中川晃教&小林亮太に聞く、互いのことやビクター役への思いとは ミュージカル『フランケンシュタイン』インタビュー
“生命創造”に挑む科学者ビクター・フランケンシュタインが、殺人事件に巻き込まれた自分を救うために命を落とした友人・アンリを生き返らせようと、アンリの亡骸に自らの研究の成果を注ぎ込む。だが誕生したのは、アンリの記憶を失った“怪物”だった……。19世紀イギリスの小説家メアリー・シェリーが生み出した同名小説を、大胆なストーリー解釈で現代に蘇らせたミュージカル『フランケンシュタイン』。天才的科学者が怪物を生み出すという骨子はそのままに、男二人の愛と友情と苦悩を軸にした狂おしいドラマを描いたこのミュージカルは、2017年に日本初演されるやいなや大きな反響を呼び、2020年には再演も行われた。
そして2025年、待望の再々演が決定。ビクター・フランケンシュタイン/ジャック役は初演から続投する中川晃教と新キャスト小林亮太。アンリ・デュプレ/怪物役はこちらも初演から出演している加藤和樹と新キャスト島 太星。いまやミュージカル界に欠かせない存在である中川&加藤に対し、舞台『鬼滅の刃』竈門炭治郎役や『キングアーサー』ガウェイン役で注目された小林と、ミュージカル『GIRLFRIEND』の好演が印象に残る島はともに新星としてミュージカル界に躍り出たばかり。世代もキャリアも違うダブルキャストにも注目だ。ビクター・フランケンシュタイン/ジャック役の中川晃教と小林亮太に話を聞いた。
『フランケンシュタイン』♪偉大な生命創造の歴史が始まる/中川晃教
『フランケンシュタイン』♪ただ一つの未来/小林亮太&島 太星
ーー製作発表会見では劇中歌の披露もありました。中川さんはビクターのソロ『偉大な生命創造の歴史が始まる』、小林さんは島さんと共に『ただ一つの未来』を歌われましたが、お互いの歌を聞いた感想を教えてください。
中川:聞きたい、聞きたい!
小林:怖い……(笑)。じゃあ僕から先にいいでしょうか。僕ももうすでに『偉大な生命創造の歴史が始まる』の練習はしていますが、あの難曲を1曲だけ抜粋して会見という場で歌って、あれだけの湧き出る感情を表現できるのが本当に素晴らしいなと思って聴いていました。もちろん「そんな声が出るんだ!」というような驚きもありますが、感情を小さな波から大きな波へと繋げていくのがすごいなと。同じ役を演じるからこそ、心を掻き立てられた。改めて身が引き締まる思いになりました。
中川:小林さんが歌った『ただ一つの未来』は、フランケンシュタイン博士とアンリ・デュプレ少尉が意気投合する場面で歌われる曲で「ミュージカルの醍醐味、キター!」と思わせてくれるような躍動的なナンバー。耳馴染みがいいからすぐ覚えられるけれど、でも実は歌っていることはお互いの信念だったり、難しい内容なんだよね。小林さんは、ビクターという役作りの中から言葉を紡ぎ出そうとしているなと感じました。やっぱり役者さんが歌を歌えると強いよね……。歌手の人が歌が上手いのは当たり前じゃないですか。でも役者がきちんと歌詞を届けられると一番強い。小林さんからはそんな楽曲との向き合い方の姿勢を感じて共感もしたし、これからの進化も見届けないと、と思った。会見での産声は、すごいものが生まれる予感がしました。
小林:嬉しいです。今の言葉で、一歩踏み出すことができそうです。ありがとうございます。
中川:やめて(笑)。照れちゃう。
ーーところで、お二人はこれまでの接点は。
小林:初めてなんです。
中川:そうなんです。この作品のポスター撮影の時にお会いしたのが、初めましてでした。ごめんなさい、僕は小林さんのことを存じ上げなかったんです。……僕のことも知らなかったでしょ(笑)?
小林:いやいや、何をおっしゃいますか(笑)。中川さんのことは、同じ事務所の先輩である矢崎広さんからもよくお話は伺っています。
中川:……悪い話じゃないですよね!?
小林:悪い話じゃないです(笑)。
中川:何か(作品を)観たこと、あります?
小林:たくさんあります! 『ジャージー・ボーイズ』も劇場で拝見していますし。
中川:うわー、嬉しい。それこそピロシくん(矢崎)が出演してたやつ?
小林:それもですし、その後の上演でも何度か拝見しています。僕、劇場で観劇をするのが大好きなんです。
中川:そうなんだ。ミュージカルは今までに何を?
小林:経験は多くはありません。グランドミュージカルだと浦井健治さん主演の『キングアーサー』に出演しましたが、この時は(ソロでは)1曲も歌ってないんですよ(笑)。なので、ここまで楽曲数があって、しかもこんなに難易度の高い作品は『フランケンシュタイン』が初めてです。僕、中川さんもですが、(初演・再演とビクターを演じた)柿澤勇人さんのお芝居も好きで。柿澤さんが紡いだ光景を託してもらえることが信じられなくて、最初にお話を聞いた時はマネージャーに「間違いじゃないですか?」と言ったのですが「間違いじゃないみたいです」と返ってきて(笑)。「ちょっと考えます」と言ってしまいました……。やっぱり「怖い」という感情が真っ先にきてしまったんです。
ーー柿澤さんとバトンタッチで、中川さんとダブルキャストという場所に入るのはたしかに怖いかも……。
小林:そうなんです、怖かったです……。
中川:怖いもんね、僕(笑)。
小林:(笑)。恐れ多い、という気持ちですよ。今僕がやるべきものなのかな、と考えていました。でも声をかけていただいたのは今なんだから、今の僕じゃないとやれないものがあるんだろうなと思いました。この話は“若き科学者ビクター・フランケンシュタイン”の物語なので。今の自分だからこそ表現できるものを探そうと、準備に入らせていただきました。
ーー最初に新キャストの情報を聞いた時、小林さんはアンリかな? と思ったんです。
小林:ああ、なるほど……そう思われて嬉しい気持ちもあります。今、歌稽古をしていて「ビクターとしては柔らかい」と指摘を受けることも多くて。その柔らかさがアンリっぽいと思われる部分なのかも。でも、壮絶な人生の中で狂気に取り憑かれて生命創造をしようとしている人間の気高さ、人類がなかなかたどり着けない境地に踏み込もうとしているビクターを上手く表現したいなと思っています!
ーー中川さんは、3度目の『フランケンシュタイン』。再度この作品に挑戦しようと思われたのはなぜですか?
中川:『フランケンシュタイン』の楽曲は、色々な自分の声を想像することができるんです。先ほど小林さんの歌声の感想で話したことに通じるんだけど、例えば『カラー・パープル』のシンシア・エリヴォさんはイギリスの王立演劇学校できちんと演劇を学ばれた方ですよね。そういう俳優さんが歌うと、言葉の発音、発声がまったく違う。もちろん歌手の歌も素晴らしいものだと思うのですが、僕はずっとどうしたら歌手の歌を超えられるだろうか、どうしたらもっと自分の歌を表現できるのだろうかと考えていた。そしてミュージカルに出合い、自分の音楽の表現の幅が広がったんです。『フランケンシュタイン』の楽曲はそんな出合いの大きな一つになっています。今回は初演、再演の時にはたどり着けなかった、もっと深い声に届くようになりたいんです。
小林:なるほど……。
中川:小林さんが「狂気に取り憑かれた」とおっしゃったけれど、そういう感情の表現って、甲高い音でも、地鳴りのような低い音でも表現できる。その両方が織り交ざると、ミュージカルとして大きな波が生まれるよね。こういう感情の時にフランケンシュタイン博士役としてどうその歌を歌うか……。中川晃教として表現するのではなく、役として表現する、というところを、3回目の今回は挑んでいきたいです。
小林:先ほどの歌唱披露の感想に戻ってしまうのですが、中川さんの披露された歌からは、ビクターの“賢さ”を感じたんです。それは、上(高音)の部分がしっかり鳴っているからこそ、天才科学者が頭を回転させているように聴こえたんだなと、今のお話を聞いて思いました。僕はもともと地声があまり高くないので、『偉大な生命創造の歴史が始まる』の歌稽古では今、どうしても下(低音)の成分が多くなっていて、それを上に引っ張り上げるというプロセスを踏んでいる最中なんです。僕も中川さんが表現した“賢さ”の要素が欲しいと思うのですが、それは中川さんが作り上げたものですし、じゃあ僕ならどう表現するかというのをこれから探らなければ、と思います。
中川:この作品は「スピーチクオリティ(※)」が求められる作品なんだよね。喋るように歌う、でもちゃんと音程はある。芝居の表現で歌った時に感動を呼ぶ。例えば『レ・ミゼラブル』等と同じで。
※歌い過ぎず響かせ過ぎず、話している時の様な声を使って歌うということ。
ーーとにかく音楽が難しい、音程やリズムをとるのが難しい作品だと思っていましたが、それ以上のものが要求されるんですね……。
中川:そう、大変なんです。頑張りましょうね。
小林:頑張ります!
ーービクター・フランケンシュタインという役柄についてもお伺いしたいです。“生命創造”という神の領域に手を伸ばそうとしている天才科学者。中川さんは会見で「崇高なものを保ち続けたい」とおっしゃっていました。一方ですでにお話に出てきているように、“狂気”の人というイメージもあります。
中川:僕は周りの人たちが「あいつは気が狂っている」と言っているだけでしかないと思っていて。ビクター自身はあまり多くは語っていないし、「そういう風に言うやつらのことはほっておけ」と言ったりもしている。誰にも理解されていない孤独を抱え、神の領域に挑み続けているだけで、むしろそれはとても純粋な思いだと感じています。でも愛する仲間であるアンリの死をきっかけに運命の歯車が狂い始め、その人を再生しようと思い至る。なぜそこまでに至ったのかを言葉にするととても陳腐になってしまうんだけれど、アンリが死の直前に言った「夢の中で生きる」「俺を材料にしろ」という言葉、それだけを抱きしめているんですよね。それ以外の評価や声は彼の心には響かない。だから僕は、ビクターに崇高さを感じるんです。もちろんそもそもの、人間が神に挑むという発想は尋常じゃないものがあるけれど。だから天使と悪魔が混在している人、かな……。
ーー小林さんはまだ本格的な稽古に入る前ではありますが、ビクターという人物をどう捉えていますか?
小林:現状は楽曲からこの作品に触れているので、セリフの一言一句を掘り下げてはいませんし、板垣(恭一)さんも少し脚本を2025年用に書き直すとおっしゃっていましたので、この先の稽古でわかることも多いとは思います。ただ、本来人間が手を伸ばしてはいけない領域に踏み込んでいくという、危険だとわかっているところに行こうとするビクターの姿には、少なからず共感できるんです。背景はまったく違うし重みも違うけれど、今回の僕は、もしかすると自分の能力では危険かもしれない域への挑戦でもあって。けど僕は困難に直面した時、天は“なんとか乗り越えられる壁”を与えてくれていると考えるようにしているんです。そういう意味で、ビクターという壁に誠心誠意立ち向かっていきたいなと思います。ただ、今の中川さんのお話を聞いて、本当は中川さんとも一緒に舞台に立ちたかったなと思いました……。
中川:ね~! 僕、小林さんとだったらアンリ役もできるかも。(加藤)和樹さんとだったら僕がアンリをやるのはアンバランスだと思うけど……(笑)。
ーー最後に、せっかくのダブルキャストですので。ご自身のビクターの強みはどこになりそうか、を教えてください!
中川:僕はやっぱり、どう考えてもこの作品に2度触れているのは最大の強みですね。逆に小林さんは、初めて触れるのが強みになると思うけれど。それから、和樹さんのアンリと一つの完成形をお見せできると思っています。これは“ペア”の話ですからね。彼とはこの作品で出会い、7年という時間を様々な舞台で共演し、一度もケンカせずに(笑)信頼関係を築いてきました。ラブラブでやってきていますので、そのへんもお見せできると思います。これは間違いなく強みです!
小林:なるほど~。
中川:僕と和樹さんのペアを見たらたぶん嫉妬すると思う(笑)。
小林:僕も太星くんとどんな化学反応が生まれるか楽しみです。もちろん和樹さんとも(笑)。僕の強みは……そうだなぁ。僕は常に人への愛を持って生きるということを大切にしていて。この作品では女性への愛はもちろん、友人への愛、家族への愛、色々な愛が描かれています。中川さんと和樹さんの間に愛があるように、共演者への愛はもちろん、作品への愛を持って挑みたいです。3度目となるお二方の間に割って入るのは無理だと思いますが(笑)、そこに追いつくくらいの気持ちで頑張ります!
■中川晃教
ヘアメイク:松本ミキ
スタイリスト: Kazu(TEN10)
■小林亮太
ヘアメイク:田中宏昌(アルール)
スタイリスト:石橋修一
取材・文=平野祥恵 撮影=池上夢貢