進学の選択肢「通信制高校」 学費〜不登校対策まで 失敗しない選び方「4大ポイント」を専門家が徹底解説
認定NPO法人カタリバ代表理事・今村久美さんに聞く、「通信制高校」連載。3回目では、夢と学業の両立など、通信制高校ならではのメリットや、学校を選ぶ際の4つのポイントを教えてもらいました。
【図解➡】男児の “精巣・金玉・睾丸“を失う!? 「精巣捻転」の危険性を泌尿器科医が解説すべての10代が意欲と創造性を育める未来を目指して活動する、認定NPOカタリバ法人代表理事・今村久美さんに聞く、通信制高校について。「通信制高校は、一人ひとりが自分に適した環境を選択できれば柔軟な学びが実現できる」と今村さん。
そこで連載3回目では、これまでの課題を踏まえつつ、通信制高校ならではのメリットや、学校を選ぶ際の4つのポイントを教えてもらいました。
今村久美(いまむらくみ)
認定NPO法人カタリバ 代表理事。慶應義塾大学卒。2001年にNPOカタリバを設立し、高校生のためのキャリア学習プログラムの提供を開始。こども家庭庁こどもの居場所部会委員。東京都学校外での子どもの多様な学びに関する有識者会議委員。東京大学経営協議会学外委員。朝日新聞パブリックエディター。
自分の夢と学業の両立も
通信制高校の大きな特徴は、時間や場所にとらわれず、自分のペースで学習を進められることです。「目的意識がありプランが明確な人には、通信制高校は良い選択肢になる」と今村さん。
実際に、カタリバが開催したイベント「マイプロジェクト」に参加をした生徒の中には、次のような事例がありました。
「不登校になりがちだったある生徒が、『映画を撮りたい』という明確な目的を持って通信制高校に転校。学業と並行しながら映画制作に励んでいました。高校生活は最終的に4年間となりましたが、卒業もでき、高校卒業の資格も取得。この生徒のように、明確な目標を持っている人にとって通信制高校は自分の将来に向けて選択肢を広げるものだと思います。
そして事例としてはまだ数は多くないものの、『起業したい』『スポーツに打ち込みたい』といった目的を持って通信制高校を選ぶケースも、徐々に増えています。通信制高校は、社会全体にとっても、ポジティブな変化をもたらす可能性があると感じています」(今村さん)
多彩な教育プログラムも
通信制高校の特に私立校では、多彩なプログラム(オプション)を提供することで、従来の学校教育の枠組みを越えた学びの機会を生徒に提供している学校もあります。今村さんはこうした通信制高校の取り組みについて次のように述べています。
「例えば、学校法人角川ドワンゴ学園のN高等学校・S高等学校では、『起業部』や『投資部』など、通常の学校では体験できない機会を提供しています。こうしたチャレンジの機会を通じて、新しい学びや挑戦の場を提供することは、教育の可能性を広げるものであり、通信制ならではの良さだと言えるのではないでしょうか」(今村さん)
通信制がうまくいかないとき
ただし、今村さんは同時に次のような指摘もしています。
「夢や目標を持って通信制高校に進学した生徒が、途中で困難に直面し、『無理だ』と打ちひしがれるときもあるかもしれません。そうしたとき、自分の力だけで乗り越えられる人もいれば、周囲のサポートを必要とする人もいます。そこで親としては、子どもの前向きなチャレンジを応援しつつも、うまくいかないときのためのセーフティーネットを用意しておくことが賢明だと思います。
例えば、通信制高校の教員や、スクールカウンセラーに相談できる関係を築いておくことや、子どもが頼れる友人関係を築けているか気にかけておくことが大切ですね」(今村さん)
写真:アフロ
進路は最終的に「子ども」が決める
また、今村さんは「通信制高校の選択肢が広がったからと言って、親が勝手に子どもの進路を決めてはならない」と主張します。進路を決めるのは最終的に子ども自身であり、自分の意思で決めたという実感を持つことで主体性が生まれるからです。
特に子どもが不登校の場合、親は子どもの将来を案じるあまり、つい先回りして最善の進路を決めようとしてしまう傾向が見られるからだといいます。
「子どもが安心して学習できるような環境を見つけたいと、親が考えることは当然であり、情報収集や子どもの選択肢を広げるためのサポートは大切です。ただ、中学受験などと同様に、通信制高校の選択においても、親子で学校を訪問し、雰囲気を直接感じることが重要だと思います」(今村さん)
なかには規律を重んじる学校も
今村さんがこのように述べるのは、通信制高校によって規律やルールのあり方が大きく異なるからです。
「通信制高校の中には『自由で何でも認める』学校もあれば、『規律を重んじる』学校もあります。自由な環境は、自由を好む生徒にとって自分のペースで学習を進められるため、自分の時間を確保しやすいというメリットがある一方で、自由すぎる環境が苦手な生徒も。
例えば、不登校の子どものなかで『中学校で派手な生徒が教室を占領しているような世界観の中で、リア充でない自分につらさを感じたから学校に行けなくなった』というケースがありました。
このような生徒にとって、自由すぎる環境では再び同じようなストレスを感じてしまう可能性が。また、規律や指導が少ないため学習に集中できないこともあるかもしれません。
対して、規律を重んじる学校では、明確なルールがあるため、きちんとした規律の下で生徒は安心して勉強に専念することができます。
このように、自由な環境と規律のある環境には、それぞれメリットとデメリットがあります。だからこそ、事前に学校の方針や、そこで学ぶ生徒の雰囲気をしっかり見極めて子どもに合った環境を選ぶようにしましょう」(今村さん)
選び方4つのポイント
ここで改めて、通信制高校選びの際に重要なポイントをチェックリストでご紹介します(参考『不登校─親子のための教科書』)。自分に合った通信制高校を見つけるために、ぜひ参考にしてみてください。
1.学費・内容について
●就学支援金が使える「授業料」部分での指導内容
●スクーリングの日数・場所
●スクーリング日以外の出入りできる「居場所」
●スクーリング日以外の教員の対応方法
●担任からの声かけ
(定期的、不定期、学習に問題が生じたときなど)
●学外学修での単位認定(技能連携校、高認、海外留学、大学や専門学校での学修、技能審査、ボランティア活動など)
●「授業料」に含まれないサポート部分(就学支援金が適用されない部分)
●サポート部分のコース内容(補習的なもの、課外活動的なもの、興味に応じた授業、大学入試対策など)
●サポート部分の費用の内訳
●補習や追試の追加費用の有無
●卒業の平均年数
●就学支援金が使える「授業料」部分での指導内容
●スクーリングの日数・場所
●スクーリング日以外の出入りできる「居場所」
●スクーリング日以外の教員の対応方法
●担任からの声かけ
(定期的、不定期、学習に問題が生じたときなど)
●学外学修での単位認定(技能連携校、高認、海外留学、大学や専門学校での学修、技能審査、ボランティア活動など)
●「授業料」に含まれないサポート部分(就学支援金が適用されない部分)
●サポート部分のコース内容(補習的なもの、課外活動的なもの、興味に応じた授業、大学入試対策など)
●サポート部分の費用の内訳
●補習や追試の追加費用の有無
●卒業の平均年数
2.課外活動など
●人とつながれる仕組みの有無
●文化祭や体育祭の有無
●学生同士の交流の有無
3.不登校対策など
●担任一人に対し、生徒の数
●スクールカウンセラーや養護教員などの対応
●不登校やひきこもり生徒への配慮
4.進路など
●卒業生の進路実績
(進学先の大学名、専門学校名、就職先など)
●卒業後の進路未定の生徒の理由
通信制高校は、多様な時代に生きる子どもたちの選択肢を広げてくれるもの。
最終的には、「進学する本人が自分に合った環境を見極めて、納得して選ぶことが何よりも大事だと」今村さん。
手間と時間をかけてでも、実際に学校見学に行き、その学校や生徒の雰囲気が感じられるといいですね。
───◆─────◆───
今回は通信制高校の学校選びのポイントについて教えてもらいました。
次回4回目では、今村さんおすすめの通信制高校をご紹介します。通信制高校への進学を検討している方は、ぜひ参考にしてみてください。
取材・文/山田優子
「NPOカタリバがみんなと作った 不登校─親子のための教科書」著:今村久美(ダイヤモンド社)