Yahoo! JAPAN

子どもの自信が目覚める「クリティカル・シンキング力」 親と子どもの会話で思考力と洞察力がアップする理由

コクリコ

「考える力」「伝える力」の総合的能力であるクリティカル・シンキングは、親子の普段の会話から育むことができます。しかし、そもそも言葉で伝えることが苦手な子や低学年には難しい場合も。大学や高校、塾で「考える力・伝える力」を教えている狩野みき先生が、スキルを育むコツを引き続き解説します。

「学校が楽しい子」が続出する理由 「子どもが決める」「自ら行動する」主体性にあった!〔現役小学校教員が明かす〕

クリティカル・シンキングは、自分の頭で主体的に物事を考え、自分で考えたことを慎重に判断してしっかりと他者に伝える力であり、「考える力」「伝える力」の総合的能力です。この力は対話から育めるスキルのため、家庭でも親子間のコミュニケーションで高めることができますが、そもそも言葉で伝えることが苦手な子や低学年では難しい場合もあります。

長年「考える力・伝える力」を教えている狩野みき先生に、さらにスキルを育む方法と実践中の困った事態を救う対応法を解説いただきます(全3回の3回目)。

子どもの言葉を引き出す魔法のツール「気持ちの体温計」

クリティカル・シンキングの力は対話で育みます。子どものどんな話も『へ~』と丸ごと受けとめたあとに、話している内容を発展させるのが原則です。

しかし、親が話しかけても、言葉がうまく出てこなかったり、自分の気持ちや意見を言語化するのをためらう子どももいます。その場合、言葉を引き出すには、どのような方法があるのでしょうか。

『気持ちの体温計』を作って、言葉を引き出してあげる、あるいは自分の気持ちや意見を伝えることは悪いことではないことを教えてあげるといいでしょう

クリティカル・シンキングは、自分の考えを言語化できるようになる小学校2年生あたりから本格的にできるようになりますが、小学校1年生や未就学児の段階からチャレンジする場合は、気持ちの体温計が、子どもが心に思っていること、考えていることを話すきっかけを与えてくれます。

また、年齢が上がった子どもでも、言語化が不得意だったり、言葉を飲み込んでしまった場面でとても有効です。

気持ちの体温計は、ちょっと厚めの紙、たとえばお菓子の空き箱や段ボールなどを使って作ることができますから、子どもと一緒に工作してみるといいですね」(狩野先生)

先生が息子さんと実際に作った、お菓子の空き箱を使った「気持ちの体温計」。厚めの紙に体温計を描いて切り抜くだけ。1枚の紙で頼りない場合は、表と裏を作って、のりで貼り合わせてもOK。  写真提供:狩野みき

気持ちの体温計の使い方とは?

「我が家では、娘が小学生、息子が園児のときに作って、そこからしばらく息子が使っていました。たとえば、きょうだいゲンカをした際に口論で負けた息子が拗ねたり、何かをいいたいのに押し殺している場面で登場していましたね。使い方としては、次のとおりです。

『本物の体温計で熱を測ったとき、38.5度とか高い数字が出ても仕方ないことだよね? じゃあさ、気持ちの体温計で今の気持ちを測ってみて。どんな結果が出てもお母さん怒らないから、結果(いいたかったこと)を教えてくれる?』という具合です。

そうすると息子は、きょうだいゲンカそのものではなく、仲裁に入った私に対して不満を持っていて、『さっきお母さんが、お姉ちゃんのほうが正しいみたいなことをいったのがすごく嫌だった』と打ち明けてくれたんです。

このとき、母親の私としては大ショックな部分もあったのですが、息子が思っていたことを言葉にしてくれたのと、私に伝えてくれたことに対して、『よくいった! 伝えるのは勇気が要ったでしょう!』と褒めたことがありました。

子どもは、言語化することは大人が褒めてくれることなんだと思うと、次第に言葉を伝えてくれるようになります」(狩野先生)

子どもから返答がないと、親は苛立ったり、「何でもいいからいってみて!」と急かしたりしますが、それは逆効果。気持ちの体温計を使って、言葉を少しずつ子どもから引き出してあげるといいでしょう。

クリティカル・シンキング力をつけると子どもが相談相手に!

親御さんが子どもとの対話を繰り返し、子どもの考える力と伝える力が育っていくと、いつしか我が子が相談相手にもなっていきます。それを先生は「親が得られる最大のボーナス」だといいます。

「『考える力』に関する大きな講演を控えて行き詰まっていたとき、当時小学校2年生だった娘に『考えることって、なんでいいことなんだろう?』とフイに聞いてみたんです。

そうしたら『だって自信になるでしょ!』と間髪入れずに返答がありました。そこで私が『へ~、それってなんで自信になるの?』と反応してみたら……。

娘は、娘なりの言葉で『だって、自分がこんなにも考えられているって思えるでしょ。それって自信になるよね。自分の意見を大事に思えるし、そんな大事な意見が自分にあるってことは、友だちにも大事な意見があるってことで、私にはそれがわかるよ』というんです。娘の回答に、もう脱帽でしたね」(狩野先生)

子どもの考える力、伝える力を育てると、親御さんが困っていることを軽やかに子どもが解決してくれることがあります。  写真:graphica/イメージマート

このほかにも、先生は息子さんにも相談に乗ってもらったことがあります。

「息子が小学校3年生のときだったでしょうか。娘が思春期に入ってきて扱いが難しくなってきたときに、息子に『ねぇ、お母さん困っているんだけど。お姉ちゃんはなんであんなこというんだと思う?』と助けを求めたんです。

すると『俺はさ~』といって、弟だからこそ見えていることを教えてくれました。私は、息子が自分の意見を言葉にして伝えてくれたことに、心から感謝をしたのを覚えています」(狩野先生)

親から頼られると子どもはうれしさを感じるものです。自分の意見がお母さん(お父さん)を助けていると感じると、さらに自分の考えを伝えることに自信をつけていくことでしょう。

クリティカル・シンキングを実践中にうまくいかないと感じたときは……

家庭でクリティカル・シンキングを実践中、親御さん自身がうまくできないと感じたときの対処法についても狩野先生は教えてくれました。

「まず、実践中にうまくいかないと感じたときは、うまくできないご自分を追い込まないでください。そして、子どもに考える力、伝える力をつけたいという気持ちを持つのをいったんやめましょう

スキルを育てようという意識を手放して、純粋に子どもの意見を聞きたいな、子どもってどんなことを考えているんだろうと好奇心を持って耳を傾けてみてください。

子どもは、お母さんやお父さんとは違う考えを持って生きています。学校に通っている時点で、親とは違った経験を積み重ねていろいろ考え、親御さんとは違った視点を持っています。それはきっと興味深いはずです。

純粋に親子の対話を楽しんでみると、次第に問題はなくなっていくでしょう」(狩野先生)

狩野先生によると、純粋に子どもとの対話を楽しむと、そんなバカなことを考えていたんだ……と、がく然としたり、笑うしかない場面もあるそう。しかし、経験も知識も語彙も少ないからこそ、ストレートに伝えてくれたことに感心したり、救われたりすることもあると話します。

子ども時代は、いいたいことを主張できる環境が重要であり、自分の頭で主体的に物事を考え、自分で考えたことを慎重に判断し、しっかりと伝える力であるクリティカル・シンキングを育める大切な期間です。

親子のコミュニケーションで育てられるので、今日から子どもの話を丸ごと受けとめることから始めてみてはいかがでしょうか。

─◆─◆─◆─◆─◆─◆

◆狩野 みき(かの みき)
「自分で考える力」イニシアティブ、THINK-AID主宰。
聖心女子学院初・中等科に学び、中学高校時代をドイツのブリティッシュ・スクールにて過ごす。慶應義塾大学法学部卒、慶應義塾大学大学院博士課程修了(英文学)。30年大学等で「考える力・伝える力」と英語を教える。慶應義塾大学、東京藝術大学、ビジネス・ブレークスルー大学講師、子どもの考える力教育推進委員会の代表も務める。著書に『世界のエリートが学んできた「自分で考える力」の授業』『世界のエリートが学んできた 自分の考えを「伝える力」の授業』(ともに日本実業出版社)、『「自分で考える力」が育つ 親子の対話術』(朝日新聞出版)などがある。2012年、TEDxTokyo Teachersにて、日本の子どもたちにもっと考える力を、という趣旨のTEDトーク“It’s Thinking Time”(英文)を披露し好評を博した。2児の母。2025年2月、小学生対象のクリティカル・シンキングのプログラムが15周年を迎える。

取材・文/梶原知恵

【関連記事】

おすすめの記事

新着記事

  1. 「失望」の感情表現がフラグになる理由とは?【プロの小説家が教える クリエイターのための語彙力図鑑】

    ラブすぽ
  2. 東京ドーム巨人戦10試合&20試合を観戦できるプランチケット発売! 『ファンフェスタ』招待などの特典付き

    SPICE
  3. ひろゆき氏、テレビの現状を指摘「尖った事が出来なくなった」

    おたくま経済新聞
  4. 東MAX、所ジョージの古希のお祝いに感動「大御所たちが入れ替わり立ち替わり」

    Ameba News
  5. おばあちゃんが用事で家に訪ねてきたら、犬が…帰れなくなるレベルの『ワガママすぎる行動』が125万再生「可愛すぎ」「俺も通せんぼされたい」

    わんちゃんホンポ
  6. <不登校か>高校生、理由もなく「学校に行きたくない」。義務教育ではないけれど先生に相談していい?

    ママスタセレクト
  7. Acid Black Cherryのyasu、50歳の誕生日にファンへ6年ぶりメッセージ 「まだ唄えるおじさんになれるまでは戻せてませんが少しずつですが確実に前進しています」

    SPICE
  8. 猫に『イタズラ』をしてみた結果…あまりにも可愛すぎる『仕返しを受ける光景』が44万再生「彼女みたいな仕返し」「もはや愛情表現」

    ねこちゃんホンポ
  9. 名張の自然伝える写真展 やなせ宿で2月5日まで

    伊賀タウン情報YOU
  10. 【アマムダコタン京都】京都発!バナナが生み出す新食感『レアドーナツ』発表会レポート

    デジスタイル京都