子どもの近視はタダでふせげる! 台湾で実証された“2時間の外遊び“の効果とは? 専門医が解説
【子どもの近視予防】第3回 「近視はタダで治せる!?」増加する近視から子どもを守るため、目に関する最新予防知識を得よう!
子どもの「悪い姿勢3パターン」 理学療法士が教える簡単セルフチェック近年、子どもたちの視力低下は、深刻な問題です。文部科学省の2022年度学校保健統計調査によると、裸眼視力が1.0に満たない子どもの割合は、小学生で約38%、中学生で約61%、高校生では約72%と過去最多に。
「近視は治療が必要な『病気』」と語る眼科医の窪田良先生は、「日本の近視対策は遅れている、日本人は目に関するリテラシーをもっと高めてほしい」と強く訴えます。「子どもの近視予防」3回目では、「子どもの近視の予防と抑制」について。実はタダで治せる!? 最新の研究からわかった、世界基準の正しい目の情報をお伝えします。
●PROFILE 窪田良(くぼた・りょう)
眼科医、医学博士、窪田製薬ホールディングスCEO。「世界から失明を撲滅する」ことをミッションに掲げ、眼疾患に関する研究開発を行う。近著に、『近視は病気です』(東洋経済新報社刊)。
子どもの視力を下げたくない!
小学3年生の女児を育てるママからの相談です。
「私自身、幼いころから近視で苦労してきました。小3娘には同じ経験をさせたくないのですが、どうしたら近視にならずにすみますか? また、もし目が悪くなってしまったら、治すことができないのでしょうか?」(Kちゃんママ・46歳)
この相談にDr.窪田こと、窪田良先生の答えは?
台湾で行われた画期的な近視抑制政策とは?
まず、結論から言って、子どもの近視は「予防」でき、そして「進行を抑制」できます。そもそも、近視は「目が見えづらくなってしまった状態」だと軽くとらえている方が多くいますが、私は「近視は病気」だと断言します。
なぜなら網膜剝離や緑内障など、将来的に失明につながる病気を生むリスクを高めてしまう、いわば「目の病気のもと」だということが、近年の研究によりわかったからです(詳細は4回目で解説)。
そして、近視は予防・抑制が可能な病気でもあります。近視治療についてお話しする前に、まずは台湾の画期的な事例からご紹介しましょう。
前回(#2)お話ししたとおり、アジア圏において子どもの近視は深刻な社会問題となっています。そのなかでも台湾の取り組みが近年評価されているのです。
台湾では2010年から、小学校で1日2時間程度の屋外活動を義務付けています。一度に2時間ではなく、休み時間の外遊びや運動を合わせて、合計2時間以上を屋外で過ごさせるカリキュラムを組んでいるのです。
台湾では2010年に外遊びを導入してから、近視の割合が低下したことがわかる。 引用:『近視は病気です』(窪田良著/東洋経済新報社刊)より
近視の発症は、6歳から12歳ごろが多いのですが、この取り組みでは少しずつ子どもの近視が減り始めているという成果が出ています。2時間の外遊びが、近視の発症を防いだり、進行を遅らせたりする効果があると証明されたのです。
これは世界で初めての発見で、大きく注目されています。中国では子どもの近視対策として2021年から塾やゲームなどの規制を導入しましたが、これは台湾の大規模臨床試験結果に影響されたものです。
2019年には、WHO(世界保健機関)も視力に関する初めての世界レポートを作成。そのなかで「最も頻度の高い眼疾患である近視と、外遊びの重要性」を指摘しています。
なぜ外遊びで近視が抑制されるのか?
なぜ屋外での活動が目にとって良い影響を与えるのか、もう少し詳しく説明しましょう。
台湾でもっとも有名な眼科医の一人であるウー・ペイチャン医師は、「2時間ほどの屋外活動に、近視抑制効果がある」と発見。もともとは動物実験で、「強い光のもとで飼育した動物のほうが、弱い光の中で飼育されていた動物よりも近視になりにくかった」という結果が出て、それを子どもたちに当てはめてみたのが、前述の大規模臨床試験です。
分子的なメカニズムは解明されていませんが、目には光の暴露量が重要だということが考えられます。この、光の暴露量にくわえて屋外での活動では自然と遠くを見ることもでき、近視を進行させる「近見(きんけん)作業」(物を近くで見る作業)も避けられるのです。
具体的にどれくらい光がある屋外活動がいいかというと、目安としては、1000ルクス程度の明るさが推奨されています。この明るさは、晴れた日の窓際と曇りの日の窓際の中間くらいです。屋外であれば日陰であっても十分だと考えます。
では、日当たりがいいなら屋内でもいいのかと言ったらそうではありません。自然光が窓ガラスというフィルターにかけられて光量が減ってしまうので、あくまで「屋外」にいることが重要です。
屋外であっても近見作業はよくないですが、ゲームも家の中でやるよりは屋外でしたほうが、多少はマシなのかもしれませんね。
目には光の暴露量が重要で、1000ルクス程度の明るさが良いとされる。 引用:『近視は病気です』(窪田良著/東洋経済新報社刊)より
放課後は外遊びをしよう!
この「1日2時間外遊びをする」というたったひとつの活動で、子どもたちの近視は予防・抑制できます。これは、「近視はタダで治療ができる」と言えます。
世界的に見て日本の近視治療は後れをとっており、国民の近視に対する危機感は薄いと感じています。それは、近視が「病気」だと認識されていないことに原因があると思います。
しかし、それも少しずつですが変わってきています。2022年には、文部科学省が初めて、子どもたちの「眼軸長(がんじくちょう)」を測定した全国調査結果を発表。
眼軸長とは、目の角膜から網膜までの奥行き(長さ)のこと。長いほど近視の度合いが強くなります。日本でも、増え続ける近視に関して、何らかの取り組みをはじめようとしている雰囲気は感じます。
私は、全国の眼科クリニックやメガネ店に「1日2時間の屋外活動で、子どもの近視を抑制できます」というポスターを掲示してもらいたいと思っています。
歯科クリニックに行くと、「虫歯予防」や「歯磨きの仕方」などのポスターが貼られており、小さなころから親子ともに、歯の健康についての教育が行き渡っています。目も同じように小さなころから啓蒙活動をしていけば、人々の意識は変わっていくものだと思います。目の健康寿命を伸ばすことについて、真剣に考えてみましょう。
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次回は「近視になってもメガネをかければいいんじゃないか」と考える保護者について。近視が引き起こす目の病気と、最新の近視治療についてお話を伺います。
取材・文/遠藤るりこ
「近視は治療が必要な『病気』である」という認識が、世界的に高まってきています。目に関するリテラシーを上げることが、今まさに必要。眼科医で創薬や医療デバイスの研究開発を行う窪田良先生が目について「役立つ」、「世界基準の」情報を伝える一冊『近視は病気です』(東洋経済新報社刊)。