伊地知 潔(ASIAN KUNG-FU GENERATION)のドラミングを間近で堪能できるイベント『360°Panorama Drum Performance 2025』レポート
伊地知潔『360°Panorama Drum Performance 2025 in Osaka』2025.6.20(FRI)放送芸術学院専門学校 7Fドリームホール
ASIAN KUNG-FU GENERATIONの伊地知 潔によるスペシャル・ドラム・パフォーマンス、『360°Panorama Drum Performance 2025』が3年ぶりに開催された。今回は前回開催した名古屋、東京を含む東名阪の3公演を実施。観客がドラムセットを360°ぐるりと囲む会場で、伊地知のドラミングを間近で堪能できるこのイベントは、ドラム演奏だけではなく、トークや質問コーナーもあり、ファンにはたまらない内容となっている。こちらでは初日の大阪公演のイベントの模様をレポートする。
バンド音源に合わせた見事なシンクロで圧倒
会場の中心には、伊地知のトレードマークである青ラメの「PEARL Masters Premium Legend」が鎮座。周りを囲む客席は、前方には椅子が用意され、後ろは立ち見で360°どこからでもドラムセット全体を見ることができる。普段ステージ後方に位置するドラムセットを足元までしっかり見られるのは、本当に貴重な機会。正面、背面、サイドなど好きな位置を決めてスタンバイしたお客さんは、セッティングを細部まで興味深く眺めながら、伊地知の登場を待つ。
まずは、司会進行から、冒頭以外の内容はほとんど決めておらず、「お客さんと一緒に作っていくイベント」であることが告げられた。そして、赤い照明の中、伊地知がひとりきりのステージで披露したのは、「Little Lennon」。一音一音、各パーツの響きを確かめるように、ときおりお客さんと目を合わせながら演奏する伊地知。ヴォーカルを含むドラム以外の音源に合わせているが、まるでフルメンバーで演奏しているかのようなリアルなライブ感に圧倒されてしまう。
1曲目を終えると、ぐるりとお客さんを見渡し、「ありがとうございます!」とひとこと。お客さんの中に子どもを見つけて、「(ドラムの音)うるさくないですか?大丈夫?」と声をかける場面も。今回久しぶりの開催となった経緯が語られると、「マイクまわしちゃう?」と早速お客さんから質問を受け付けて交流を楽しんだ。
リアルタイムなリクエストに応えながら曲をセレクト
「ファンとして好きなドラムフレーズがいくつかあるんですけど、伊地知さんが叩いていてテンションが上がるフレーズはありますか?」という質問に対し、「曲を作っているときは楽しいけど、そんなふうに楽しみにしている人がいると知ったらプレッシャーで緊張しちゃう(笑)」と答えつつ、質問者がお気に入りだという「ライフ イズ ビューティフル」を演奏することに。こんなふうにその場の話の流れで、お客さんと一緒に曲を決めていくのもこのイベントの楽しいところ。
最近、新調したスティックについて語る場面では、愛用中のすべり止めワックスを紹介するなど、伊地知のこだわりを知ることができた。さらに、「スティックを実際に触ってみませんか?」とドラム経験者を募るとたくさんの手が上がる。「今までで一番(ドラム経験者が)いる!」と驚く伊地知をさらに感心させたのは、お客さんの演奏技術の高さ。試奏してくれたお客さんには、愛用のスティックがプレゼントされた。
ドラム経験者ならではのマニアックな質問が続々と
ほかにも「金物類のボリューム調整」「曲の中で意識している強弱について」「BPM170でサビ前のフィルインをつくって」などドラム・バンド経験者ならではの質問が多く飛び出し、会場はドラム教室さながらの雰囲気に。演奏中のドラムの音量については、「メンバーの演奏をしっかり聴いて、まわりに合わせることが大事」とバンドアンサンブルの大切さを語り、ライブで10年以上演奏されていないというレア曲、「真冬のダンス」を披露。冬の空気を感じさせる繊細なドラミングで魅了した。
続いて、お客さんからリクエストを募ると、「イントロのドラムが大好き!」と熱望されたのは、2007年のシングル「アフターダーク」。この曲は、アジカンの曲の中でも特にドラム難易度の高い曲で、特徴的なイントロのみならず、全編に渡って複雑でパワフルなビートが展開される。「この曲、めっちゃ疲れるんだよね……このドラム考えたの、誰?と思う」と笑わせながらも、汗をにじませながら完璧なドラミングを披露。客席から大きな拍手が送られた。
中には、ドラム技術に関すること以外の質問もあり、「ツアー中の集中・リラックス方法は?」とハードスケジュールな伊地知の体調を心配するファンも。「気負ってしまうので、あえてルーティーンはつくらない。何も考えずにドラムの前に座ることにしています」とし、海外ツアーの想い出話に展開。その流れで、海外で特に人気が高いという、アニメ『NARUTO -ナルト- 疾風伝』のオープニングテーマ「ブラッドサーキュレーター」が披露された。そして、伊地知が携わるバンドのひとつ「Name the Night」からもワンフレーズ紹介。最新曲「Lights Camera」でヒップホップなグルーヴを生み出し、ドラマーとしての多才なスキルを見せつけた。
ドラムスティックを再利用したスペシャルなグッズを販売
会場では、さまざまなグッズも販売。各会場(東京・名古屋・大阪)5セット限定販売となる「伊地知 潔モデルドラムスティック箸」は、伊地知が実際にライブで使用したドラムスティックの廃材を再利用し、職人が1本ずつ手作業で削り出した世界でひとつだけの箸だ。箸には「伊地知 潔モデル」の刻印も再現されていて、シリアルコード入りの貴重な品となっている。5人しか買うことしかできないため、ライブ中に購入権を駆けたジャンケン大会を実施。伊地知は、参加してくれたたくさんの購入希望者に「うれしい!でもなんか申し訳ない……」と恐縮しつつ、「去年のアジカンのツアーで実際に使用したスティックです!」と話していた。
後半は、アジカンの再録作品に関するファンならではの質問や、軽音部に所属する女子高校生からの初々しい質問に答え、時間目いっぱいまでお客さんとのやりとりを楽しんだ伊地知。そして最後は、今年11年ぶりに復活したアジカン主催のフェス「NANO‑MUGEN FES. 2025」のテーマソング「MAKUAKE」を演奏。ラストナンバーにピッタリな疾走感あふれる演奏で、実際のライブさながらに盛り上げ、イベントを締めくくった。
全員での記念撮影のあとはドラムセットを自由に撮影可能で、あらゆる角度からパーツの写真を撮ったり、ドラムセットと一緒に記念撮影をしたりと、それぞれに余韻を堪能。物販では伊地知本人が接客し、最後までファンとの交流を楽しんだ。
取材・文=岡田あさみ 撮影=福家信哉