して、すぐもうええわって飽きる人で(笑)たまたま僕が出会ったタイミングに興味を持っていたのが自転車だった。「これからは自転車が流行ると思う。私は自転車をいじられへんから手伝ってくれる?」って。いじれるわけないやん!って言いながらも、一緒にやることになった感じです。

―「すずめ」で働かれる前はどんな仕事をされていたんですか。
土井さん:前はですね、ビル管理会社に10年ぐらい勤めていました。自分がビル管理会社の営業としてやれることはもうすべてやり切ったかなっていうところと、サラリーマンでやっていく限界を感じたというか…。もう自分でやるしかない、次はないんやろなと思っていたところで、喫茶店のおばちゃんに出会いました。

淡路で自転車屋をやること

―素人みたいな質問ですが、自転車がお店に届くまでにどんなルートを辿るんですか。
土井さん:いろんなパターンがあります。例えばお客さんが不要な自転車を持ってきて、それを買い取らせていただいたりとか、ご好意に甘えさせていただくこともあります。ほかには、近隣の不動産屋さんが管理しているマンションで、引越しされた時に放置された自転車を引き取る場合もあります。あとは、行政の入札ですね。駅とか違法駐輪で撤去された自転車っていうのが、一定期間プールされて、それで持ち主が見つからない場合は入札にかけられるんです。それを競り落とすというパターン。入札の金額が、この5年、10年で何十倍とかに上がってしまっている現状があって、なかなか僕らが勝ち取ることができない状況です。
少し前までは、あふれるほど中古の自転車があったんですけど、円安で海外に流れていくようになったんですよ。日本国内で業者から買い取る値段よりもはるかに高い金額で海外の人たちが買い取っていくので、敵わないですよね。

―回収した自転車は、もちろん手入れをされて、販売をされるんですよね。
土井さん:そうですね。ダメなパーツはすべて交換して、ピカピカに磨いて、次の持ち主さんに見つけていただくような形で提示しています。


―そもそも土井さんはこの周辺ご出身ですか。土井さん:元々うちの祖父母が淡路出身で、僕はすぐ近くの吹田に住んでいたんですけど、淡路も幼少期の頃から慣れ親しんだ街です。18歳ぐらいの時からは淡路で一人暮らしをしていました。そして、吹田か淡路かで見たときに、商売するんやったら淡路の方がいいなあと思いました。自分の性に合っているというか。自分の人間性を受け入れてくれるのは淡路という街やろなと。―それはどういう面で感じられますか。土井さん:良くも悪くもほんとに適当やし、いい意味で全然丁寧ではない(笑)おっちゃん、おばちゃんが気軽に話せるような環境やし、通りかかって目が合ったらコミュニケーションが始まるのが淡路の街のいいところだと思います。その感じが自分にはもうめちゃくちゃぴったり。吹田と淡路って阪急線で3駅しか変わらないけど、ここまで街の色が違うんやなと思いますね。―少し話が変わりますが、「タラウラマ」という店名はどこから来ているんですか。
土井さん:タラウマラ族ってメキシコの民族なんですけど、僕、メキシコにも行ったことないですし、メキシコへの造詣が深いわけでもない。僕の好きな哲学者のアントナン・アルトーって人が、一時期このメキシコのタラウマラ族と一緒に過ごしたルポルタージュを「タラウマラ」という本で紹介したんですね。それを読んだ時に、感銘を受けるところがあったんです。タラウマラ族の人たちって、場所にもお金にも執着せず、自分たちが自由に生きていけるような生き方を模索しているんです。基本的には移牧の民なので、定住しなくて、転々と場所を移動していくんですけど、その移動をするための資金を作るために、服を作ったり靴を作ったり、いろんなものを手作業で作っては街に下りて、フリーマーケットをして、売ったお金で移動するんです。でもむちゃむちゃ金遣いが荒いらしく、この移動期間中に全部使い込んでまうらしいです(笑)タラウマラ族が移動すると街が繁栄するいわれがあるくらい。そういうところもすごくいいなと思って。僕も貯蓄とか全くできない人間で、できれば自分の気持ちいいお金の使い方をしたいっていうのがあるので、そこも含めて店名をつけました。

カルチャー好きの若者が目掛けて訪れる店

―自転車だけではなく、レコードや本もたくさん置いてらっしゃいますが、お店を始める前からこういったスタイルのお店をイメージされていたんですか。
土井さん:サイクルショップ「すずめ」の時もこういう感じで、ちょっと本とレコードを置いていたんですけど、それで商売をしようというよりは、自分の好きなものに誰か一人でも興味を示してほしいなっていう思いがあって。その思いがタラウマラを作ってからより大きくなりました。

―基本販売されているのは、古本が多いですか。
お客さんから買い取ることもされるんですか。土井さん :そうですね、ほとんど古本です。基本は自分の読んだものですね。全部自分が読んでこれおもろいで、おもろないでって完全に言えるほどの本屋ってないじゃないですか。僕のところは完全にそれが成立していると思いますね。全部読んでいるので。お客さんが買おうとしていたらそれおもんないですよ、っていうのも言えちゃう(笑)

土井さんが携わったZINE。右から短編小説『A BOUT ALISSA』1760円、エッセイ+対談『PATSATSHIT』1500円、「平凡な生活』2000円。上部は購入特典のしおり。
土井さんの息子さんが描いたイラスト付きしおりは、書籍購入の方にプレゼント!

―あと、土井さんが作られているZINEもありますよね!
土井さん:そうですね。「平凡な生活」は2025年7月7日に発売した、できたてほやほやの最新号です。それは日記なんですけど、かつて頭から尻尾までシルクスクリーンで完結させていたものを、数年の時を経て文庫化したんですよ。

―著者名が「DJ PATSAT」とありますが、 土井さんはDJもされるんですか。
土井さん:いえ、しません(笑)音楽は聞く専門です。DJ PATSATはペンネームです。ステーションATMにPat Satというシステムがあってそこから来ています。適当ですね。何の深い意味もありません!

―内装は手を加えられたんですか?当時、どんなお店をイメージして作られましたか。
土井さん :自分たちで壁を白く塗ったくらいですかね。あとはそのままで、棚などの什器も全部作っていったって感じですね。元々あった壁紙があまり好みじゃなくて、とにかくその壁紙を白く覆い隠したかったんです。あとは、あえて本棚もまっすぐじゃなくて、ずれるように全部ガタガタに設置しました。はまることを意識的にずらすような店作りにしています。自転車屋であり、本屋であり、レコード屋でありみたいなところがあるので、型にはまらずに対応していけたらいいなという思いを、お店の中でも表現しています。


―お店としての顔がたくさんあるから客層も幅広いですよね。土井さん:良くも悪くも、すべて中途半端。プロフェッショナルな店って、やっぱりその専門を求めて来られるじゃないですか。自転車もプロのショップってなると、自転車に乗っている人たちが、技術を求めてくるけど、僕はそんなんじゃないので。自転車屋としても、本屋としてもレコード屋としても中途半端。でもそれを僕はポジティブに捉えていて、どっちにでも転がれる、タラウマラ的なあり方やなと思いますね。

―自転車屋さんとしては、買取・修理・販売もされていますがレコードも同じですか。
土井さん:そうですね、レコードも本も基本的に持ってきてくれたものに関しては買取ります。ただ1点だけ、ほんとに淡路の人を信用できないところは、全くええもんが来ないんですよ!この5年間、気の利いた本とかDVD、レコードが集まらなくて困っています。そこもまた好きなところではあるんですけどね。基本的には僕が聴いていたレコードです。

壁面には、彫り師のameさんが描いたイラスト

―仕入れもされているんですか。
土井さん:新譜に関しては、直接アーティストから仕入れたり、特定のインディペンデントなインディレーベルから仕入れたりしているんですけど、中古に関しては仕入れはしていないですね。自分がしばらく聴いて、飽きて手放すっていう感じで店頭に並べています。ちなみに書くことに対しても同じジャンルを書き続けることができなくて。小説を書いたら飽きて次はエッセイ。エッセイに飽きたら日記みたいな感じで、同じ作品を続けることができない人間なんですよ。仕事も一緒で、自転車のことだけやっていたら気が狂いそうになる(笑)本だけ書いていても気が狂いそうになるし、今のバランスが僕の生き方としてはベストですね。中途半端人間を極めたいなと思いますね。

―次はどんな本を出される予定ですか。
土井さん:次はね、今動いているのがレコード型の本。7インチレコードに僕の話をつけるっていうレコード的なZINEです。

―楽しみにしています。今日はありがとうございました。

人と人の距離感が近い街・淡路

今回ご紹介した「タラウマラ」の最寄りの淡路駅は、阪急京都線と千里線、JRおおさか東線が乗り入れる駅です。阪急電車は準急、急行、準特急、特急、快速特急が停車するので、大阪梅田駅へはもちろん、1時間弱で京都河原町駅にアクセスできます。またJR東おおさか線を利用すれば、新大阪駅まで約5分、大阪駅まで約10分となります。大阪、京都へのアクセスが良好なうえ、駅近くには淡路本町商店街、東淡路商店街と二つの大きな商店街があり、店も人もにぎわいを見せています。

取材・文/葭谷うらら(インセクツ) 大原康二郎(BRAT)

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