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那珂川市「喫茶キャプテン」が事業承継されて5年、さらに地域密着の店を目指して

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5年前にリニューアルオープンした「喫茶キャプテン」

「喫茶キャプテン」のことを知ったのは2019年夏、東区香椎「居酒屋トンキーモンキー」のオーナーで、“香椎コンテナ村”を立ち上げた仲盛さんから「今度、那珂川市で喫茶店をオープンするんですよ」と聞いた時だった。

詳しく聞いてみると「岡本さんというご夫妻が39年間経営されてた『喫茶キャプテン』というお店があったんです。地元に愛される喫茶店だったんですがご夫妻が高齢というのもあって今年の6月30日をもって閉店されたんです。そのお店を岡本さんご夫妻の希望もあって、そのまま事業承継できないか!?という話が持ち上がって、那珂川出身でまちづくりの専門家である木藤さんが旗を振り、二日市に拠点を置く建築家の村上さん、そして春日市出身の僕がタッグを組んで新しい法人を作り『喫茶キャプテン』を引き継ごうとなり、いよいよ8月にオープンするんですよ!」とのこと。
まちづくり専門家+建築家+飲食店オーナーの3人。考えてみれば持って来いの3人だと思った。

岡本さんの意思を継いで旗振りをした木藤亮太さん

事業承継にあたり旗振りをした木藤亮太(きとう りょうた)さんの話をしておこう。木藤さんは「まちづくりコーディネーター」として全国あちこちで活動している人。特に、宮崎県日南市の油津商店街を復活させた事業に携わり注目され、出身地である那珂川市の“まち活”にも取り組んでいる。

九州芸術工科大学(現・九州大学 芸術工学部)で都市デザインを研究していた筋金入りのまちづくりの専門家。那珂川市で取り組んでいる“まち活”はいわゆる再開発ではなく、まちへの想いを強く持った人材に光を当てたり昔からあるまち並みを残したまま活気あるまちづくりができないかという視点で活動を進めてるらしい。那珂川市からの委託を請けての活動や、地元商店や企業との取り組みにも積極的。今回の「喫茶キャプテン」の事業承継もそのひとつ。古いものを取り壊して新しいものをつくるのではなく、いまある価値のある資産をいかにこれからの時代に合う形で再構築して残していくかという視点で今回の事業承継を進めてきたそうだ。

「僕は那珂川出身なので、祖母も昔『喫茶キャプテン』に通ってたんですよ。そんなご縁もありなんとかこの店を残したかったので自分たちで引き継げて良かったです」と木藤さん。

木藤亮太さん

2019年8月21日「喫茶キャプテン」として再船出

6月30日に岡本さんの「喫茶キャプテン」の営業が終了した。スタッフは、木藤さんの元に集まった初代店長の橋本さんと料理長の草原(そうはら)さん。2人は前職の飲食店からの同僚だった。

店内の雰囲気やメニューもできるだけそのまま引き継ぐためにマスターの岡本さんは新しいスタッフへ「喫茶キャプテン」としての味やレシピ、そして歴史やルールや雰囲気までしっかり指導されたそうだ。

初代店長の橋本さん

約40日の休業期間を経て再び船出した「喫茶キャプテン」。岡本さんの思いを引き継いだだけでなく、地元のお客様もしっかりと引き継いでいた。ちなみに「喫茶キャプテン」という店名は、岡本さんが若い頃に船乗りだったからという。店内には船にまつわる装飾品や備品などが展示されている。外観や内装はほぼ改修せずカナディアンハウスの店舗の雰囲気は以前のまま。昔からのお客さまが来られても安心して寛げる空間を残している。

橋本店長から2代目店長の有吉史朗さんへバトンタッチ

リニューアルして4年が経った頃、初代店長の橋本さんが退職することになった。
「私、実家の都合で退職することになったんですよ。次の店長は有吉さんって方なんですが、万太郎さんが知ってる人ですよ」と。
そうやって紹介されたのは、まさに知り合いの青年だった。橋本さんとの引継ぎが終わった有吉店長は去年の12月から店長になった。

2代目店長の有吉史朗さん

ここで有吉店長の紹介をすこし。福岡県筑紫野市出身で福岡大学へ入学。大学時代は珈琲店でアルバイトをしていた。珈琲は好きだったが大学卒業後に警察学校に入学。卒業後に警察官になったが、なんと珈琲のことが忘れられず1年経たずに退官。再び珈琲業界に戻ることになった。

有吉さんは大学時代にアルバイトをしていた「珈琲童子 珈童」で仕事を始めた。それから8年間コーヒーのことを学んだ。その後他の飲食業も経験してみたくて新しくできた中華料理店「二兎」で勤務。コロナ禍の影響を受け仕事が出来なくなると、「カフェマルゴ向野店」の新店スタッフとして転職したが「カフェマルゴ向野店」の閉店に伴って退職。

ちょうどその頃、橋本店長の後任をさがしているという話を聞いた「マルゴ」や「喫茶キャプテン」の常連客から「有吉くんという適任者がいるよ!」という話が来たそうだ。さっそく面接をして2代目店長として引き継ぐことになったそうだ。現在有吉店長は、珈琲を中心に、人気のプリンやコーヒーゼリーのスイーツも担当しながら橋本さんに代わって店を切り盛りしている。

先代から引き継いだメニューと料理長の草原さん

メニューは岡本さんご夫妻、特にママさんからしっかりと引き継がれたが、そのほとんどを担当しているのが料理長の草原(そうはら)さんだ。橋本さんと一緒に新生「喫茶キャプテン」の立ち上げメンバー。

「喫茶キャプテン」と言えば長年常連さんに愛されて来た人気メニューが3つある。なつかしのナポリタン(サラダ・スープ付き1,200円)、ママさんの味のあの生姜焼き定食(1,200円)、そしてウインナーコーヒー(630円)だ。さらに週替わり定食(1,250円)、「ナガタパン」の食パンを使った厚切りトーストやホットサンドなどスタッフみんなで新しいメニューも増やしている。

「なつかしのナポリタン」は、昔ながらの喫茶店がそうだったように茹で置き麺を使う。前日に茹でた麵を一旦冷蔵して翌日に調理するスタイルは以前のスタイルのまま。そうすることにより独時のもっちり感が出るのだ。
「ママさんの味のあの生姜焼き定食」は、その名の通りママさんからレシピを引き継いだ。ずっとずっと常連客に親しまれてきた定番の定食だ。

なつかしのナポリタン/ママさんの味のあの生姜焼き定食

ウインナーコーヒーは山のようにもられたクリームが特徴的だ。クリームの固さを調整して高さがしっかりと出る盛り方がポイントだ。その秘訣は岡本さんから橋本さんへ、そして有吉店長へと引き継がれている。
「ウインナーコーヒーは、たっぷりのクリームに負けないように深煎りの豆を使用してます。苦味だけでなく深煎り特有の甘み抽出することで、クリームとコーヒーが双方を引き立てます。見た目に反してバランスの良い味になってるので、最後まで綺麗に飲んでくださる方が増えました!見た目と味の両方を楽しんでもらいたいです!」と有吉店長。
甘さは3種類用意されていて甘い順に「昭和」「平成」「令和」と呼ばれている。たっぷりとクリームがのるので豆は通常のブレンドコーヒーよりも深煎りのものを使用しているそうだ。

ウインナーコーヒー

どのレシピも岡本さん夫妻から徹底的に仕込まれた。それでも常連さんの目は厳しかった。草原さんは今でもはっきり当時のことを覚えているという。
「長年マスターたちの味を知ってる常連さんから、塩加減や味の濃さなどいろいろ指摘されましたね~、泣きたくなるくらいでしたけど、このお客さんも岡本さん夫妻への愛情がすごいんだろうなぁと思いつつ、負けないぞ!と頑張ってきました」とのこと。

コーヒーは「喫茶キャプテン」用のオリジナルブレンドとして自家製スイーツに合うものにしている。抽出は先代同様にサイフォンを使っている。このサイフォンというのがまた昭和から続く喫茶店感を増幅してくれている。新生「喫茶キャプテン」としてもここだけは変えないで残していきたいものだというこだわりを感じられる。

スイーツに関してはチーズケーキやプリンなど10種類以上用意。新生「喫茶キャプテン」になってスタートして人気なのが「自家製プリン」(750円)だ。那珂川市のブランド卵“金太郎たまご”を使用しており、食べてみると昭和の頃にレストランで食べたような懐かしい味に仕上がっている。「これって昔からあったメニューじゃないの?」と思いたくなるような「喫茶キャプテン」にピッタリのプリンだ。

自家製プリン

これからの「キャプテン」

39年続いた「喫茶キャプテン」が木藤さんたちに引き継がれて5年。順風満帆ではなかった。「再出発の後に世界を襲ったコロナ禍の時には正直どうしたらよいのか不安な日々が続きましたよ」と木藤さんは当時を振り返る。それでも「喫茶キャプテン」はテイクアウトや宅配弁当事業などによりコロナ禍を乗り越えて来たのだ。

偶数月の15日はシニアの皆様への感謝デーとして65歳以上のお客様には好きな飲み物を200円引きで提供している。これも45年目に突入した「喫茶キャプテン」の長年のお客様へのお店からの気持ちだ。

有吉店長は「みんなから引き継いだお店ですからね、これまでに関わってこられた人たちの気持ちを大事に責任をもって頑張っていきたいです」という。

また草原さんは「最近になってやっと昔からの常連さんにも味のことを文句言われないようになったんですよ(笑)。もっともっと美味しいものを作って満足してもらいたいです。そして若い人たちにもこの店のファンになってもらい次の世代まで『喫茶キャプテン』が永く続くように精一杯頑張りたいと思います」と笑顔で語ってくれた。

店に掛けられた日めくりカレンダーは岡本さん夫妻の最終営業日のまま残されている

今回お話を聞いてみて、新しいものを作るということも大変なことだが古いものを引き継いで更に将来につなげていくというのも大変なことなんだなと改めて思った。木藤さんの気持ちを店長や料理長をはじめスタッフのみんなが同じ方向を見ながら船の舵を切ることが大事なんだろう。そして「喫茶キャプテン」の場合、先代からの常連客の方を中心にお客様がその気持ちに共感してくれていることが素敵だなと感じた。

「今でも岡本さんが時々店にやって来て指導してくださるんです。ご本人は『ここは実家みたいなもんだからね』と言われるんです」と草原料理長。そうなのだ、ここは「実家」のようなお店なのだ。それは岡本さんだけに限らず、昔からの常連客にとっても同じことかもしれない。「お店というものはオーナーが作るものだが、その後どう育っていくかはそこに集まる客によって決まる」といろんなお店を見ててそう思う。「喫茶キャプテン」もまさにそういう感じの店なのではないだろうか。

さて、木藤船長として再出発した「喫茶キャプテン」。これからどんなお客様が乗船してどんな航海になっていくのか楽しみで仕方がない。
有吉さん、草原さん、頑張って。

草原料理長(左)と有吉店長(右)

喫茶キャプテン
福岡県那珂川市松木1−1
092-953-0985

上野万太郎
ここ15年以上、外食写真日記的なブログ「万太郎.net」で福岡を中心とした飲食店の人々やお客さんと関わったエピソードを発信。著書は「福岡カフェ散歩」(書肆侃侃房/2012年)、「福岡のまいにちカレー」(書肆侃侃房/2014年)。
インスタID:mantaro_club

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