4人家族で1LDKもある【都心部住宅事情】 それでも思春期の子どもに「1人空間が必要」な理由〔一級建築士が解説〕
分譲も賃貸も高すぎる都心部の住宅事情で、ファミリーの「家が狭い!」問題を解決するには? 第1回は昨今の住宅事情とパーソナルスペースの必要性について。一級建築士で模様替えアドバイザー・しかまのりこ氏インタビュー。全3回
【写真➡】おもちゃ収納アイデア&コツを“DIY”インフルエンサーが紹介そろそろ子ども部屋を作ってあげたいけれど、部屋数が足りない。じゃあ引っ越そうかと調べると、都心の不動産価格は高騰し続け、今の家にとどまるしかない。こうした深刻な悩みを抱えるファミリーに、一級建築士のしかまのりこさんは「部屋数が足りなくても、一人になれる“パーソナルスペース”を作る方法はあります」と断言。
第1回では、都心に住む子育て世代の部屋の住宅問題と、パーソナルスペースを作る必要性について、しかまさんに伺いました。
理想的な居住面積を満たす家族は約4割
一級建築士で模様替えアドバイザーでもある、しかまのりこさんは、ここ10年(2025年4月現在)で約500件、部屋の模様替えの依頼を受けてきました。
その中で近年目立ってきているのが、居住面積が約50㎡以下、あるいは1LDKや2DK、2LDKなどの狭小住宅に住む子育て世代からの相談です。
「いまは、“子どもの数だけ子どもの部屋がない”住宅は決して珍しくなく、それどころか1LDKや2LDKに一家4人で住んでいるケースも少なくありません」と、しかまさん。
その傾向は、東京を筆頭に、福岡、神奈川、大阪、愛知、兵庫などの都市圏に顕著で、背景には都心部ならではの住宅事情があります。
「現在、日本の住宅の平均延べ床面積は、持ち家戸建てで約130㎡、賃貸住宅では約48㎡です。これが東京都になるとさらに狭くなり、持ち家戸建てで約110㎡、賃貸住宅では約44㎡と、居住面積は非常に狭いのが現状です」(しかまさん・以下同)
住宅・土地統計調査/総務省より、しかまさんが作成
不動産経済研究所の調査(※)でも、首都圏の新築分譲マンションの専有面積は年々減少し、2024年の平均値は66.42㎡でした。
なお、国は世帯人数に応じて、『これくらいの広さに住みましょう』という居住面積水準をかかげています。
国土交通省の住生活の水準(※1)では、4人家族が都心部で豊かに暮らすための居住面積は、共同住宅では95㎡以上です。ところが実際、それを満たしているのは約4割しかない(※2)のが実情です
「最低居住面積水準」は健康で文化的な住生活の基礎として必要不可欠な住宅の面積で、「誘導居住面積水準」は豊かな住生活の実現を前提として、多様なライフスタイルを想定した場合に必要な住宅面積水準。「都市居住型」は都心とその周辺の共同住宅居住、「一般型」は郊外や都市部以外での戸建て住宅居住を想定。【】内は、3~5歳児が1名いる場合。
実際、しかまさんの依頼者の中には、独身時代に買った1LDKや2LDKのマンションに、結婚・出産後もそのまま住み続けているファミリー層が珍しくないそうです。
「引っ越したくても、都心の不動産価格は分譲も賃貸も高騰していて手が出せない。ならば別の地域に移転すればいいのでは? という声もあるでしょう。
しかし、長年住んできた地域に愛着があり人間関係もできているため離れられない、子育てをするなら都心のほうが学校や習い事の選択肢が多い……といった事情から、狭小でも都心に住む選択を取る人は少なくありません」
子どもだけでなくママも自分の空間がほしい
しかしながら、狭い家に子どもと住み続けると、さまざまな問題が発生します。
「たとえば、次のような悩みをよく聞きます。『狭すぎて学習机を置くことができない』『リビングの喧騒の中では勉強に集中できない』『収納スペースが足りず、学用品などがリビングに散乱』『“だれが片づけるか”でケンカが絶えない』──。
とりわけ深刻なのは、部屋数が不足することで、とくに10歳前後から始まる思春期の子が安心して一人になれる場所、つまり“パーソナルスペース”がないことです」
それは子どもに限らず、最近では、ママからも「1人になれる空間が欲しい」という切実な相談を受けることが増えているといいます。また、コロナ禍以降で顕著に増えたのが、在宅ワークになったパパが1部屋を仕事部屋兼寝室として独占するというケースです。
「たとえば2LDKでパパが1部屋を使っているため、残り1部屋でママと異性のきょうだい3人が一緒に寝起きせざるを得ないご家庭も。中には、大学生や中高生といった年ごろの異性のきょうだい2人とママが、同じ部屋で寝ているケースもあります」
パーソナルスペースがなかったらどうなる?
子どもが本格的な思春期に突入する中学生以降になっても、安心して一人になれる場所がない場合は問題が起こりやすいと、しかまさんは考えています。
「以前、学校の先生に『最近、お子さんの様子が不安定だ』などと指摘されて初めて中学生の息子さんの異変に気づき、私のもとに『パーソナルスペースを作りたい』とご相談に来られたケースがありました。
実はそのご家庭では、息子さんが赤ちゃんのころから中学生になったご相談当時までずっと家族4人で川の字で寝ていたそうです。意外と、こういうご家庭は多いんですが、そのお母さまは学校の先生に、『それは絶対にダメ、狭くてもいいので必ず自分のスペースを作ってあげて』と指導されたそうです」
思春期には最低1m×2mのパーソナルスペースが必須
未就学児や小学校低学年など子どもがまだ小さいうちはともかく、子どもが小学校高学年、遅くとも本格的な思春期に突入する中学生になったら、絶対にパーソナルスペースを作る必要があると、しかまさんは強調します。
「私が見てきた中では、家の中で一人になれる空間が全くない状態より、シングルベッド分のわずかな空間でもパーソナルスペースがあるほうが、何かあったとき気持ちの整理をしやすい印象があります。
最低でもシングルベッドのサイズ、つまり自分が寝るスペースの1m×2m程度は確保してあげたい。オープンな空間で始終顔を合わせるよりは、あまり見られないようにベッドの配置を工夫したり、カーテンや間仕切りを駆使して家族の視線を感じないようにしてあげることが大事です」
2段ベッドにもカーテンを付けて、周りの目を気にせず、一人になれる空間を作ってあげよう。 ※画像提供:COLLINO一級建築士事務所
パーソナルスペースの場所は、2段ベッドの上下どちらかでもいいと、しかまさんは話します。
「あるご家庭では、2段ベッドの上段を大学生の長男、下段を高校生の長女というように、上下で空間を分けていました。どちらのお子さんも精神的に安定し、しっかりしているように見受けられました」
それでは、パーソナルスペースはどう作ったらよいのでしょうか? 次回の「見直し編」では、リフォームと模様替えの予算、狭小住宅におすすめの家具や、逆に買ってはいけない家具など、パーソナルスペース作りで見直すべきことを教えてもらいます。
●しかまのりこPROFILE
COLLINO一級建築士事務所主宰。一級建築士、模様替えアドバイザー、建築基準適合判定資格者、耐震診断士。ゼネコン建築設計部等で設計・検査・審査など携わった住戸数はのべ5000件以上。独自のメソッドで、500件の問題を解決してきた。
取材・文/桜田容子
しかまさんがさまざまな家族構成と間取りの実例を紹介し役立つヒント満載の『狭い家でも子どもと快適に暮らすための 部屋作りのルール』(彩図社)