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叶わなかった蔦重との恋…歌麿と瀬川、対象的な二人のケースを振り返る【べらぼう】

草の実堂

喜多川歌麿「歌撰恋之部 物思恋」。

かつて蔦重(横浜流星)に寄せた恋心(をテーマにした下絵)が、錦絵として出版されたものを手に取る喜多川歌麿(染谷将太)。

題して「歌撰恋之部(かせん こいのぶ)」。蔦重が歌麿の好みを考え尽くし、こだわり抜いて摺り上げた珠玉の合作と言えるでしょう。

自分の恋心を破り捨てた歌麿

喜多川歌麿「歌撰恋之部 物思恋」。

……が、見ると署名の上に蔦屋の印。これでは「自分を軽んじている」と誤解されても仕方ありません。

「こんなものは、紙クズですよ」

そう言いながら、かつて抱いた恋心を、自ら破り捨てた歌麿。その胸中はいかばかりでしょうか。

「お前の成功は、蔦屋の支援があってこそだろう?この恩知らず!……とでも言いたいのか?」

しかし、蔦重の真意は違ったはずです。劇中でもあった通り、今回の出版は、歌麿に戻って欲しい思いありきでした。

「たとえ喧嘩別れに終わったとしても、俺たち義兄弟の関係はずっと変わらない」

「だから指摘を受けて、わざとらしく上下関係を変える(ご機嫌とりで媚びへつらう)より、あえて前のままにしたんだ」

……と言う意味でしょうか。

あるいは単に忘れていた?何も考えていなかった?とは考えにくいでしょうね。画竜点睛を欠く、ということもなくはないものの、ドラマの展開上それも興醒めです。

ともあれ歌麿には蔦重の真意が伝わらず、あるいは伝わったとしても、あえて破り捨てたのでした。

かくして永年にわたる歌麿の恋は、ひとまず終わりを告げたと言えるでしょう。

本作の歌麿らしい、何ともじっとりとした後味の悪い幕引きとなりました。

自ら身を引いた瀬川(瀬以)

いつも本が好きだった瀬川(イメージ)。歌川豊国筆

これに対して、べらぼうファンの間で未だに高い人気を誇る瀬川改め瀬以(小芝風花)。こちらも蔦重との叶わぬ悲恋に視聴者のメンタルを引っかき回した一人です。

瀬川は蔦重の幼なじみとして吉原遊廓で育ち、苦界の中で支え合ってきたパートナーと言える存在でした。

気風のよさが身上で、蔦重の出世を要所々々で助ける場面に、多くの視聴者が喝采を贈ったでしょう。

やがて鳥山検校(市原隼人)からの身請け話をキッカケに、朴念仁の蔦重がようやく覚醒?自身の恋心に気づきます。

一度は鳥山検校に身請けされたものの、紆余曲折の末に、晴れて蔦重と一緒になりました。

……が、自身の過去が蔦重の足かせとなることを恐れ、自ら身を引いてしまったのです。

「おさらばえ」

の一言に、多くの視聴者が心乱されたことでしょう。

今にして思えば、この辺りが大河べらぼうにおけるピーク(※)であったような気がしなくもありません。

(※)物語自体は、それ以降も面白かったと感じていますが、いわゆる「瀬川ロス」は乗り越えられていない印象です。

歌麿と瀬川の大きな違い

喜多川歌麿「歌撰恋之部 深く忍恋」。今度は署名が屋号より上にある。

ここまで歌麿と瀬川、蔦重との恋が叶わなかった二人を紹介してきました。

※禿時代から永年の追っかけであった誰袖(福原遥)は、蔦重個人が好きと言うより「顔がよければ誰でもいい」の延長線上に過ぎないと判断。また完全に田沼意知(宮沢氷魚)へ乗り換えたため、今回はノーカウントとしましょう。

どちらも自分の意思で蔦重から離れていったのですが、比較すると実に対照的でした。

蔦重の幸せを願って離れた瀬川に対して、蔦重に気づいてもらえなくて離れた歌麿。

自己愛から逃れられない歌麿よりも、相手の幸せに重きをおいた瀬川の純粋な想いに、視聴者の共感が集まるのは無理もありません。

また両者が蔦重を想い続けた状況にも違いがあります。

瀬川の時は蔦重が若く独身(気持ち的・経済的に受け入れ態勢が万全)であったのに対して、歌麿の時は蔦重も既に既婚者。しかもお互い不惑(40歳)前後でした。

要するに「いい歳した大人が何をこじらせているんだ」と言ったところでしょうか。

伝えたければ玉砕覚悟で伝えればいいし、伝える勇気がない(リスクを取れない)のであれば、潔く身を引くべきです。

たとえ自分は一緒になれなくても、本当に愛している相手が幸せになれればそれでいい。瀬川には、そんな想いがありました。しかし歌麿にはそれがありません。

蔦重がおていさん(橋本愛)と結婚した時点で、普通は(おていさんに何かがない限り)望みがなかったのに、どっちつかずで離れる時期を逸してしまったと言えるでしょう。

いまだ根強い?瀬川との再会を望む声

二人の再会はあり得る?(イメージ)

今さら瀬川と蔦重が復縁することはないでしょうし、復縁すべきでもありません。

しかし、叶うならば瀬川の華々しい存在感を今一度、と願う声は少なくないでしょう。

晩年に瀬川と蔦重が再会して「別々の道を歩んだけれど、それぞれの幸せにたどり着いた」経緯を語り合う……そんな大人の会話を見たいものです。

誰も救えなかったと嘆き、ずっと重荷を背負い続けた蔦重に「少なくとも自分は救われた」と伝えてあげて欲しいと思います。

最終回のサプライズとして、しお(蔦重が用意した瀬川用の変名)が登場……なんてことがあったら嬉しいですが……まぁ、ないでしょうかね。

一方「潔く身を引いたからこそ、瀬川の華が引き立った」とも言えるわけで、中途半端に最後だけ出て来られても……と思わなくもありません。

視聴者の皆さまは、どのようにお考えでしょうか。

終わりに

今回は蔦重から離れて行った歌麿と瀬川について考察してきました。

歌麿の面倒なこじらせぶりが可愛い(蔦重は早く気づいてやれ!)という意見が多い一方で、いつまでウジウジしているんだ、という声も少なくないようです。

蔦重に別れを告げた後、満たされないままに苛立ちを募らせる歌麿は、今後どうなっていくのでしょうか。

あと4回で二人の関係がどのようにまとめられていくのか、そして瀬川の再登場はあるのか……最終回まで見守って行きたいですね。

文 / 角田晶生(つのだ あきお)校正 / 草の実堂編集部

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