「進路どうする?」に無言…自閉症娘と悩み見つけた就労移行支援事業所、自分らしく働く道へ【読者体験談】
監修:初川久美子
臨床心理士・公認心理師/東京都公立学校スクールカウンセラー/発達研修ユニットみつばち
場面緘黙の娘、高校卒業後の進路はどうする?
現在24歳の娘は、4歳の時にASD(自閉スペクトラム症)と診断されています。こだわりが強く、場面緘黙があります。怒りの感情を抑えることが苦手です。
地域の幼稚園に通いながら、月1で区の療育センターに、小・中学校は学区の学校の通常学級に所属し、週1で情緒障害等通級指導学級(現在の通級指導教室)に通いました。高校は特別支援をしてくれ、通学もできる通信制高校に入学。その後迷ったのは、高校卒業後の進路のことでした。
将来何をしたいの?希望を聞きとることからスタート
場面緘黙がある娘と進路の相談をすることは、大変でした。娘はなかなか言葉で意思表示をしてくれないので、こちらから質問をして娘の反応をみて判断するという形で話し合いを進めました。
頷いたり首を横に振ってくれれば分かりやすいのですが、なにも反応しない時は(分からないという意思表示なの?)とその都度悩みました。聞き方を変えたり娘の意見をまとめていきました。
このように娘の意思を確認していくと、みんなが大学に進むので興味はあるけれど、受験はしたくないし勉強は嫌いなのでやりたくない、かと言って、たとえバイトであっても、いきなり働くのは不安。とりたててやりたいこともないから、どんな専門学校に行くのがいいかも分からない……とのこと。
学校の先生とも相談しながら話し合いを進め、就職後もやりたいことが見つかれば専門学校に通う道も選べること、のちのち支援に繋がりやすいことを優先しようと考え、就労移行支援事業所に通うことを選んだのでした。
就労移行支援事業所は立地と雰囲気を大事に
進路を決めた後は、就労移行支援事業所探しです。条件として、家から近く、公共交通機関を使って行く場所で、乗り換えが複雑ではない所を探しました。
インターネットで検索しWebサイトで写真を見たりしましたが、Webサイトの写真では印象も雰囲気もよく分からず、「ここだ」と思ったところはありませんでした。そこで、高校の先輩方が通っていたという家からも高校からも近い事業所を見学、雰囲気もあたたかく娘に合っていそうだと思いました。好印象だったのでお試しで通ったのちこちらに通うことに決めました。
そして娘は就労移行支援を経て、パートで清掃の仕事に就くことになりました。
清掃のパートの就労条件は?娘に合っているところも多いけれど、心配なのは収入面……
清掃の仕事は平日週5日勤務、祝日と年末年始は休み。10時から15時まで働き、昼休みは1時間あります。昼休みはほぼ一人で過ごしているそうですが、人との関わりが苦手だからか特に嫌ではないそうです。通勤も、ラッシュ時間にかぶらないのが助かっていると言っています。
仕事内容は同じことの繰り返しとはいっても、娘はそういった作業的なことに苦を感じないそうです。職場の人とも職場外の人との関わりもない仕事なので、無理無く続けられています。もう3年目に入りました。
慣れるまでに1~2年かかるタイプなので、かかりつけの精神科の先生から「転職は難しいかもしれないので、合ったところで長く続けるのがいい」と言われています。
ただひとつ心配なのは収入面です。今のままでは一人になった時に生活していけるかどうかという金額なので……。収入を増やしたかったら今の職場で清掃以外の仕事もするという手があるので、追い追い挑戦していってもらえればと思っています。
そしてやはり気になるのは親なきあとです。今は私がいるので、何か困ったことがあったら私に聞くことができますが、私以外にも頼れる他人がいると安心なので、公共のサービスと繋がる術を会得していって欲しいです。
ともあれ毎日頑張って働いている娘、4歳で診断を受けたときから思い返すと本当に成長したと思います。これからも自立の道をサポートしていけたらと思っています。
イラスト/ネコ山
※エピソード参考者のお名前はご希望により非公開とさせていただきます。
(監修:初川先生より)
場面緘黙のある娘さんの高校卒業後の進路やその後についてのエピソードをありがとうございます。発達障害などがあるお子さんの場合、このご家庭と同じように、まずは高校卒業を目指して頑張って、その後どうしようかという局面を迎えることがあると思います。大学、専門学校への進学、あるいは就職。それぞれに必要とされること、そしてそこから数年がどんなふうになっていくかの見通しもそれぞれですね。本人の意志や思いがとても大事ですが、場面緘黙があるとそのあたりが確認しづらく話し合いが難しかったろうと思います。学校の先生にも入っていただきながら、さまざまな道を検討できたこと、よかったと感じます。
さて、娘さんが選んだ道は就労移行支援事業所へ通うことでした。就労移行支援は、障害のある方が就労するための支援をする福祉の事業です。このあたりあまりご存知ない保護者の方もいらっしゃるかと思いますが、学校の進路担当の先生あるいは自治体の障害者就労に関する窓口等で聞いてみるといいでしょう。就労移行支援は2年間という有限の支援ですが、その間にビジネスマナーや各種スキルのトレーニング、あるいは本人の就労に関する得意不得意を見ていくことをし、実習などを通してその後の一般就労や福祉就労へとつなぐ支援機関です。事業所によって、利用者さんの数や習得するスキル、雰囲気などカラーがありますのでいくつか見学などするとよいと思います。
娘さんは清掃の仕事に就き、じっくりと継続できているようで何よりです。収入面や親なきあとが気になることも、多くの方が悩まれるところだろうと思います。本人が就業継続できている中で、今後どうしていくかまたご本人や福祉の方などと相談するときも来るのではと感じました。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。