就学前気づかなかった発達障害。友だちトラブル、不登校、転籍・転校…荒れる息子を救った訪問看護とは【読者体験談】
監修:新美妙美
信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 特任助教
小学校入学3日目から友だちトラブルで学校から電話が……
現在10歳の息子は、8歳のときにASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如多動症)の診断を受けました。衝動性が高くじっとしていられない、話を聞くのが苦手、イライラしやすく攻撃的になるといった特性があります。
就学前、私たちは息子の発達障害に気づいていませんでした。通常学級に入学し学校生活がスタートしましたが、入学3日目には友だちとのトラブルが起き、学校から連絡が……。その後も集団行動が難しい、お友だちとの関係がうまくいかないなどの課題が続き、先生方の提案で、通級指導教室へ通うことになり、入室のため知能検査を行い、医療へつながることで発達障害が分かりました。
一方、放課後に通っていた学童では大きなトラブルもなく、穏やかに過ごせていました。クラスとの大きな違いは、自由度の高さだと感じています。学童では、帰る時間やおやつの時間、使ってよい物などの基本的なルールはあるものの、それ以外は自由に過ごすことができます。自分のペースで行動できる学童は、息子にとってストレスの少ない居場所だったようで、学童に行きたいから学校に行っているという状況でした。
不登校と学区外の自閉症・情緒特別支援学級への転籍
友だちとのトラブルが続くなか、2年生になった息子。新しい担任の先生と相性が合わず、不登校になりました。妻は四六時中息子と一緒にいることで追い詰められていったように思います。家族全体がどうすればいいのかと精神的に落ち込んでいた時期です。このまま学校へ行かない選択肢をとるよりも息子にあった環境をとのことで、主治医や担任の先生と相談のうえ、3年生から学区外の学校にある自閉症・情緒特別支援学級へ転籍することを決めました。
息子に転籍の話をすると「転校したくない」とのこと。しかし、今のままではトラブルが予想されること、また特別支援学級から通常学級に戻ることもできることなどを説明し、実際に見学してみたら、幸いにも前向きになってくれました。転籍後、3年生のうちはひたすら先生方や校長先生と情報共有を重ね、4年生になる頃には楽しく過ごせるようになりました。遠方なので、夫婦で送り迎えをしており大変ですが、息子にとって転籍は正解だったと思います。
そして転籍とともに変化があったのは放課後の過ごし方です。転籍後も3年生の間は、元の学校のお友だちと繋がっていたいという本人の希望で、特別に許可を頂いて前の学校の学童を利用していました。しかし、親に学校へ迎えに来てもらっているので、そのまま家に帰りたいとなってしまうことが増え、次第に学童は利用しなくなりました。そして息子が荒れるようになったのです。
予定がないことにイライラ?大声を出したり、暴力的に……
学童へ行かなくなると放課後、予定のない時間が増えました。そんな時間を息子は「暇!」「誰か遊べ!」と言い、機嫌が悪くなるようになったのです。暇な時間が続くと、息子はだんだんと機嫌が悪くなり、大声を出したり、暴力的になってしまうことも出てきました。その段階で放課後等デイサービスを探しましたが、空きがなく利用することができません。
私たちが住んでいる地域では、学童に入れるのが3年生まで。やがて4年生になると学童へ通えない上に周囲の子どもたちも塾や習い事で忙しくなり、一緒に遊べる友だちも激減しました。サッカーや発達障害に理解のあるプログラミング教室へ通っていましたが、習い事が始まるまでの時間で荒れてしまうのです。
よくあるのはゲームかもしれませんが、実は息子はゲームによって暴力的な言動が現れた時期がありました。「もっとやりたい」とゲームを終えたあとも不満が爆発、学校に行かなくなることもあったのです。結果として、ゲームは完全にやめることにしました。
ゲームをやめたことで、以前より落ち着いて自分をコントロールできるようになった印象はありますが、とはいえ、たまにお友だちの家でゲームをした日は、感情のコントロールが難しくなります。息子にとってゲームの影響は大き過ぎると感じています。そのため、ゲームなしで放課後を過ごせる方法を……と悩みました。
そして見つけたのが発達障害の子どもに対応した訪問看護でした。
発達障害の子ども向けの訪問看護
訪問看護は、妻が通っているメンタルクリニックの主治医の先生から発達障害の子どもも医師の指示書があれば利用できることを教えてもらいました。息子のかかりつけ医に相談すると、家族以外の大人と過ごす時間を作るのもいいとのことで、週に2回、45分間、息子がやりたいことを中心とした関わりをしていただいています。よくやるのは工作などでしょうか。
息子は訪問看護の時間をとても楽しみにしています。100%息子のことだけを見てくれる人と遊びながら褒められ、そのことで心が満たされるようです。落ち着いた様子を見せるようになりました。
来てくださるスタッフは固定ではなく、4人ほどのローテーションで、年齢も性別もさまざまです。皆さん発達障害に対する理解があり、安心してお任せできています。また、出不精な息子にとっては、自分の家に来ていただけるという違いが大きいようです。
※訪問看護は認知症以外の精神疾患も対象になります。精神科訪問看護を受けるためには、医師の精神科訪問看護指示書が必要です。
息子の今後に向けて
小学校卒業までは、現在のように平日は訪問看護やサッカー、プログラミング教室など何かしら予定がある状態を保ちつつ、予定までの時間をどう過ごすかを工夫していきたいと考えています。暇な時間には児童館に行ってみたり、自分で遊びを見つけて行動できるように促していきたいです。
中学校以降のことはまだ明確には考えられていませんが、何かしらの部活動に所属し、放課後の居場所が持てるとよいと考えています。
最終的な目標は、「自分のことを自分でできるようになり、一人で生きていけるようになること」です。そこに至るまでは時間がかかるとは思いますが、まずは困ったときに感情的にならずに「助けて」と言える力を育てていきたいです。
エピソード提供/チノパン
イラスト/志士ノまる
(監修:新美先生より)
転籍と放課後の過ごし方の変化について聞かせてくださり有難うございます。
お住まいの学区の学校に特別支援学級がない場合など、転籍して別の学区の特別支援学級に通うこともあると思います。そうすると、通学や放課後の過ごし方にも影響があることもありますね。家族にお迎えに来てもらってまで学童に行くのが面倒になるという気持ちになるというのはあるあるですね。
そうはいっても、家で暇になると、かえってイライラしてしまうというのも分かります。学校で頑張ってきた反動で、暇すぎてイライラしてしまうのかもしれません。このような場合、放課後等デイサービスの利用を検討することも多いかと思いますが、今回の場合は空きがなくて利用ができなかったのですね。そこでウルトラC!!訪問看護を利用されたのですね。このような訪問看護の利用のしかたもあるのかと目からうろこでした。
訪問看護は、在宅で療養されている方に対して、医師の指示で訪問看護ステーションから看護師やリハビリ療法士が、ご自宅に訪問して医療的ケアやリハビリ等を行うサービスです。近年では発達障害や精神疾患のあるお子さんを対象とした訪問看護ステーションが、少しずつ増えてきています。まだここ最近増えてきたばかりなので、お住まいの地域によっては、対応している訪問看護ステーションがないところもあるかもしれません。また、あくまでも医師の指示が必要なので、お子さんの状態によって、主治医が適切と判断するかどうかにより、利用できないこともあります。
今回のケースのような訪問看護の利用は、まだまだ一般的ではないかもしれません。発達障害の特性を理解して対応できる専門スタッフが、定期的に1対1で関わってもらえることで、お子さんの心理状態も安定してきたのですね。とても良かったです。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。