【稲羽の素兎】オオクニヌシノカミが素兎を救った方法とは？【眠れなくなるほど面白い図解プレミアム古事記の話】

2/13(木) 14:00配信

稲羽の素兎

八十神に騙された素兎

【オオクニヌシノカミが素兎を救う】

オオクニヌシノカミは、はじめはオオアナムヂノカミ（大穴牟遅の神）と呼ばれており、八十神（やそがみ）と総称される腹違いの兄弟神がたくさんいました。

その誰もが＊稲羽(いなば)（因幡）のヤカミヒメ（八上比売）を妻にしたいと考えていました。

兄弟神たちは求婚のために連れ立って稲羽の国へ出かけました。

若いオオアナムヂノカミは荷物を背負わされて従者として同行し、行列の一番最後を歩いていました。

途中、気多（けた）の岬（鳥取市の白兎(はくと)海岸）を通りかかったときのことです。そこに皮を剥（は）がれた丸裸の兎（うさぎ）が倒れ伏していました。

これを見た八十神がからかって、こういいます。「その体を癒やすには、海水を浴び、風によく当たってから、山の尾根に伏せるがよいぞ」

兎はすぐさま教えられたとおりにやってみました。すると、みるみるうちに塩が乾き、体中がひびだらけになってしまったのです。

あまりの痛さに泣きながらもがき苦しんでいるところに、八十神一行の最後尾を歩いていたオオアナムヂノカミが通りかかりました。

オオアナムヂノカミが兎に泣いている理由を尋ねると、このように答えます。

「私は淤岐（おき）の嶋（隠岐島）からこちらの島に渡ろうとして、鰐(わに)（サメのこと）を欺きました。うまいことをいって、鰐を利用しようと考えたのです。それで『鰐と兎のどちらの一族の数が多いか、数えてあげよう』といい、淤岐の嶋から気多の岬まで鰐を一列に並ばせました。そして、鰐の背中を踏みながら数え、もう少しで陸地というところまできたとき、『あなたたちは私に騙（だま）されたのだ』とうっかり口を滑らせてしまいました。すると、いちばん端にいた鰐に捕まり、こうして体の皮をすべて剥がされてしまったのです」

それから兎は八十神たちに騙されたことも話しました。

それを聞いたオオアナムヂノカミはいいました。

「すぐに河口へ行って、真水でよく体を洗うのです。岸辺に生える蒲黄(ほおう)（ガマの花粉）をとって、それを敷き散らした上に寝て転がればよくなるでしょう」

教えられたとおりにすると、果たして兎の体は元どおりになりました。

この兎がいまも兎神（うさぎがみ）と呼ばれている、稲羽の素兎（シロウサギ）です。

兎はオオアナムヂノカミに感謝して、
「ヤカミヒメを娶（めと）ることができるのは、あなた様でしょう」
そう口にしました。

なお、鳥取市には、稲羽の素兎を祀る白兎（はくと）神社があります。

＊　稲羽の八上比売は、因幡の国八上郡（現・鳥取県八頭市）にちなむいいかた。

素兎は八十神に騙されてしまった。

うまく鰐を利用したつもりが、島を渡りきる直前で捕らえられた素兎。

伝説のワニの正体

『古事記』では、稲羽の素兎神話のほかにも、この後の海佐知山佐知神話でワニが登場します。そこでいまだ論争が続いているのが、「ワニ」は何を指すのかということです。地域によって、鮫をワニと呼ぶところがあるためです。天平５（733）年に成立した『出雲国風土記』では、ワニとサメが区別して記されており、結論はまだ出ていません。