大学教授・齋藤孝さんが語る。「老い」を受け入れるということ
人生100年時代、60代は新たなスタートラインです! そんな大切な時期をいきいきと過ごすための、頭と心のコンディショニング法を紹介しているのが大学教授・齋藤孝さんの著書『60代からの知力の保ち方』(KADOKAWA)。本書は日々のちょっとした習慣を通して、60代からの知力を無理なく、そして楽しく保つ方法を優しく解説します。「まだまだこれから!」という意欲を応援し、後半生をより豊かにするためのヒントが満載です。60代は、これまでの役割が変わり、自分を見つめ直す時期。脳と心と体をバランス良く整え、知的な活力を高めていきませんか?
※本記事は齋藤孝著の書籍「60代からの知力の保ち方」から一部抜粋・編集しました。
競争から解放される
プレ老いには、見た目の問題がつきまといます。髪の毛が抜け、シワやシミが目立ってくると、加齢の事実をつきつけられますから、誰しも気持ちのいいものではありません。
しかし四十代ならまだしも、五十歳を超えると、自らの状態を客観視し受け入れる能力も培われているはずです。小学生時代から営々と続いたモテ競争や見た目のコンプレックスから解放されるのは、非常に喜ばしいことです。
若々しい見た目を維持したいという願望は、必ずしも悪いものではありませんし、死を遠ざけていたいという人間の本質的な欲望の表れでもあります。
アイルランドの作家、オスカー・ワイルドに『ドリアン・グレイの肖像』(岩波文庫他)という小説があります。美青年、ドリアン・グレイは奔放に背徳の生活を続けますが、彼の美貌は衰えず、代わりに肖像画が醜く変貌していきます。ところが彼が死んだ時、その姿は──という展開で、誰にも避けられない衰え(=死)について言及した名作です。
他者の目を意識し過ぎたアンチエイジングはいささか疲れますが、一方で見た目をまったく気にしなくなると、老いも進みます。
以前、寝たきりの女性に化粧をする介護の現場をリポートした番組を観ました。生きる気力を失っているその女性が、お化粧してもらうことでちょっと起き上がれるようになったんです。張り合いがもてたというか、お化粧することによって他者に向き合う気持ちが蘇ったのだと思います。
老いの不安の根本には、死への不安がありますが、これは消そうと思って消えるものではありませんし、生命あるものは必ず死ぬ、と自覚するよりほかありません。