読むべき「名著」はどう選ぶ? 読書系インフルエンサー「ぶっくま」さんと「100分de名著」テキスト編集部が特別座談【100分de名著キャンペーン】
本の特徴が一目でわかる独自の「ぶっくマップ」を作り、“学びのための本”について発信をしている読書系インフルエンサー・ぶっくまさん。
今年のNHK「100分de名著」シリーズ夏のキャンペーンでは、そんなぶっくまさんとコラボレーション!
「100分de名著」シリーズのオリジナル「ぶっくマップ」が、全国の書店で展開中です。
さらに今回、ぶっくまさんと「100分de名著」シリーズ編集部が特別座談会を開催しました。ぶっくまさんのマップの作り方や「100分de名著」 シリーズの読み方、編集部の制作裏話まで、たっぷりとお届けします。
(進行:NHK出版デジタルマガジン編集部)
「ぶっくま」さんプロフィール
読書系インフルエンサー、「学び読書」のスペシャリスト。
SNSを中心に本と読書術について発信。本の特徴が一目でわかる独自の「ぶっくマップ」が評判を呼び、SNSのフォロワーは10万人を超える。個人事業主として業務をしながら、「本をつなぐプロジェクト」を立ち上げ、出版業界を盛り上げる活動を事業として展開中。著書に『「知る」を最大化する本の使い方』(翔泳社)がある。本をつなぐ株式会社 代表取締役。Xアカウント https://x.com/Book_Meyer
100冊の本の紹介が、「ぶっくマップ」誕生のきっかけ
──今回、どのような経緯でぶっくまさんとのコラボレーションが実現したのでしょうか?
編集部:ぶっくまさんがご著書のなかで「100分de名著」を紹介してくださっていたことが、オファーのきっかけでした。
「100分de名著」シリーズは、古今東西の名著をわかりやすく解説するNHKの番組テキストに加えて、テキストをもとにした愛蔵版の「100分de名著ブックス」と、テーマや作家ごとにスペシャルな内容をまとめた「別冊100分de名著」があります。今年の夏のキャンペーンは、この「ブックス」と「別冊」をメインに展開しています。刊行点数がかなり増えたので、何から読めばいいかわからない方のために、ぶっくまさんに「100分de名著」シリーズのマップを作っていただいて、書店で展開しようという話になったんです。
──今、多くの書店でそのマップが見られるわけですね。ところでぶっくまさんは、いつ頃から本について発信されているのでしょうか?
ぶっくまさん:XなどのSNSでの発信は、始めてからもうすぐ6年になります。最初は本の紹介ではなく、本で得た学びや読書術について投稿していたのですが、その後に学んだ本そのものを紹介するようになったんです。
取り上げる本は、ビジネス書や歴史書や哲学書、今回のような名著などで、「学びのための読書」をメインに発信しています。
──「ぶっくマップ」を作り始めたのには、何かきっかけがあったのですか?
ぶっくまさん:3年くらい前だったと思うのですが、通常は1冊か2冊ずつ本を紹介していたところを、100冊まとめて紹介してみたら、とても反応がよかったんです。ただその中に、「こんなにたくさん紹介されたら選べない」という意見がありまして。
確かにそうだなと思いました。そこで考えたのが、一目でパッと本の特徴がわかる「ぶっくマップ」を作ることでした。タテとヨコの2軸をもとにしたマップに本を配置すればわかりやすいのではないかと。本業の仕事で使っていたポジショニングマップがヒントになりました。
──100冊分のマップはどのように投稿されて、反応はどうだったのでしょうか。
ぶっくまさん:25冊を1枚のマップにまとめた「ぶっくマップ」を、テーマ別に4枚作って、100冊の本を紹介した翌日に投稿しました。するとありがたいことに、2万くらい“いいね”がついたんです。それがブレイクポイントになった感じですね。
最初は自分のために読書をして、その学びをSNSで発信しようと軽い気持ちで始めたのですが、それがだんだんと拡散するようになって、今では出版業界を盛り上げようという活動にまでつながっています。
「100分de名著」シリーズがぶっくマップに!意外な配置も……?
──今回作っていただいた「100分de名著」シリーズのオリジナル「ぶっくマップ」は、なぜこのような2軸にしたのでしょうか?
ぶっくまさん:私がマップを作るときに大事にしているのは、読者にとって選びやすい軸であることです。本のジャンル分けって、どうしても作り手や届ける側の視点に偏りがちだと思っていて、いつも読者の目線で考えるように意識しています。
今回は横軸の左側が、「社会・世界・制度」で、右側が「個人の生き方」です。自分の悩みを解決したいとか、個人の生き方のヒントにしたいと考える人は右側に近い本を、そうではなく社会問題に目を向けたいとか、より俯瞰した視点で社会や世界のことを考えたい人は左側の本を選べるような軸になっています。
縦軸は、上の方が物語を感じながら読めるもの、下の方が論理的な刺激を得られるもの、という視点で配置しています。物語と論理のどちらが好きかは、人によってタイプが分かれると思うので。
編集部:読者は自分の読書スタイルをある程度知っておいた方が、選びやすそうですね。ちなみに、ぶっくまさんはどんなタイプですか?
ぶっくまさん:私は、縦軸でいうと論理的なものの方が頭に入りやすいタイプです。だからといって、マップの下の方の本ばかりを読むのではなくて、上の方にもチャレンジしてみようと思っています。こうやって本がタイプ別に可視化されていることで、自分の好みの偏りにも気づけるのではないでしょうか。
──「100分de名著ブックス」と、「別冊100分de名著」をマッピングしてみて、面白かったことはありましたか?
ぶっくまさん:面白かったのは、横軸の配置ですね。
たとえば『大乗仏教』『般若心経』『歎異抄』の3冊は、「仏教」というジャンルは同じですが、『般若心経』『歎異抄』はテーマが個人の視点に寄っているもの、自分ごととして捉えやすいものだと感じたので右側に配置しました。一方で、複数の宗派について解説している『大乗仏教』は、より広い視点から仏教を見ていて、宗教を通して社会を捉えているように感じたので、左側に配置しています。
こんなふうに、近いテーマでも捉え方によって受ける印象が変わることが、自分としても新しい発見であり、面白かったですね。もちろんこの捉え方は、人によって異なるのかもしれませんが。
──マッピングする際に難しかったことはありますか?
ぶっくまさん:難しかったことも、同じく横軸の配置ですね。縦軸についてはわりと悩まずに配置できたのですが、横軸はかなり迷いました。
たとえばカフカの『変身』は主人公が「虫けら」になって悩むことを個人的なテーマとして捉えるなら右側だと思ったのですが、「100分de名著ブックス」では、特別章で「介護」や「家族の孤立」という視点での新たな読み方が提示されています。そうなると、これは社会や制度を考える作品とも言えるのではないかと。いろいろ考えた末に真ん中に配置しました。
──編集部は「なぜこの名著がこの配置に?」と気になるものはありましたか?
編集部:「別冊100分de名著」の『夏目漱石』が左側に配置されているのが興味深いです。社会や制度寄りにされたのはなぜですか?
ぶっくまさん:たとえば「三四郎」という作品には、当時の社会で生きる三四郎の苦悩が描かれていて、応援したくなります。こういう人物が社会の中でどういう立ち位置で生きているのか、社会との関わりについても考えさせられるという点で、やや左側に配置しました。
一方で、「別冊100分de名著」の『宮沢賢治』は、自然に対して個人がどう向き合っていくかという学びがあったので、右側に配置しています。
編集部:なるほど、納得しました。「別冊100分de名著」の『平家物語』は下の論理の方に配置されていますね。これも意外だなと思いました。
ぶっくまさん:『平家物語』は物語ではありますが、「別冊100分de名著」ではたとえば「なぜ無能な人をリーダーにしたのか」といった問いを通じて、このストーリーが示唆するものが解説されています。私としては論理的に読み解く印象を受けたので、下の方に配置してみました。
ぶっくまさん的「100分de名著」シリーズの読み方、使い方
──「100分de名著」シリーズは、どんなふうに使えばよいと思われますか?
ぶっくまさん:「100分de名著」シリーズは、難しい本を読み解くだけでなく、「知らない本と出会う場」にもなるのではないでしょうか。名著といってもたくさんあるので、あまり読書習慣のない方にとっては、まだ知らない名著もあると思うんです。「100分de名著」で気に入った本に出会ったら、原著も読んでみたくなるかもしれません。世界の名著に挑戦するきっかけにもなりますね。
──「100分de名著」シリーズのおすすめの“読み方”も、教えていただきたいです。
ぶっくまさん:このシリーズは基本的に4章構成になっているので、読むときも1回につき1章ずつ読んでいくと分量的にちょうどいいと思います。1章読んだら一度ざっと読み返して、自分が共感できたポイントや印象に残った文章などを振り返るのがおすすめです。それを4回繰り返すと、一冊の内容をいいペースで学べるのではないでしょうか。
編集部:今日持ってきてくださった「100分de名著」シリーズには、たくさん付箋が貼ってありますが、今のお話とも関係がありそうですね。ぶっくまさんはどういう所に付箋を付けているのですか?
ぶっくまさん:まずは自分が印象に残った所です。それから、結論が書いてある部分ですね。だいたい各章ごとに、大事な要素が短い言葉でまとめられている一文があるので、そこに付箋を付けておくと後で読み返すときにパッと要点をつかみやすくなります。
──編集部は、「100分de名著」シリーズをどのように編集されているのでしょうか?
編集部:ぶっくまさんが仰ったような、内容を端的に表す言葉や文章を、できるだけ生かせるように意識しています。
あとは、本文中の小見出しも大切にしています。章ごとの内容を充実させつつ、4章全体が大きな流れとなって、読者をゴールへ導いていけるような編集を心がけています。
それと、扱う名著によって、読み方のどこにポイントを置くかを変えることもあります。たとえば難解な本であれば、理解のきっかけになるトピックを探してそこにポイントを置きますし、文学など比較的読みやすい本の場合は、今の時代に読む意味であるとか、新しい視点での読み方にポイントを置くことが多いですね。
──カバーや帯に書かれているキャッチコピーも、編集部で考えているんですよね? キャッチコピーは編集部が苦労している部分だと思いますが、ぶっくまさんは印象に残っているものがありますか?
ぶっくまさん:「100分de名著ブックス」であれば『般若心経』の帯に書いてある、「262文字の”呪文”」は印象に残っています。ミステリアスな感じに心をひかれました。あとは、ブッダ『最期のことば』の帯には、「ブッダが最後の旅で説いたのは「組織のあり方」だった」と書かれていて、なんで組織なんだろう?ってすごく気になりましたね。
編集部:ありがとうございます。注目していただけてよかったです(笑)
ぶっくまさんお気に入りの「100分de名著」シリーズは……?
──今回「ぶっくマップ」にしていただいた20冊の「100分de名著ブックス」「別冊100分de名著」のなかで、特に印象に残ったものはありますか?
ぶっくまさん:「100分de名著ブックス」の、『日本の面影』と『般若心経』ですね。
『日本の面影』は、小泉八雲が外国人の目から見た日本を描いたものですが、ある意味日本人よりも鋭い感性と美しい文章で、明治の日本と当時の人々の様子が書かれていることを知って感銘を受けました。個人的には、盆踊りとか、それまで気にしていなかった身近な日本の文化を見直すきっかけになり、原著も買いました。
編集部:『般若心経』は人気の一冊ですが、選ばれた理由はなんですか?
ぶっくまさん:先ほどキャッチコピーの話でも出てきましたが、「262文字」という短いお経の文章のなかに、いろいろな言葉と意味が詰まっているのがすごいなと。
『日本の面影』の小泉八雲は、全身に般若心経を書いた「耳無し芳一」の話を作品に残していますが、ここで『般若心経』とつながっているのも面白いなと思いました。私のマップ上では、ちょうど対極にある作品なのですが。
編集部:対極にある2冊の名著に、つながりがあるというのは面白い発見ですね。
──最後に、「100分de名著」シリーズの「ぶっくマップ」を活用される方へ、何かアドバイスはありますか?
ぶっくまさん:この「ぶっくマップ」には載っていないものも含めて、「100分de名著」シリーズは全体的にどれも読みやすいということを、まずみなさんに知ってもらいたいですね。
そのうえで、まずはマップを見て、最初は自分のタイプや読みたい方向に沿う本を選んでもらうといいと思います。物語タイプなのか論理タイプなのか、個人の生き方に興味があるのか、社会や制度に興味があるのか、ということを考えていただいて。
その次に、自分の興味関心とは逆のものにも挑戦してみると面白いのではないかと思います。右上の方の本ばかりに興味があるという方は、一冊だけ左下の方の本を手に取ってみるとか。そんな選び方をしてみると、名著を通じてどんどん世界が広がっていくのではないでしょうか。
今回ご紹介した「名著」読み解きのためのNHK「100分de名著」テキスト、別冊、およびブックスは、全国の書店およびNHK出版のホームページからご確認いただけます。
2025年7~10月まで、抽選でオリジナル図書カードがもらえる&応募者全員が電子書籍が読めるなど、各種イベント盛りだくさんのNHK「100分de名著」シリーズキャンペーンが全国の書店で開催中です。
◆構成・執筆 吉木千依
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