『フォレスト・ガンプ』チーム30年ぶり再集結、トム・ハンクス主演『Here』が定点カメラで描く「ここ」にある家族愛【レビュー】
(カナダ・トロントから現地レポート)ロバート・ゼメキス監督、トム・ハンクス主演の感動ドラマ『Here(原題)』が、現地時間11月1日に北米公開を迎えた。ゼメキス監督がオスカーを受賞した『フォレスト・ガンプ/一期一会』(1994)から30年ぶりにトム・ハンクス、ロビン・ライト、脚本家エリック・ロスとタッグを組んだ作品だ。アーティストのリチャード・マグワイアが2014年に発表したグラフィックノベルを基に、定点カメラで「一つの場所=“ここ(Here)”」が映し出され、その固定フレーム内で様々な人生が物語られるという、一風変わった作品に仕上がっている。
物語は約6,500万年前から始まり、恐竜が生息していた土地が氷河期を迎え、さらにアメリカ独立戦争の時代へと進んでいく。やがて、何もなかったその場所に大きな窓がある一軒家が建てられる。第二次世界大戦から帰還したアル(ポール・ベタニー)は妻のローズ(ケリー・ライリー)とともに3,400ドルでこの一軒家を購入。彼らは3人の子供に恵まれ幸せな家庭を築いていく。
絵を描くことが好きな長男のリチャード(トム・ハンクス)は18歳のころ、恋人のマーガレット(ロビン・ライト)の妊娠をきっかけに、結婚し、この家で家族を持つことに。家族を支えるために芸術家になる夢を諦め、無難な職についたリチャードだったが、次第にマーガレットの「自分たちの家を持ちたい」という願いから、小さな衝突が起きるようになる。
この映画で描かれるのは、スリル満点なドラマではない。平凡な家庭が直面する壁や、そこから生まれる家族の絆、そしてすれ違いに焦点を当てている。共感できるポイントが誰にでもあるはずだ。全編を通してリチャードの一生を見ることができ、「今、ここで自分がすべきこと」を考えさせられる、心に響く作品に仕上がっている。
感謝祭やクリスマスといった祝日の風景も登場するが、どの祝日も年を重ねるごとに変化し、同じものは一つとしてない。家族の在り方や過ごし方が少しずつ変化する様子が、静かに映し出されていく。この映画は「永遠に続くものなどない」という現実を教え、一日一日を大切に過ごすことの意義を感じさせてくれる。
本作のように定点カメラでいくつもの物語を映し出すというのは、かなり革新的なアイディアだ。フレームに収まりきらない物語は、部屋に配置された鏡などを利用して描かれている。回想シーンなどは原作本と同じく複数のコマがフレーム内に映し出されているため、原作本が好きな人も楽しめる内容になっている。
ちなみに現在68歳のトム・ハンクスと58歳のロビン・ライトは、18歳の若い時代から年老いた姿まで全て自分たちで演じている。本作には、メタフィジック・ライブ(Metaphysic Live)という人工知能技術が採用され、2人が演技をしている際にリアルタイムで顔を若がえらしたり、老けさせたりしたそうだ。トム・グラハムが率いる人工知能企業「メタフィジック(Metaphysic)」が開発したこの技術は、本作で広範囲に、かつ効果的に使われている。ゼメキス監督は「私は常に物語を語るための技術に魅了されてきました。『Here』では、俳優たちがシームレスに若い姿へと変わることが必須です。メタフィジックのAIツールは、従来不可能だったこの変化を実現します」と語っている。本作がヒットすれば、2025年の映画賞シーズンに演技賞と視覚効果賞にノミネートされる可能性も大いにあるだろう。
今、自分が“ここ”に存在する意味を問いかける映画『Here』。日本での公開は未定。
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