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大コケした大作映画「新幹線大爆破」Netflix 版に備えて3回は観ておきたい素晴らしき理由

Re:minder

1975年07月05日 映画「新幹線大爆破」劇場公開日

樋口真嗣監督が手掛け、草彅剛、細田佳央太、のん、要潤、尾野真千子、斎藤工らが出演するリブート版『新幹線大爆破』の配信が、Netflixで2025年4月23日よりスタートする。これを機に1975年に公開された佐藤純彌監督によるオリジナル版への注目も高まり、5月9日から2週間限定で全国の劇場でのリバイバル上映が決まった。

そこで、リブート版の配信を前に、オリジナル版が、いかに特別な映画だったかをネタバレにならない範囲で再確認しておきたい。以下、原則として何もつけずに『新幹線大爆破』と記した場合は、オリジナル版を指すものとする。

「新幹線大爆破」はパニック映画である


《ひかり109号に爆弾を仕掛けた。その爆弾は時速80キロになったとき、自動的にスイッチが入り、それ以上のスピードで走っていれば爆発しないが、再び80キロに減速すると爆発する仕掛けになっている》

国鉄本社にかかってきたその電話は、新幹線に乗る多数の人々に命の危機が迫っていることを告げる内容だった。国鉄サイドが単なるいたずらではないと判断したとき、東京発博多行きのひかり109号はすでに新横浜駅を通過しており、運転指令長は運転士に時速120キロで走行を続けるよう命じる。ひかり109号が博多駅に着くまでのタイムリミットは…… 約9時間だった。

1974年春、実録ヤクザ映画路線に続く新ジャンルの開拓を模索していた東映は『大空港』(1970年)や『ポセイドン・アドベンチャー』(1972年)のようなハリウッドのパニック映画に着目した。そこから、新幹線という日本独自の素材を使った企画が浮上。爆破テロが相次いでいた70年代の時代背景もあったのか、車両に爆弾が仕掛けられるという設定が生み出された。当初のタイトルは『新幹線爆破魔を追え』だったが、より扇情的な『新幹線大爆破』に改められた。アメリカでは同時期に同じ頃に新たなパニック映画『タワーリング・インフェルノ』の準備が進んでいた。

「新幹線大爆破」はオールスター映画である


ハリウッドのパニック映画は、著名俳優を多く集めた群集劇であることも成功の要因だ。制作中の『タワーリング・インフェルノ』も、スティーブ・マックイーンとポール・ニューマンの2枚看板だけではなく、豪華キャストを揃えた作品だった。

そして、『新幹線大爆破』もまた、オールスター映画として企画されることになる。 主役である犯人を演じたのは、当時東映の専属だった高倉健。長らく任侠映画で似たような役柄を演じ続けてきたこの大スターは、新たな刺激を求めていたのだろう。東映はその意向を汲み、勝新太郎との初共演作『無宿』(1974年)や、ハリウッド映画『ザ・ヤクザ』(1974年)など、他社作品への出演を認めるが、やはり、用意されたのもは従来と同じような役だった。そんななかで『新幹線大爆破』の脚本を読んだ高倉健は、自ら出演を志願する。当初は別の役が想定されていたともいわれるが、最終的には犯人役に決まった。誰かを斬ったり、刺したりするキャラクターを数多く演じてきたが、テロリスト役は初めてだった。

リブート版で、 のん がキャスティングされた運転士役は、千葉真一が演じていた。ちょうど『殺人拳』シリーズなどの空手映画を連続ヒットさせ、東映に新たな金脈をもたらしていた時期である。一方、リブート版で斎藤工が演じる役と同様の役割を担うキャラクターに、東映初出演となる宇津井健が起用されている。宇津井健にとって初の東映作品であり、その “外様感” が劇中で効果的に生かされている。このほか、山本圭、郷鍈治(ごうえいじ)、織田あきら、竜雷太、宇津宮雅代、藤田弓子、多岐川裕美、志穂美悦子、志村喬ほか多数の俳優が出演している。さらに、特別出演枠として丹波哲郎、北大路欣也、田中邦衛、川地民夫といった面々も登場する。

そのため、クレジットの表記は大混雑だ。『太陽にほえろ!』(日本テレビ系)で人気だった竜雷太や、黒澤明作品でもおなじみの志村喬は、4人同時の扱いで表示されている。俳優活動を始めたばかりの岩城滉一(台詞なし)や、著名になる前の小林稔侍などは7人まとめてのクレジットで “その他大勢” の扱い。

志穂美悦子や北大路欣也、多岐川裕美の出番は一瞬。田中邦衛も1シーンのみ。一部の俳優は、自分が『新幹線大爆破』に出演していたことすら忘れていてもおかしくない。そうした贅沢さこそが、オールスター映画の醍醐味なのである。

新幹線大爆破は国鉄に拒否された映画である


『新幹線大爆破』の制作費は5億3,000万円。当時の東映映画としては破格の大作だった。撮影には国鉄(日本国有鉄道:現在のJR各社の前身)の協力が不可欠とされていたが、『新幹線大爆破』というタイトルに対して国鉄は強く反発。“新幹線危機一髪” と改題すれば協力するという条件を出したものの、東映はこれを拒否したとされる。当時は日本赤軍などによるテロ事件が相次いでいたため、それに対する社会的なアレルギーも強かった。

1974年末、国鉄は “類似の犯罪を誘発する” として制作中止を求め、1975年春には全面的に協力を断る姿勢を明確にした。そこで東映はミニチュアと隠し撮りによる代替手法を決断し、同年4月下旬にクランクイン。国鉄の協力なしで新幹線映画を成立させるという挑戦が始まったのだ。

結果的に『新幹線大爆破』は特撮映画としての色合いを強めることになる。ひかり109号の車体は1メートル超のミニチュアで再現され、迫力のある走行シーンが撮影された。特撮には、レンタル料が1日100万円ともいわれる最新鋭の “シュノーケルカメラ” がアメリカから取り寄せられ、被写体に極限まで近づいた撮影が重ねられた。また、撮影所内に東京駅ホームの原寸大セットが建設され、新幹線司令室や車両内部もすべてセットで撮影された。

「新幹線大爆破」はノンストップ・サスペンス映画である


当時、そんな言葉はなかったが、『新幹線大爆破』は “ノンストップ・サスペンス” といえる作品である。ひかり109号は止まることができない。一定のスピードで走り続けなければ爆発する。名古屋を超え、新大阪を超え、広島を超え、どんどん終点の博多に近づいていく。

その間に、犯人グループは身代金の受け取りや逃亡に必死になり、国鉄関係者は乗客の安全を最優先にして、事態の収束を図ろうとする。警察は爆発を阻止する手段を追求しつつ、犯人逮捕に尽力する。携帯電話のない時代、何もすることができない乗客はただ状況の改善を願うしかない。それぞれの立場の人たちが、次々に困難に直面し、それが交錯する。“そんなことが起きるのか!” と思わざるを得ない展開が何度もある。2時間32分はあっという間に過ぎていく。

「新幹線大爆破」は職業を描いた映画である


『新幹線大爆破』では、犯人、国鉄、警察、乗客という、主に4つの立場の人たちが描かれている。この中で、特に国鉄と警察の関係者はいずれもプロ意識の高い職業人として描写され、人物としての背景は割愛される。

警察サイドでいえば、象徴的なのが久富惟晴、青木義朗、浜田晃ほか多くのバイプレイヤーたちが演じた刑事たちの姿である。当時は今よりもはるかに男性中心社会だったため、捜査班に女性はいない。ひとりのヒーロー的な刑事が見せ場を独占することはなく、あくまでチームによる分業制である。刑事たちは、それぞれに与えられた持ち場で汗まみれになっている。

国鉄側もしかり。現場の最前線では、運転士(千葉真一)が定められたスピードを保ちながらひかり109号を走らせる。車掌(福田豊土)や公安官(竜雷太)は、車内の混乱を収めようと尽力する。本部にいる指令長(宇津井健)は、人命第一の姿勢を貫き、冷静な判断を続ける。それぞれが、自らの使命に真摯に挑んでいる。

『新幹線大爆破』はただひたすら目の前の仕事に打ち込むプロフェッショナルを描いた映画でもあるのだ。 対照的に、犯人側には丁寧な背景の描写がある。なぜテロを実行する境地に達したのか。そこに1970年代日本のダークサイドを映し出している点も、『新幹線大爆破』の特徴だといえる。

「新幹線大爆破」は大コケした映画である


『新幹線大爆破』の日本公開日は1975年7月5日。東映は異例の大規模プロモーションを展開し、宣伝費は同社史上最高額の9,500万円に達した。しかし、国鉄から上映中止を求める抗議文が届き、全国の駅に宣伝ポスターが掲示NGとなる。制作の遅れにより、完成は封切直前となり、試写会も開かれなかった。

公開時にはアイドルグループ、ずうとるびの32分ドキュメンタリー映画『ずうとるび 前進!前進!大前進!!』が併映された。サスペンス巨編にアイドル映画を添えるという東映の判断は的外れだった。客足は伸びず、配給収入は約3億円にとどまった。 リブート版の樋口真嗣監督は、小学生時代に初日に観に行ったと語っているが、それはかなりのレアケースだろう。話題の『タワーリング・インフェルノ』は1週間前に公開され、配給収入は36.4億円。勝負にすらなっていなかった。

「新幹線大爆破」は再評価された映画である


ではなぜ、『新幹線大爆破』は半世紀後にリブート版が作られるほどの作品となったのか。これには、主にふたつの理由がある。

ひとつは、海外での評価である。東映は当時から作品の輸出に本腰を入れ始めており、『新幹線大爆破』をその一環として売り込んだ。アメリカでの試写、いくつかの国の映画祭での上映を経て、最終的には120か国で公開されたといわれる。ただし、海外で公開されたのは、『The Bullet Train』『Super Express 109』といったタイトルで、犯人グループの人間ドラマを大幅にカットした再編集版だった。特にフランスでは8週間のロングラン公開となった。こちらは高倉健以下出演者がすべてフランス語を話す吹替バージョンだった。こうした海外での実績は、たとえ再編集版であっても『新幹線大爆破』のエンターテインメント性の高さを証明するものだった。

もう1つは、後年の再評価運動の断続的な高まりだ。1978年4月のテレビ初放送によって国内での認知度が一気に高まり、作品の面白さが広く知られるようになった。1980年以降は、複数回のテレビ放送によって、一種のカルト映画として口コミが広がっていった。さらに、レンタルビデオの普及やBS・CSでの再放送を経て、再評価の機運はグングンと高まっていき、『新幹線大爆破』は日本映画史における揺るぎない存在として定着していったのである。

リブート版では、東北新幹線・東京行きの “はやぶさ60号” に爆弾が仕掛けられるという。そのスリルを最大限に味わうためにも、まずは東海道・山陽新幹線の “ひかり109号” に乗り込み、爆弾を抱えて昭和の日本列島を走る緊張感を全身で感じておきたい。

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