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落合陽一「2026年にはほとんどの知的作業がAIに置き換わる」人間に残される仕事は“とげ作り”

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落合陽一「2026年にはほとんどの知的作業がAIに置き換わる」人間に残される仕事は“とげ作り”

生成AIの急速な進化は私たちの仕事や働き方にどのような影響を与えるのか。そして、近い未来にどんな変化が訪れるのか。

アーティスト、科学者、大学教員、 経営者……いくつもの顔を持ち、デジタルと自然の融合で日本社会のアップデートを目指す落合陽一さんに、未来予想とこれからの時代を牽引するリーダーたちに求められるスキルやマインドを語ってもらった。

2026年にはほとんどの知的作業がAIに置き換わる


人間に残される仕事は「とげ作り」

―生成AIは今どのくらい進化しているのでしょうか。

今や生成AIの賢さは、既に半数以上の人間を凌駕したといわれています。AIが書いた小説や絵画が有名な賞を受賞したというケースは増え続けていますし、実写のような動画やプロが作成するような音楽を素人が作ることも簡単になりました。

ビジネスでの生成AIの利用も増えています。単純作業や誰がやっても同じ結果になる作業をAIに任せることで「定型作業の非人間化」が進む他、CM制作や金融データの分析をしたり、旅行プランや勉強方法を提案したりといったこと にも生成AIを活用する企業が出てきています。

―従来のホワイトカラーが担っていた仕事までもが、生成AIに代替されつつあるのですね。人間には今後どのような仕事が残されるのでしょうか。

体力仕事は意外と残ると思います。一方、知的作業のほとんどは2026年の頭までにはほぼAIに置き換わるでしょう。

「考える仕事」の量が圧倒的に減り、AIが作業をするために必要な条件を整える「環境構築」が主な人間の仕事になるはずです。

もう一つ、人間に残されるのは「とげ作り」ですね。文章でも何でも、人が「面白い」と思うものには少しとがった部分、つまり論理的な飛躍の要素が含まれています。

ところが、AIはそれを考えるのが苦手です。基本的に学習データで出来ているので、「もっと面白くして」「もっと興味深くして」といった指示に答えるのはあまりうまくありません。したがって人間らしい「とげ」を生み出すことは、まだしばらくは人間の仕事であり続けると思います。

―では、生成AIに置き換えられやすい仕事には、どのような特徴があるのでしょうか。

最も置き換えられやすいのは「人対データ」の仕事です。データを直接いじるタイプの仕事は、生成AIの得意ジャンルの一つだからです。このタイプの仕事の代表格は、ソフトウエアエンジニア。この職業でこれから生き残るためには、コードを書くよりも高度な技術が求められるでしょう。

また事務職やカスタマーサービスも、音声やテキストなどのデータを扱っているという意味では、業務効率化されやすい仕事の代表格です。例えばマイクロソフトの『Copilot』というサービスは、書類作成からメール返信までさまざまな事務作業をサポートします。

こうしたツールが進化すれば、企業は今ほど事務職を雇う必要が無くなるかもしれません。また弁護士や会計士、税理士などの士業も、データを扱うという意味では、今後代替されていく可能性は高いと思います。

一方、AIに置き換えられにくいのは「人対機械」「人対人」の仕事です。「人対機械」の仕事は、先ほど言った体力仕事に当てはまります。自動車工や整備士など、実際に機械に接する仕事は、生成AIのサポートを受ける部分はあるかもしれませんが、仕事自体がAIだけで終わるようになることは少ないでしょう。

そして「人対人」の仕事は、生成AIが発達した後も、あまりかたちを変えずに残り続けると思います。医師や運転士、管理職、教師などは、人と対面で接することで成立する仕事なので、生成AIでは代替できないからです。

好奇心を持ち続けられる人の数はごく少数


「もっとこうしたい」という意志を示せる人は強い

―人間の仕事が機械に代替されていく流れは、今後も続いていくのですね。

そうですね。ディープラーニングの登場によって、人工知能が人間を超える瞬間=「シンギュラリティ」や「マルチラリティ」が近い未来に訪れる可能性は、確実に高まっています。

そうした技術革新が起これば、今ある人間社会の仕事が変化を遂げていくのは避けられません。すると、人間の仕事は機械に奪われるどころか、人間自体がシステムに組み込まれることすらあり得ます。

フードデリバリーサービスはその典型でしょう。ほとんどの仕事はサーバー上で自動的になされて、品物を届けるところだけ人間が請け負うのですから、機械が人間を道具のように使っているともいえます。

その一方で、機械に代替されにくい人材も居ます。それは「もっとこうしたい」という意志を持つ人間で、私はそういう人たちのことを「クリエイティブ・クラス」と呼んでいます。例えば、映画監督や建築家、会社のCEO、アーティストなどです。

―「クリエイティブ・クラス」とはどのような人たちなのでしょうか。

一言で言うと「創造的専門性を持った知的労働者」です。彼らはAIには無くて人間にだけある「モチベーション」を持っています。今のところ「人間社会をどうしたいか」「何を実現したいか」といったモチベーションは、常に人間の側にあるので、それをしっかり持って実装する方法さえあれば、システムに「使われる側」ではなく「使う側」で居られるのです。

ちなみに「モチベーション」というと、その先のやり抜く力までセットで必要だと思われがちですが、今はAIがありますから、作業やその後の工程はAIに任せるという手もある。純粋な好奇心があれば、それだけで強いと思います。

私は仕事柄さまざまな学生や社会人と関わってきましたが、「この世界で誰もやったことが無いことに対する好奇心」を持ち続けられる人の数は、かなり少ない印象です。僕自身は永遠にやりたいことがあって、好奇心が尽きないのですが。

僕も含めて「もっとこうしたい」だけを仕事にしている人は、AIに仕事を奪われることは無いと思います。

「頭で理解しているだけの人」と「行動に移す人」


その違いが後に大きな差となる

―これからの日本を担う未来のビジネスリーダーたちは、今どんな力を養うべきでしょうか。

「哲学」「こだわり」「諦めない」の三つだと思います。「哲学」とは、一人一人の価値観の基盤となるような、その人固有の世界の見方です。哲学があればおのずとやるべきことの方向性が定まるので、好奇心やモチベーションを持ちやすくなります。

「哲学」を持つ人は、常に自分の問題について考え続けています。ネットや人から聞いた情報を安易に自分の意見とはしません。情報を調べて一見答えらしきものを手にしたときでさえ、改めて自分で考える習慣があります。

そして「自分がなぜ今の時代にこれをやる価値があるのか」をちゃんと考えているのです。自分以外の「誰か」を目指すのではなく、自分自身の価値を信じ、自分で自分を肯定して、己の価値基準を持つことを大切にしています。

―では「こだわり」とは、どのような力でしょうか。

これは先述した「これがやりたい」という気持ちを実行に移す行動力です。今はこれだけ生成AIが発達しているので、事実上全ての人間がプログラムを書くことができると思います。

家で音楽も作れるし、核融合装置だって作れる。実は先日Xを見ていたら、ハードウエアもいじったことのない大学生が1カ月かけて家に核融合装置を作り上げたというポストがあったんです。ということは彼だけでなくて、誰もが同じようなことができるということですよね。それにもかかわらず、実際は誰も核融合装置を作りません。

それどころか、生成AIを使ってプログラムを書くことすらしない人がほとんどです。今の技術を使って何ができるかを理解しているだけの人と、それを使って実際に行動に移す人との間には、雲泥の差があるといえます。

「クリエイティブ・クラス」となる人には、とりあえず走り出すことも、時には重要です。訳知り顔で社会を批評しても、実際に動かないと出遅れてしまいますから、手を動かすことで常に学び続ける姿勢が求められます。

―そして「諦めない」力が大切なのですね。

そうなのですが、実は今日、僕はタスクを一つ諦めました。ついさっきまで、展覧会用に画像をリアルタイムで高解像度化するプログラムを書いていたのですが、本当は一枚を0.06秒で処理できるようにしたかったんです。ところが計算機資源の限界によって、0.5秒以下にはできませんでした。

つまり僕は「時代が追い付いていない」という理由で諦めざるを得なかったのです。

しかしほとんどの人にとって、何かを諦める理由は「面倒くさいから」ではないでしょうか。「時間が無いから」もその一つ。諦めざるを得ない論理的な理由ができる手前のポイントで、勝手に納得して手を止めてしまうんです。それは本当にもったいないと思います。

生成AIを含めてコンピューターが人間の社会にもたらす変化は、単に「昔より便利になった」とか「生活が楽になった」という次元のものではありません。それはもっと根本的なレベルで、人間の生き方と考え方に変革を求めるものではないでしょうか。

そういう時代には「コンピューターには不得意で、人間がやるべきこととは何か」を徹底的に模索する必要があります。

これからの時代をつくる若い人たちには「こんな社会にしたい」「世界をこう変えたい」という強くて人間的なモチベーション、そして広い視野のもと強靭な世界観を自分の中に育ててほしいと思います。

メディアアーティスト
博士(学際情報学)
落合陽一さん

筑波大学でメディア芸術を学び、2015年東京大学大学院学際情報学府にて博士(学際情報学)取得。現在、メディ アアーティスト・筑波大学デジタルネイチャー開発研究センター センター長/図書館情報メディア系准教授・ピクシーダストテクノロジーズCEO。ヒューマンコンピュータインタラクションを専門とし、研究論文は難関国際 会議SIGGRAPHなどに複数採択される。令和5年度科学技術分野の文部科学大臣表彰、若手科学者賞を受賞。内 閣府、経産省などの委員、25年大阪・関西万博 テーマ事業プロデューサーとして活躍中。計算機と自然の融合を 目指すデジタルネイチャー(計算機自然)を提唱し、コンピューターと非コンピューターリソースが親和することで再構築される新しい自然の実現や社会実装に向けた技術開発などに貢献することを目指す

取材・文/一本麻衣 編集/玉城智子(編集部)

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