宮崎湧「最後まで魔界を生き抜きます!」“魔”訶不思議な悪魔の世界再び『魔入りました!入間くん』THE STAGE 再演ゲネプロレポート
魔界学園ファンタジー『魔入りました!入間くん』を原作とした『魔入りました!入間くん』THE STAGE 再演が2024年8月30日(金)、東京・東京ドームシティ シアターGロッソで開幕した。
主人公・鈴木入間役の宮崎 湧をはじめ、全キャストが初演から続投する。原作の魅力の一角を成す個性豊かなキャラクターたち。それを2023年5月に上演された初演で見事に表現し、ファンの心を掴んだカンパニーによる再演とあって、自然と期待は高まる。
本作では再び、波瀾万丈な鈴木入間の始まりの物語が描かれる。奔放な親に売られた先は、なんと魔界。魔界の大悪魔にして、悪魔学校(バビルス)の理事長を務めるサリバンの孫として、入間は人間だとバレないように学園生活を送ることに。悪魔は人間を食べると聞いた入間は、なるべく目立たないようにしようと決意するも、彼はいつの間にかトラブルや喝采の中心にいてーー。
人間界では親に振り回されて、自分の居場所を何一つ持てなかった14歳の少年・入間。“究極のお人好し”、そんな魔界に不釣り合いな取り柄だけを手に、彼は魔界で初めての居場所と“オトモダチ”と“自分の意志”に出会っていく。
入間はどこかアンバランスな少年だ。オドオドしているかと思えば、修羅場をくぐってきた経験から肝は据わっている。他人に流されて生きているように見えて、ここぞというときはやり抜く強さを持つ。14歳という未成熟な年頃であることも加わって、独特な掴みどころのなさを持つ。
その入間のアンバランスさを、宮崎が絶妙なさじ加減で引き出していた。入間はともすれば大げさでコミカルに見えてしまうキャラクターだろう。しかし、宮崎は繊細さと大胆さを綱渡りで行き来するような芝居で、始まりの物語のその先に潜む、入間の可能性までも示唆してみせた。
そんな入間とオトモダチとなるのが、アズくんことアスモデウス・アリス(松井勇歩)とウァラク・クララ(小山百代)だ。三人の友情は、入間の魔界での成長を語る上で欠かせない本作の軸である。
松井は会見で、キャラクターと自分は「真逆」だと語っていたが、芝居に真摯なところは優等生のアズに通じるところがあるのではないだろうか。安定感がありつつも、時折暴走してしまうアズのコミカルな一面を、関西出身の松井らしい軽快なノリで演じきる。
曲者ぞろいの登場人物の中でも、一番ふわふわしていて突拍子もない人物、いや悪魔がクララだろう。脈絡のないことをしているようで、その根幹には優しさがある。小山の演じるクララは、目立つ言動の裏に隠れてしまいがちなクララの優しさをしっかりと届けてくれた。
クララとは対象的に気高く美しく、そして強い生徒会長のアザゼル・アメリ(立道梨緒奈)は、実は乙女な内面との二面性で観客を楽しませる。入間に対して孫バカっぷりを発揮するサリバン(林野健志)、その優秀な執事オペラ(和合真一)、入間の担任となる厳粛な教師ナベリウス・カルエゴ(谷口賢志)といった入間と関わる大人たちは、持ち前のアドリブ力も存分に発揮。作品の魅力の一つであるドタバタ感を巧みに生み出し、観客と魔界の橋渡しをしてくれた。
そして、入間たち仲良し三人組が所属することになるアブノーマルクラスの面々も相変わらず個性豊かで賑やか。今回描かれた飛行試験や処刑玉砲試合で活躍するサブロック・サブロ(桜庭大翔)を筆頭に、アンドロ・M・ジャズ役の山﨑玲央、シャックス・リード役の相田真滉、イクス・エリザベッタ役の赤坂麻凪らがキャラクターに命を吹き込む。原作ではストーリーを追うごとに、クラスメイトそれぞれにスポットが当たっていく。どのキャラクターも完成度が高いだけに、それぞれがメインとなるエピソードもぜひ舞台で観てみたくなった。
魔界に単身放り込まれても、入間は幼い頃から培ってきたお人好しと強靭なメンタルで魔界を生き抜いていく。それほど高い順能力を持つ彼だが、最初はそこに彼の意志と呼べるものはなかった。しかし、悪魔たちとの出会いが彼を少しずつ変えていく。
原作の序盤を描く本作では、まだ入間の踏み出した一歩は小さい。だが、宮崎のパワフルな演技との相乗効果で「この入間くんはこの先、きっと大きなことをやり遂げるのだろう」と、未来の入間に対し期待を抱かせてくれた。自分の未来を掴み取ろうと歩き始めた、その華奢な背中に、大きな勇気をもらってみてはどうだろうか。
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■囲み会見レポート
ゲネプロ前に実施された囲み会見には、鈴木入間役の宮崎、アスモデウス・アリス役の松井勇歩、ウァラク・クララ役の小山百代、サブノック・サブロ役の桜庭大翔、アザゼル・アメリ役の立道梨緒奈の5名が登壇。同じカンパニーで挑む二度目のスタートに向けて、和やかに意気込みを語った。
――初演から全員続投で迎える再演です。改めて今の心境をお聞かせください。
立道:全員続投ということはなかなかないので、すでに出来上がっているファミリー感を作品にも活かして、初演よりさらに団結力をもって、その、アレです。アレ。
一同:(笑)
立道:言葉が出てこない(笑)。つまり、仲のよさを十分に出していって、楽しみながら頑張りたいです!
桜庭:キャストは全員一緒ですが、人によってはこの一年でかなり筋肉が育ったキャストもいるようで(宮崎の方を見ながら)。衣裳の制服がピチピチだとか。
宮崎:ふふ。
桜庭:初演のときに僕は筋肉のよさを布教していたのですが、その成果があってよかったです(笑)。僕も一回りも二回りも大きく育てたので、ぜひこの顕になっている筋肉を楽しんでもらいたいです!
一同:(笑)
小山:去年は人見知りしている部分もあったのですが、今回はそれもなく、毎日楽しく稽古ができました。初演で培った団結力で、今年も素敵な作品をお届けできたらなと思います。
松井:僕らの関係性も、それぞれのキャラクターの捉え方も深くなりました。今回は逆に、物語を始まりを描くための初々しさを感じようとするのが大変でした。去年の悔しい気持ちを感じた部分に対して、こうしてみんなでリベンジできる嬉しことを嬉しく思います。
宮崎:勇歩くんが言ったように、関係性が深まったからこそ、最初の物語を描くことの難しさに衝撃を感じました。とはいえ、信頼関係はできているので、そこにいい意味で甘えて、みんなで新しい色を作り上げてきました。再演ではありますが、改めてキャラクターへの新しい解釈も生まれて、キャラクターの意外な一面を知る稽古だったので、お客様にもキャラクターたちのいろいろな表情をたくさん観てもらえたら嬉しいです。
――稽古場での印象的だったエピソードを教えてください。
一同:(無言で顔を見合わせる)
松井:アカン、あんなに仲いいってみんな言ったのになにも出てこない(笑)。あ、一つ思い出しました。サリバン役のたけさん(林野健志)がブランドを立ち上げてらっしゃって。僕がそこの服を着ていたら、カンパニーのみんなもいつのまにか同じものを買っていて、気づいたらキャストの半分くらいが同じ服をおそろいで買っていた……というくらいのエピソードしか出てこないんですが(笑)。初演はみんな関係性を作ろうとしていたんですが、再演なので改めてそういうことをする必要もなくって。
宮崎:そうだよね。すごくナチュラルにご飯行ったりするようになったので、いざ話そうとすると出てこない。
松井:さあ、僕けっこう時間稼いだよ! 今の時間で考えたよね!?
小山:えーっと、今回はみんなの表情を見て、今日疲れているんだなとか、今日元気なんだなとか、ちょっと読み取れるようになりました。これでどうでしょう?
一同:(笑)
――ばっちりです、ありがとうございます! では、ご自身の演じるキャラクターと似ているところはどこでしょうか。
宮崎:断れないというところが似ているのかな。新しく発見した面としては、いい意味での鈍感力というか。普通そうはならないでしょ?みたいなことが、入間くんにとっては普通のことで。そういう人間界ではずれてしまっているところが自分にもあるのかなと。今回の稽古期間は、自分にとっての“普通”を見つめ直しました。
松井:アズくんは素の自分とは真逆で。エリートだけど天然で、真っ直ぐすぎてやりすぎちゃうところがあるアズくんですが、真逆だからこそ演じる楽しみがあると感じています。
小山:去年は似ているところがないと思っていました。でも、クララの明るい部分に引っ張っていただいて、稽古期間は自分自身も明るく元気にいられているなという実感があって。千秋楽まで、クララの明るさに引っ張っていってもらって、健康に駆け抜けたいと思います!
桜庭:僕は歯ごたえがあるものが好きで、なんでも固いほうがいいんですよ。ハードグミをさらに冷蔵庫で冷やして固くするくらい固いものが好きで。
一同:(口々に)ええ!?
桜庭:そこは、首飾りの鉄や銅を噛んで具現化するというサブノックの家系能力に通じるところがあるのかもしれません。
松井:それ似てるところで合ってる?
桜庭:大丈夫です!
立道:私は……(しばし悩んで)強そうなところですかね。あと、アメリは表情に気持ちが出るので、そこは私ににているなと今回の稽古中に思いました。そこの共通点を大事にして頑張りたいと思います。
――最後に、お客様へのメッセージをお願いします。
宮崎:再演という形で初日を迎えられることを嬉しく思います。西先生が生み出した物語を、僕たちが腹の底からセリフとして発して、より本物になれるように、この日のために駆け抜けてきました。「恐ろしいときほど前に出ろ」という劇中のセリフが僕はすごく印象的で。初演ではいろいろなことがありましたご、この言葉通り、このカンパニーならどんな壁でも乗り越えていけるんじゃないかなと思っています。原作の力を信じて、最後まで魔界を生き抜きます!
入間くんのように人の心の柔らかいところにスルリとはいってくる笑顔で、宮崎が会見を締めくくった。『魔入りました!入間くん』THE STAGE 再演は、2024年8月30日(金)~9月8日(日)、東京ドームシティ シアターGロッソにて上演。人間界の常識は通用しない、“魔”訶不思議なバビルスへ体験入学してみてはどうだろうか。
取材・文・撮影=双海しお