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【深刻化するクマ被害】クマによる人的被害が東北を中心に相次ぎ、4月から10月までの死傷者は全国で200人に迫る。災害級の異常事態と言え、短期、長期の包括的な対策が必要だ。

アットエス

静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「深刻化するクマ被害」。先生役は静岡新聞の川内十郎論説委員です。(SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」。2025年11月25日放送)
(山田)クマの被害が連日のように報道されています。静岡市葵区瀬名でも目撃情報がありました。

(川内)私も驚きました。11月23日に常葉大キャンパスのグラウンド北側の斜面で目撃されたと報じられました。山間部ではなく、周辺は住宅地という印象です。

人身被害は過去最多のペース

(山田)被害の現状を教えてください。

(川内)4月から10月までの死傷者は、東北を中心に全国で196人。過去最多のペースで推移していて、死者は11月に入ってからも含め13人を数えます。これは、これまで最多だった2023年度の6人の倍以上です。

ちょうど2年前の「3時のドリル」でもクマ被害の多発を話しましたが、特に今年の秋以降は「新たな段階に入った」と言える、過去最悪の異常事態です。

(山田)影響は多岐にわたるようですね。

(川内)人の生活圏への出没が相次ぎ、死傷者の約7割は市街地など人里で被害に遭いました。マラソン大会など屋外イベントの中止や学校の休校などを余儀なくされています。

特に深刻なのは、地方経済を支える観光産業への打撃です。紅葉見物やハイキングなど屋外活動の自粛、旅館が売り物の露天風呂を取りやめるなどがあり、地方の衰退を加速させかねません。

(山田)露天風呂を掃除中の人が襲われて亡くなったという、痛ましい出来事もありました。

(川内)住民は「命を守る」ために、恐怖におびえながら外出を控えていると聞きます。「街中に刃物を持った人が潜んでいるようなもの」と例える声も。

ウオーキングやランニングができないため、運動不足による健康被害を懸念する医師もいます。飲み会の自粛もあるようです。

(山田)コロナ禍の時のようですね。

(川内)まさにそうで、「精神的圧迫感は、コロナ禍以上」とも聞きます。

なぜ人里への出没や被害が相次ぐのか

(山田)夏の猛暑で木の実が少ないのが影響しているとニュースで聞きました。

(川内)昨年は主食のドングリが豊作で繁殖活動が盛んだった一方、今年は大凶作。クマ数に対するエサ不足で市街地に出る「アーベンベア」が増加したとみられています。豊作、凶作のサイクルがほぼ1年おきと短くなっていて、再来年が怖いという予測もあります。

(山田)そうか。豊作の後の凶作が引き金なんだ。

(川内)中長期的な話としては、過疎化で「緩衝帯」となっていた里山が荒れ、クマと人の「すみ分け」が失われた影響が大きいと分析されています。パワーバランスが崩れたということです。

(山田)2年前の「3時のドリル」でも十郎さんに教わった気づきですが、人が少なくなるというのは根本的な要因ですね。

(川内)保護政策もあって捕獲が減り、生息数は増え、分布域も拡大しています。

(山田)クマの絶対数も増えているんだ。

(川内)クマは学習能力が高く、「街に行けばカロリーの高いエサを食べられる」「あそこの柿は安全に食べられる」などのことを学んだ「スマートベア」も増えています。「新世代グマ」の呼び名も。

柿はクマの好物で、キーワードとも言えます。岩手県でクマの親子が柿の木に連日とどまる様子も報道されました。行政も、クマを誘う恐れのある柿の木の伐採に力を入れています。

(山田)クマがどんどん賢くなっているわけですね。リスナーから声が届いています。「埼玉の川越の高校では、毎年恒例の強歩大会がクマの関係で中止になりました」「細江町でもクマの目撃情報がありました。タヌキの見間違えであってほしい」など。

(川内)黒くて動く動物を見たとき、動きが速かったり、距離が遠かったり、また気持ちも動転していたりして、見極めは難しい点もあります。

国も緊急対策に着手

(川内)9月から安全を確保した上で、警察の許可なしに市町村長の判断で市街地のクマに発砲する「緊急銃猟」が可能になりました。しかし、クマとの距離や角度の取り方、速やかな交通規制など課題も多いです。弾丸が予期せぬ方向にはね返る「跳弾」(ちょうだん)を避けるために断念したケースもあります。

(山田)実施のハードルは高そうだ。

(川内)11月13日からは警察官のライフル駆除もできるようになりました。秋田県からの要請に応じて、箱わなの運搬など後方支援を中心に自衛隊も出動しています。国は昨年4月に定めた対策パッケージを見直し、新たな予算措置も講じました。

(山田)警察官のライフル使用は話題になりましたね。

ハンター不足が大きな課題

(川内)民間の猟友会員は、高齢化と減少が著しいです。ハンター自体が「絶滅危惧種」という声も聞かれます。銃の所持自体への抵抗感も、以前に比べて高まっていると感じます。自治体が雇用する「ガバメントハンター」をどう育成、確保するかが鍵と言えます。

(山田)担い手不足への対策は。

(川内)例えば、静岡市は猟友会からベテランハンターを推薦してもらい、リスト化しています。「クマ撃ち」は動いている個体の急所を射貫く高度な技が必要。中途半端な「手負いクマ」は凶暴になると言われています。

元警察官や元自衛隊員に銃猟免許取得を促す動きもありますが、資格を取れば即、クマの銃猟に参加できるというものでもありません。

(山田)経験が必要なのは間違いない。リスナーからメッセージが届いています。「バイクで走り回っています。先月から紅葉を見に行っていますが、細い道でライダーさんを見かけなくなりました」との情報です。

(川内)皆さん警戒を強めているようですね。私自身も趣味の渓流釣りなどの際には注意していますが、近くでハイカーなどのクマ鈴を聞くことが増えました。

(山田)もう一つメッセージを。「番犬を外で飼わなくなったのが、クマが人家近くに出る原因では」とのこと。

(川内)軽井沢ではクマを追い払う「ベアドッグ」を活用し、人間とのすみ分けに効果を上げているとのことです。

静岡県内での目撃状況

(川内)静岡県内の2025年度の目撃情報は、11月19日時点で137件。ここに来て、昨年を上回るペースになっています。人的被害は2023年度以降、発生していません。だからこそ、今後を見据えた対策を今のうちからしっかり講ずるべきではないでしょうか。県内のツキノワグマは、「南アルプス」と「富士」の2つの個体群が確認されています。

(山田)静岡市瀬名で目撃情報があったクマはどう見ますか。

(川内)目撃情報があった場所から北に上がった地点には、竜爪山という山があります。以前、クマの目撃情報があった山で、今回の目撃がもし本当にクマであるのなら、そこから南下したというようなこともあるかもしれません。

個体数の把握と適正な生息数の設定が重要

(川内)すべての対策の基本になるのが、個体数の把握です。国は本州に生息するツキノワグマの数を4万2千頭以上と推計しますが、各県推計の累積であり、決して厳密ではありません。本格的な調査に予算を投じてほしいです。

人身被害を招かずに共存が可能な生息数を地域ごとに割り出し、その頭数まで何年で集中的に減らすか、計画を作ることも必要でしょう。

(山田)確かに個体数の把握はきっちりやってほしい。静岡県の生息数はどうなんですか。

(川内)本県も個体数の把握を進めていて、2024年6月から10月の調査では、中央値で南アルプスが441頭、富士が102頭。それぞれ自動撮影の20基のカメラトラップを設置して調査した結果です。富士地域個体群は絶滅の危機もあるとされています。

クマから身を守るには

(山田)現実的な話として、一個人としてクマにどう対応したらいいのでしょうか。

(川内)まずは遭遇しないことです。直近に目撃情報などがあれば、その場に行かない。山に入る時はクマ鈴を携行したり、時折大声を出したりして、こちらの存在を知らせるようにする。出合い頭の遭遇が、一番危ないです。

(山田)では遭ってしまったら。

(川内)撃退スプレーが知られていますが、信頼できるものを購入することが重要。50センチしか飛ばないなど、「偽物を買った」との訴えも相次ぎ、国産品には注文が殺到しています。

クマは顔を狙うことが多いとされ、防備のためにうつぶせで首、顔、腹部を守る姿勢を取ることも最終手段として念頭に置きたい。顔を覆うマスクなど、防具の開発が必要という現地の声もあります。

(山田)この前行ったゴルフ場では、カートに鈴が付いていました。

(川内)12月の冬眠まで何とかこらえればという声も聞かれます。しかし、温暖化で冬になっても自然界にエサがある状況や、「街中に行けば食べられる」と知ってしまった個体の増加などから、冬眠に入るのが遅くなるクマが増えるとの指摘もあります。人間が注意を要する期間は長くなっていると考えるべきでしょう。

自然界の人間への警鐘

(川内)クマが森林の生態系の一部であることを忘れてはなりません。頂点に位置するクマが減ればシカが増える。そのシカが農作物を荒らすというようなことも考えられます。

(山田)一連のサイクルになっているわけですね。

(川内)個人的には報道で多用される、「駆除」という言葉が嫌いです。人命の危険に直面している地域での殺害は仕方ありません。しかし、人間の行為が招いている事態であることは間違いなく、「殺す」ことへの畏れを感じないとすれば、根本的な解決はあり得ないのではないでしょうか。

(山田)確かに数を減らすだけで解決する問題ではなさそうだ。

(川内)今起きている事は、自然界の人間への警鐘と言えます。同時に、地方の衰退はじめ、日本の抱える多くの問題が表面化したと見ることもできます。まさに「未知との総力戦」であり、緊急的な捕獲強化やクマが人里に来ないための中長期的な対策を、国を挙げて包括的に講じる必要があります。

(山田)いろんな要素が絡み合っている問題であることが良く分かりました。クマから自身を守るための具体的な対策と手段、自分の住む地域に出没させないための行動をしっかり考えたいと感じました。今日の勉強はこれでおしまい。

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