「日本一行くのが困難」と言われる道の駅に行ってみた! 世界遺産の中にある『道の駅とくのしま』
繰り返しの日常に飽き飽きしてどこかに行ってしまいたくなることって誰にでもあるだろう。1週間後とか悠長なことは言ってられない。すぐ行きたい。ここではないどこかへ。
そう思っていたところ、道の駅マニアYouTuber『拝啓、道の駅から』のスーザンさんから連絡が来た。なにやら明日、マニアの間で「日本一行くのが困難」と言われている道の駅に行くという。
道の駅がそもそも行きにくいというのにどうかしてる。というわけで、私も一緒に行ってみることにした。
・道の駅とくのしま
その道の駅の名前は「道の駅とくのしま」。名前からも分かるように、場所は徳之島だ。
しかし、徳之島と言われてもピンと来ない人が多いかもしれない。そこで詳細な位置を説明すると、徳之島は鹿児島県の離島で、鹿児島の南約468kmのところにある。離れたなあ。
東京-大阪間がおよそ500kmと言えば、距離感が伝わるだろうか。おまけに、奄美大島ほどメジャーではないため交通の便も都会化されてなくて、まず鹿児島や奄美大島に行ってから飛行機か1日1本のフェリーという乗り継ぎでしかアクセスできない。
2024年12月22日に、そんな徳之島に新しくオープンするのが『道の駅とくのしま』で、オープン前から「日本一行くのが困難」とマニアの間で注目を集めていたらしい。
・フェリー15時間
『拝啓、道の駅から』の2人はオープンの取材で行くが、経費の節約のためにフェリーで行くという。ちなみに、フェリーの乗船時間は15時間で、18時に鹿児島新港を出港して徳之島に着くのは翌朝9時10分。
海上で一夜を明かして行くわけだ。道の駅に。重ね重ねどうかしてると言わざるを得ない。そこで私も同じフェリーを予約した。
・東京から鹿児島中央
翌日、7時20分成田発の便で鹿児島へ。9時35分には鹿児島に着けた。と、鹿児島空港は近いのだが、ここから港がある鹿児島中央に行く必要がある。空港からバスに乗り換え45分。鹿児島中央に着いたのは10時50分くらい。鹿児島温かいなあ。
というわけで、鹿児島中央までは飛行機の出発時刻から3時間30分くらいを目安に考えると良いだろう。お昼ご飯を鹿児島で食べたい人は9時までに飛行機に乗るのがオススメだ。
・鹿児島新港
で、徳之島に行く船が出るのは鹿児島新港。この辺りはいっぱい港があって行く離島によって港が違うから間違えないようにしよう。住所は鹿児島県鹿児島市城南町45-1である。
特殊に感じた点として、予約をしていても乗船申込書は全員記入が必要だ。そして、窓口で乗船申込書を提出して料金を払うことで乗船券をもらうことができる。この乗船申込書の提出は出航30分前までなので注意。
なお、今日私が乗船するフェリーはマルエーフェリーという会社の「フェリー波之上」。予約したのは2等寝台Aシングルで1万9380円。他の2等の部屋より少し高めだけど、問い合わせたところこのプランは1人1室になるそうだ。
・フェリーの内部
寝台フェリーも初めてなら15時間もの船旅も初めてなので、まず眠れることに重点を置きたい。乗船してまず部屋をチェックしてみたところ、シングルサイズのベッドにあつらえたような1人用の部屋で、机もテレビもあってなかなか良い。優雅とまではいかないが、くつろげる旅路になりそうだ。
そして、ここで「拝啓、道の駅から」の2人と合流。2人は2等寝台Bで、4名一室の二段ベッドの部屋を予約した様子。価格は1万3500円らしい。
窓の外は夜の帳(とばり)が降りた海。出航した船の中で2人と合流するとついに旅が始まったようなワクワク感を感じた。出会って5秒で即出航~! Ahoy! Ahoy!
──この時は知る由もなかった。地獄が待ち受けていようとは。
・出航1時間
合流した我々は、レストランで食事を取ることに。メニューは肉系のパワーを感じるもの多め。船のレストランと言えば高そうだけど、ハンバーグ定食(1100円)を注文したところ特別高いようには感じられなかった。味も含めどちらかと言うと庶民派である。
このレストランを始めとして、船の中にはトイレやシャワールームなど、生活に必要な機能がひと通り備わっていた。喫煙所もちゃんとあったのは喫煙者にはありがたいところ。15時間だもんなあ。
また、クリスマス仕様で中央の階段脇にクリスマスツリーが立っていた。階段もイルミネーションで飾りつけられていて、そのホームパーティーみたいなお手製のおもてなしがとても良い味を出している。クリスマスイブは明々後日か。そんなタイミングでなぜ私は鹿児島から出航してるのか?
今1番考えてはいけないことな気がしたのでその気づきはさて置いて、それさえスルーしたら船の中はとても穏やか。明日の予定を考えるだけで胸が躍る。
・地獄開始
ただ、そんな時間は1時間ちょっとで終わりを迎えた。胸が躍るどころか、腹の中が踊る。脳みそが踊る。世界が踊り出す。ぐらんぐらん揺れてまっすぐ歩けねェェェエエエ!
そう、時化(しけ)だ。湾から出た瞬間からだと思う。壁に手を当てて歩いても歩けないほど船がナナメになりだしたのは。ヤバイヤバイヤバイ! 『宇宙よりも遠い場所』みたいになってる!!
女子4人が南極を目指すアニメである『宇宙よりも遠い場所』。途中で時化で船酔いするシーンがあるのだが、アニメだから誇張してるかと思いきや、現実でもこんなレベルでナナメになんの? これ船転覆せんか……?
その時化の前ではシングルルームとか無意味だった。誰がこの中でテレビ見るねん! いい加減にしろ!!
ベッドに横になっていると酔いはしないのだが、揺れはマシに感じられたりはしない。ベッドごとスプラッシュマウンテンを滑っているようだ。そして5秒に1回くらい落ちる。一人部屋とか関係ねェェェエエエ!
100歩譲って上っていく時は良いとして、上り切った後に「行きすぎちゃったてへぺろ」みたいな感じで、引き戻されながら落ちる感覚がガチでキツイ。港の売店で酒売ってたけど、この中で酒飲むヤツ強すぎるだろ! いい加減にしろ!!
だが、最もいい加減にしてほしかったことは……
この揺れが14時間続いたこと。
・地球を感じた
いつかヤバイところを通り過ぎるだろうと我慢していたら、進むごとに横揺れが加わったり「ドカーン!」みたいなスペクタクルな音も鳴り始めたりで10時間。ちょっとは休めや。常識ないんかい。
奄美大島で1度落ち着いたので、もう大丈夫かと思いきや、奄美大島からの4時間でもう1回来る。安心させといて襲ってくるの鬼畜すぎるだろ! もうええっちゅうねん! 空気を読め!!
誠に地球。クリスマス直前とかヤツには関係ない。地球のサイコパスっぷりを14時間肌身に叩きこまれている気分である。オーバーキルすぎるだろ! そして、夜が明けた──
5階の窓に潮がついてるってどういうことやねん。そこで甲板に出てみたところビシャビシャであった。むしろ生きてて良かったと言えるかもしれない。しかし、朝フェリーのスタッフさんに昨夜の揺れについて話を聞いたところ……
スタッフさん「あれは冬の時化ですね。この時期は毎日昨晩くらい揺れます」
──回答が剛の者すぎた。毎日あれの中で働くって傾きすぎだろ。花の慶次かよ。圧倒的なリスペクトを感じながら下船したところ、陸に降り立った瞬間の安心感が半端じゃなかった。人は大地を離れては生きていけない。そりゃラピュタも滅びるわけだ。
・たどり着いた先にあったのは
さすが日本一行くのが困難な道の駅と噂されるだけあって、軽く人生観が変わった気がする。母なる大地に感謝。今日も生きていることに感謝。圧倒的、感謝。感謝が頭の中でぐるぐる回って、なんだか世界も揺らめいている。
って、これは陸酔いか。極限状態の中、レンタカーで徳之島を走り散らかしていたところ道の駅が見えてきた。やっと着いた……。日本にこんなに遠い場所があったとは。そんな道の駅とくのしまは……
楽園に見えた。
遠い山。広がるサトウキビ畑の中を走る1本の道。そして、古びた電線。道の駅からの景色をバックに地元の子供たちがハシャいでいる。時間がゆっくり流れているかのような錯覚に陥った。
これも酔っているのだろうか? ひょっとしたらフェリーで困難な道のりを来なければ、なんてことない景色なのかもしれない。ただ、今の私はこう思わずにはいられなかった。「来て良かったなあ」と。
なお、徳之島は島自体が世界自然遺産に登録されている。つまり、この道の駅は世界遺産の中にある道の駅だ。そういった意味でもここから見える景色には価値があるのではないだろうか。
・レストランが良い
したがって、道の駅の中も地域性を重視した内容。徳之島や奄美大島、沖縄土産も置かれている他、レストランの料理は「とくの島バーグ定食」や「島肴の漬丼」など、どれも手がかかっていて迷うレベル。価格は全て同じ1300円だ。
3人で1品ずつ注文して実物を見てみたところ、鶏飯を卵でとじた「鶏オム」に特にアイデアを感じた。オムライスの発想を鶏飯に用いたもので洋食と郷土料理のマリアージュと言える。
・真の地獄
ここら辺の「道の駅とくのしま」の内部については『拝啓、道の駅から』の動画もご確認いただけるとより分かりやすいだろう。素朴と言えば素朴だけど、ここはこれくらいがむしろちょうど良いように感じた。ただ、1つ絶望的なのは……
これからまたフェリーで15時間かけて帰るということ。そう、フェリーの状況を知らなかった我々は当然帰りもフェリーの予約をしているのである。ちなみに、帰りの便は本日の17時だ。地獄かよ。
道の駅の人に聞いたところ島民も普通は飛行機を使うらしい。飛行機だったら1時間ちょっとなんだって。なんなら東京からでフェリーで来たって言ったら若干引いていたくらいだ。
というわけで、日本一行くのが困難な道の駅に、わざわざ困難な手段で行った人になってしまった我々。言わずもがな、ここに来ようという人は飛行機で行くことをオススメしたい。
・今回紹介した店舗の情報
店名 道の駅とくのしま
住所 鹿児島県大島郡徳之島町花徳2206番地
営業時間 9:00~18:00
参考リンク:道の駅「とくのしま」インスタグラム(@michinoeki.tokunoshima)
執筆:中澤星児
Photo:Rocketnews24.