日本のビジネスパーソンは“正しい休み方”を知らない。仕事のパフォーマンスを爆発的に上げるための「攻めの休養」
寝ても寝ても眠い。結果、日中の眠気に耐えられず、仕事のパフォーマンスが下がってしまう……。そんな悩みを抱えている人も少なくないでしょう。
皆さんはちゃんと「休めて」いますか?
スキルアップやキャリアアップに励むなかで、ついおざなりにしがちなのが「休むこと」です。「20代の努力が30代のキャリアを作る!」とはよく言われるものの、働き過ぎて体を壊してしまったら元も子もありません。
「自分に合った休み方を模索したり、休みの捉え方を考え直したりすることで働き方がガラッと変わります」
そう語るのは、20年にわたり休み方を研究し続けてきた片野秀樹さん。片野さんは日本のビジネスパーソンの休みに対するリテラシーの低さに警鐘を鳴らしながら、「正しい休みの取り方」を発信してきました。そんな仕事の集大成となる著書『休養学:あなたを疲れから救う』(東洋経済新報社)では、「疲れたらコーヒーを飲む」「甘いもので自分にごほうび」といった休みにまつわる俗説を科学的に間違っていると指摘しています。
では、一体私たちはどうやって休むのが「正解」なのでしょうか……? 片野さんと共に探ります。
片野秀樹さん。博士(医学)、一般社団法人日本リカバリー協会代表理事。株式会社ベネクス執行役員。東海大学大学院医学研究科、東海大学健康科学部研究員、東海大学医学部研究員、日本体育大学体育学部研究員、特定国立研究開発法人理化学研究所客員研究員を経て、現在は一般財団法人博慈会老人病研究所客員研究員。日本リカバリー協会では、休養に関する社会の不理解解消やリテラシー向上を目指して啓発活動に取り組んでいる。著書に『休養学:あなたを疲れから救う』(東洋経済新報社)など。
「休むこと=寝ること」ではない。日本人が陥りがちな、休みにまつわる「勘違い」
──いきなり私事で恐縮なのですが、最近寝ても寝ても眠くて……。これは体の疲れが取れていないサインなのでしょうか?
片野秀樹さん(以下、片野):そうかもしれませんね。でも、現代の日本人って疲れているわりに、実はそこまで働いているわけではありません。実際、日本人の年間労働時間は、世界的には「平均以下」です(OECDが取りまとめた2022年のデータによると加盟国38カ国中23位)。
じゃあなぜここまで疲れているのか。スマホやパソコンを日常的に使うことで、脳を疲れさせるマルチタスクを常時行ってしまっているのも要因のひとつかもしれません。
でも、何より私は「休養に対するリテラシーが低い」ことが根本の原因だと思うんです。例えば、固定概念のように「休むこと=寝ること」だと捉えている、など。
──えっ、違うんですか?
片野:もちろん、睡眠には傷ついた細胞を修復したり、記憶を整理したりする効果があるので、睡眠時間を確保することは大切です。でも、寝るだけで100%疲れが取れるか、といえばそうではない。その理屈なら、1カ月間ずっと寝ていれば自動的にパフォーマンスが出るようになるはずですよね。
でも実際には、1日横になっているだけでも筋力は3〜5%減り、それを1週間続けると20%も落ちてしまい、以前の状態へ回復するまでに1カ月も要します。それは元気な状態だと言えるのか……? と問われると微妙なところです。
──なるほど。寝ることで失うものがあるんですね。
片野:むしろ、寝ることは悪と考えられる場合もあります。平日溜まった疲れを土日に寝溜めすることで解消しよう、と考えている方も多いかもしれません。でも、安易に寝溜めをすると、体内時計が狂い、週明けの日中も体が活動モードにならず、かえって疲れやすくなってしまう“ソーシャル・ジェットラグ(社会的時差ぼけ)”の状態に陥る可能性もあります。
だから、自分がもっともパフォーマンスを出せる睡眠時間を把握しておかなければいけないわけですが、それを把握できている人はどれくらいいるでしょう?
──たしかに……。考えたこともなかったです。
片野:その背景には、自己犠牲が美徳であるという価値観の根強い日本社会で、「休むことは悪である」という強迫観念が浸透しているからではと考えています。
例えばドイツの会社の年度始めは、各々がカレンダーを広げて、休みたい時期を調整するところからはじまるんですよね。それは、「休みを取らなければ、生産性高く仕事ができない」という考え方がベースにあるからです。
本来はこの「何のために休むのか」という目的感を持つことが、休みを取るうえで一番大切なんです。疲労を抱えながら働くのか、逆にしっかり休んでから働くのか、自分と会社の目的を踏まえたら、答えは明白ですよね。
休みは「逆算思考」で捉える。「疲れたから休む」ではなく「疲れそうだから先に休んでおく」
──休みと聞くと「休日」を想定する方も多いと思いますが、効果的に休むうえで、「休日」をどう捉えればいいのでしょうか?
片野:休日は平日の疲れをとる日ではなく、「平日疲れそうだから先に休んでおく日」と捉えればいいと思います。
例えば、いしかわさん(聞き手)は1週間のうち、平日5日間と土日2日間をどのように位置付けていますか?
──月曜日から金曜日を走り抜けたあと、土日に休んで疲れを取る、という感覚でした。
片野:ほとんどの人はそうした、平日のあとに土日が来る「ウィークエンド思考」のなかで生活をしているのではないか、と思います。
でも、それだと木曜日や金曜日の過ごし方が「ここを乗り越えたら休める!」という発想になってしまいますよね。するとどうなるか。出勤しているにもかかわらず、パフォーマンスが上がらない“プレゼンティズム(心身の不調を抱えて仕事すること)”の状態に陥るんですよ。
なので、平日にやらなければいけないタスク、達成しなければならない目標から逆算して、土日にどれくらいの活力を蓄えればいいのかを考えるのが合理的と言えます。十分に休んだ状態で、仕事のピークに突入するほうが良いパフォーマンスを発揮できますからね。
だからこそ、長期休暇や有給休暇も大事な予定や繁忙期の「前」に取ることをオススメします。
──疲れる前に休む。その発想はなかったです。でも、「先に休む」というロジックで、上司をうまく説得できるかどうか……。
片野:休むこと=怠けることではありません。むしろ、しっかりと休みを取って疲れていないベストな状態で仕事をするのは、社会人としての責任だと思うんです。
病気になる前に、身体から出るシグナルが3つあります。それは発熱、痛み、疲労です。発熱と痛みは症状がハッキリしている分、周囲の理解が得やすい一方で、「疲れているので休みます」という理屈はなかなか理解が得づらいのが現状です。
でも、疲れたまま会社に行ってパフォーマンスが出せなかったら、熱が出ている状態と同じですよね。
携帯電話だって、30%や50%のバッテリー残量で使うより、100%充電できている状態で使ったほうがスムーズに動くはずです。
──たしかに……。
片野:つまり、社員が適切に休まないことは会社にとってもデメリットしかないんですよ。
たとえ休むことに抵抗があっても、今の状態で本当にパフォーマンスが出せるのか、自問自答し続けるのが大切だと思います。
デキる人は休みを「ルーティン化」する。休みは「非日常」ではない
──先ほど「平日5日間にやらなければいけないタスク、達成しなければならない目標から逆算して、土日2日間にどれくらいの活力を蓄えればいいのかを考える」とおっしゃいましたが、自分が何をすればどれくらい活力が蓄えられるのか、どう把握すればよいのでしょうか?
片野:“勤務間インターバル”を使って、ルーティンを見つけるのがいいと思います。
勤務間インターバルは、勤務が終わってから翌日の勤務までの時間のこと。休むうえでは、通勤時間や食事時間、家族と過ごす時間などをどうマネジメントするかが大切です。
そのなかで、パフォーマンスを出すことにつながった過ごし方を、きちんと振り返って記録してもらいたいんですよ。「この時間に寝たときが良かった」「こういう行動をしたら疲れが取れた」というのが見つかったら、あとはそれを繰り返していく。
活躍しているアスリートや経営者にはルーティンを守っている人が多いように、皆さん一人ひとりにベストな休みのルーティンがあるはず。自分自身の生活パターンを捉えて、セルフコントロールしていくことで、より高いパフォーマンスが出るようになると思います。
──「休みもルーティンだ」という考え方は面白いですね。いわゆる「ウィークエンド思考」で生活していると、ついつい休みを「非日常的なもの」だと捉えてしまいがちです。
片野:将来的に今より高いポジションを目指したい、より良いパフォーマンスを出したい、と考えるのであれば、セルフコントロールは欠かせません。休みの取り方はセルフコントロールに直結しているんですね。
人と交流するのも立派な休み。タイプの違う休養を組み合わせて自分に合ったルーティンを作ろう
──休みの捉え方を理解したところで、先ほど「勤務間インターバルの過ごし方を考える」という話も出ましたが、どんな「休み方」が疲れを取るために効果的なのか、教えていただけますでしょうか?
片野:「今の休み方ではパフォーマンスが出ない」と感じているならば、やはり“攻めの休養”が必要でしょうね。
──攻めの休養?
片野:自分自身で休み方をデザインするということです。
私は、休養を「生理的休養」「心理的休養」、そして「社会的休養」の3つに分けて考えているのですが、それをさらに分解した、7つの休養モデルをうまく組み合わせることで、疲労回復効果が2倍にも3倍にもなるんです。
──3倍にも! 7つの休養モデルにはどのようなものがあるんですか?
片野:まず、「生理的休養」には、睡眠や休憩などの「休息タイプ」、適度に身体を動かす「運動タイプ」、食べる量や回数を抑える「栄養タイプ」があります。
次に、「心理的休養」には、人や自然と交流する「親交タイプ」、趣味・嗜好を追及する「娯楽タイプ」、創作活動をする「造形・想像タイプ」があります。
そして、「社会的休養」には、まわりの環境を変える「転換タイプ」があります。
これら7つのタイプを知っておけば、仮に睡眠不足の時も、その補助として、自分自身にぴったり合った休み方を見つけられると思います。
【さまざまな休養の種類】 生理的休養……休息タイプ(休憩する、寝る、ゴロゴロするなど) ……運動タイプ(ウォーキング、トレーニング、ストレッチなど) ……栄養タイプ(体に優しい食事を摂る、食事量を抑える、断食するなど) 心理的休養……親交タイプ(雑談をする、親しい人と触れ合う、自然に触れるなど) ……娯楽タイプ(本を読む、音楽を鑑賞する、推し活をするなど) ……造形・想像タイプ(絵を描く、文章を書く、DIYをするなど) 社会的休養……転換タイプ(部屋の模様替えをする、旅行に行く、買い物をするなど)
──休養にもさまざまなタイプがあるんですね。人と交流することが休養に繋がる、というのが意外です。
片野:もちろん、人と触れ合うことでストレスを感じる人もいるので、上手に使い分けていただきたいとは思っています。大切なのは複数のタイプを組み合わせること。携帯電話にたとえるなら、一気に充電するのではなく、いろんな場所で小まめに充電していくイメージです。
「娯楽タイプ」の映画を観て20ポイント。「転換タイプ」の部屋の模様替えをして20ポイント。そして「休息タイプ」の睡眠で40ポイント……というように。
──さまざまなタイプを組み合わせながら、自分に合ったルーティンを見つけていくと。
片野:そうですね。この休養モデルを知っているだけでも、行動が変わってくると思います。例えば、スープを飲んでほっと一息つきたいとき、通常ならインスタントを選ぶかもしれないけど、冷蔵庫にある余った食材を混ぜてみるだけで、「造形・想像タイプ」の休養に変わるわけです。
さらに、スープを誰かと一緒に作れば「親交タイプ」に、出来上がったスープを持って近くの公園まで行けば「運動タイプ」「転換タイプ」も組み合わせられるかもしれません。
このように、モデルを知っていれば、自分の生活環境のなかで複合的に休みを取れるようになるんです。
──休みの捉え方、そして休み方に対する解像度がグッと上がりました。今日から休む前に「良いパフォーマンスを出すためにどう休むべきか」と考えられそうです!
片野:それはよかったです。「休み方」が変われば、働き方やキャリアも変わる。そう信じています。
取材・文:いしかわゆき写真:佐坂和也編集:はてな編集部制作:マイナビ転職
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