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介護職の給料は上がる?厚労省公表のデータから医療・福祉業界の動向を読み解く

「みんなの介護」ニュース

阿部 洋輔

医療・福祉業界の給料アップ状況:2024年最新データから読み解く実態

医療・福祉業界の賃上げ実施状況

「介護の給料は本当に上がるのか」──。この疑問に対して、2024年10月に発表された厚生労働省の『令和6年賃金引上げ等の実態に関する調査』は、医療・福祉業界の賃上げ実施率は100%に達しており、これは全産業の平均実施率91.2%を上回っているという明確な答えを示しています。

特に注目すべきは、賃上げの実施時期と実施方法です。医療・福祉業界では、80.8%の企業が1~8月に賃上げを実施し、15.8%が9~12月に実施予定、さらに3.4%の企業が年間で複数回の賃上げを予定しています。この分布からは、年度初めの4月に定期昇給を実施する企業が多いという業界の特徴が見えてきます。

また、賃上げの方法も多様化しています。基本給のベースアップに加え、夜勤手当の増額、資格手当の新設、処遇改善加算の活用など、複数の方法を組み合わせることで、実質的な収入増を図る企業が増えています。

さらに、介護職の給与改善を後押しする社会的な動きも活発化しています。政府は介護職の処遇改善を重点政策として位置づけ、介護報酬の改定や各種助成金の拡充を進めています。このような公的支援の充実も、介護職の給与改善を確実なものにする要因となっています。

他業界との賃上げ状況比較

医療・福祉業界における1人あたりの平均賃金の改定額は6,876円、改定率は2.5%です。この数字を正しく理解するために、他業界との詳細な比較を見ていきましょう。

一見すると、医療・福祉業界の改定率2.5%は他業界と比べて低い水準に見えます。しかし、この数字は基本給のベースアップのみを示すものであり、実際の収入増加はこれより大きくなる可能性も考えられます。

その理由として、以下の3点が挙げられます。

1. 処遇改善加算による追加的な給与増 医療・福祉業界特有の処遇改善加算により、基本給とは別枠で給与が上乗せされます。 2. 諸手当の充実 夜勤手当、資格手当、特殊業務手当など、基本給以外の手当が充実している傾向にあります。 3. 賞与の改善 調査によると、医療・福祉業界の88.1%の企業が夏季賞与を支給しており、その支給額も改善傾向にあります。

さらに、医療・福祉業界では、給与改善の取り組みが継続的に行われているという特徴があります。2012年以降、処遇改善加算の段階的な拡充が行われ、それに伴って着実な給与の底上げが進んでいます。

法人規模別・地域別の給与比較データ

法人規模によって賃上げの実態は大きく異なります。具体的なデータを見ると、大規模法人(5,000人以上)では賃上げ実施率が99.1%に達し、平均改定額も15,121円と、平均を大きく上回っています。

これに対し、中規模法人(1,000~4,999人)の賃上げ実施率は93.5%となっています。定期昇給実施率は85.9%、ベースアップ実施率は76.8%と、大規模法人に近い実施状況となっていますが、平均改定額は12,317円とやや低くなっています。

さらに小規模になると、その差は一層顕著になります。300~999人規模の法人では賃上げ実施率93.4%、平均改定額10,618円、100~299人規模では実施率90.2%、改定額10,228円となっています。特に小規模法人ではベースアップ実施率が47.2%にとどまり、定期昇給を中心とした給与改善が主流となっています。

規模による違いが生まれる背景には、資金力の差があります。大規模法人ほど経営基盤が安定しており、積極的な賃上げを実施する余力があります。また、事業展開の規模が大きいほど人材確保の必要性も高まるため、賃上げを通じた人材獲得・定着策により力を入れる傾向があります。

地域による違いも重要な要素です。都市部の施設では、物価や生活費を反映して基本給が比較的高く設定されており、住宅手当なども充実している傾向にあります。一方、地方の施設では基本給は都市部よりも低めとなりますが、夜勤手当など、実際の働き方に応じた手当を重視する傾向が見られます。

このような違いは、介護業界でも大きく違うことはありません。給与水準を比較するだけでなく、自身のキャリアプランや生活スタイルに合わせて、施設の規模や地域性を考慮した選択が重要になってきます。

介護職の給料アップを支える仕組み:定期昇給とベースアップの実態

定期昇給制度の導入状況と実施実態

給料アップを支える重要な仕組みとして、定期昇給制度があります。同調査によると、医療・福祉業界における定期昇給制度の導入状況は一般職で91.1%、管理職で90.2%と、非常に高い水準を示しています。
 

実際の実施状況を見ると、一般職では75.3%の企業が定期昇給を実施し、管理職でも74.4%が実施しています。これは他業界と比較しても高めの実施率であり、医療・福祉業界において定期昇給が確実な給与アップの手段として定着していることを示しています。

定期昇給の特徴は、毎年一定時期(多くは4月)に給与が上昇し、勤続年数や能力評価に応じて昇給額が決定されることです。また、一度上がった基本給は、特別な事情がない限り下がることはないことが一般的です。さらに、延期や中止の割合も一般職で0.3%、管理職で0.4%と低く、安定的な給与上昇を支える仕組みとして機能しているといえるでしょう。

医療・福祉業界における定期昇給は、年功的な要素と能力評価の両面を考慮して実施されるのが一般的です。年功的な要素としては勤続年数が重視され、能力評価としては資格取得状況や業務遂行能力、研修受講実績などが考慮されます。このバランスの取れた評価システムにより、長期的なキャリア形成を支援する仕組みとなっています。

ベースアップ実施の現状分析

ベースアップは、定期昇給とは別に給与の基準そのものを引き上げる制度です。医療・福祉業界では一般職で29.8%、管理職で30.1%の企業がベースアップを実施しています。これは全産業平均と比較すると若干低い水準ですが、近年着実に実施率が上昇しています。

企業規模別に見ると、5,000人以上の企業では78.5%、1,000~4,999人の企業では76.8%がベースアップを実施しているのに対し、300~999人では58.8%、100~299人では47.2%と、規模によって大きな差が見られます。これは大規模企業ほど、物価上昇や人材確保の必要性に対応して、積極的な賃上げを行っていることを反映しています。

特に注目すべきは、ベースアップを実施する企業の中で、定期昇給と組み合わせて実施している企業が増加していることです。これにより、年収ベースでの着実な増加が期待できます。また、ベースアップの実施時期も、従来の4月に加えて、10月や1月など、複数回に分けて実施する企業も出てきています。

労働組合の有無による賃上げへの影響

賃金改定の実施状況を労働組合の有無で比較すると、明確な差が浮かび上がります。労働組合がある企業では91.2%が賃上げを実施しているのに対し、労働組合がない企業では80.7%にとどまっています。この10.5ポイントの差は、労働組合の交渉力が賃上げ実現に寄与している可能性を示しているとも考えられます。

さらに、改定額にも大きな違いが見られます。労働組合がある企業の平均賃上げ額は13,668円であるのに対し、労働組合がない企業では10,170円となっています。この約3,500円の差額は、年間に換算すると42,000円の収入差となり、決して無視できない金額です。

実際、労働組合のある企業では80.2%が賃上げ要求を行っており、その要求に対する回答率も高くなっています。また、賃上げ交渉においては、単なる金額の引き上げだけでなく、評価制度の見直しや手当の新設など、総合的な処遇改善につながる提案も行われています。

これらの事実は、介護職の処遇改善において、労働組合の存在が重要な役割を果たしていることを明確に示しています。

介護職の給料アップの決め手:賃金改定の重視要素を徹底分析

給料アップを左右する要因分析

同調査によると、賃金改定の決定要因は、優先順位の高い順に「企業の業績」(35.2%)、「労働力の確保・定着」(14.3%)、「雇用の維持」(12.8%)となっています。これに続いて「世間相場」(7.6%)、「物価の動向」(7.8%)などが考慮されており、多角的な視点から賃金改定が検討されていることがわかります。

特に「企業の業績」を重視した企業の中で、業績を「良い」と評価した企業は45.6%に上り、一方「悪い」と評価した企業は15.2%にとどまりました。残りの37.9%は「どちらともいえない」と回答しています。

「労働力の確保・定着」が重視されている背景には、深刻な人材不足があります。実際、介護業界の有効求人倍率は全産業平均の2倍以上で推移しており、人材確保のための賃金改善が経営上の重要課題となっています。これは特に都市部の事業所で顕著な傾向となっており、人材獲得競争の激化が賃金上昇を後押しする要因となっています。

また、「雇用の維持」が三番目に重視されている点も注目に値します。介護業界でいえば、熟練した介護職員の流出を防ぎ、サービスの質を維持・向上させたいという事業者の意図を反映しています。実際、調査では経験年数の長い職員ほど賃金上昇率が高い傾向が見られ、この「雇用の維持」という要素が具体的な賃金政策として表れていることがわかります。

企業規模による賃上げ傾向の違い

賃上げの実態は企業規模によって大きく異なります。5,000人以上の大規模法人では、99.1%という高い実施率に加えて、「物価動向」や「世間相場」といった外部要因も重視する傾向が見られます。これは大規模法人ほど、社会的な賃金水準や経済動向を意識した経営判断を行っていることを示しています。

また、大規模法人では「労使関係の安定」という要素も重視されており、労働組合との協調的な関係構築を通じて、計画的な賃金改善を進める傾向が強くなっています。実際、大規模法人の賃上げ実施時期を見ると、年度計画に基づいて4月に集中して実施されるケースが多く、より戦略的な人事政策が展開されていることがわかります。

一方、100~299人規模の法人では、「企業の業績」への依存度が特に高く、業績の変動が直接的に賃金改定に影響を与える傾向が強くなっています。「労働力の確保・定着」や「雇用の維持」といった要素も重視されていますが、経営資源の制約から、より慎重な賃金政策を取らざるを得ない実態が浮かび上がってきます。

今後の賃上げ見通しと課題

今後の賃上げ見通しについて、医療・福祉業界では明るい兆しが見えています。調査対象企業の100%が何らかの形で賃上げを実施または予定しており、この傾向は今後も継続すると予測できるでしょう。

ただし、いくつかの課題も浮き彫りになっています。まず、大規模法人と小規模法人の間での賃金格差が拡大傾向にあることです。この格差は年々拡大傾向にあり、業界全体の課題となっています。

また、ベースアップと定期昇給を組み合わせた積極的な賃上げを実施できる法人が限られているという現実もあります。大規模法人ではベースアップ実施率が78.5%に達する一方、小規模法人では47.2%にとどまっており、この差は介護業界であれば職員の長期的なキャリア形成にも影響を与える可能性があります。

これらの課題に対しては、介護報酬の改定による収益基盤の強化や処遇改善加算の要件見直しによる取得促進といった取り組みが進んでいます。

さらに、「夜勤手当」や「資格手当」などの諸手当の見直しを通じて、実質的な収入増を図る動きも広がっています。これらの手当は基本給とは別枠で支給されるため、賃金改定の影響を受けにくく、安定的な収入源として重要性を増しています。特に夜勤手当については、人材確保が困難な夜間帯のシフト対応を促進する観点から、増額を検討する事業所が増加しています。

このように、介護職の給料アップを巡る状況は、改善傾向にあるといえるでしょう。ただし、その恩恵を業界全体に広げていくためには、小規模法人の経営基盤強化や、より公平な処遇改善の仕組みづくりなど、継続的な取り組みが必要といえます。今後は、これらの課題に対する具体的な解決策の実施状況を注視していく必要があります。

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