【福山市】食用バラ マチモト ~ 農薬を使わず有機肥料で育てる「福山ブランドの食用バラ」とその香りと味をまるごと楽しむ極上スムージー
「バラのまち」福山市では、眺めるだけでなく「食べられるバラ(食用バラ)」が福山ブランドとして認定されているのをご存じでしょうか?
福山市芦田町の山中にあるマチモト株式会社(以下、「マチモト」と記載)では農薬を使わず、上流に民家のない清浄な湧き水と有機肥料を使うこだわりの農法で食用バラを育てています。
食用バラとそれを自社で加工したバラのアイスクリームやジュースなどの加工品が福山ブランドに認定されているほか、香りを抽出する技術で特許を取得し、他社とも協力して特産品を開発しています。
その食用バラをもっともぜいたくな形で味わえるのが、「バラ摘み体験」で味わう「バラのスムージー」です。
マチモトが食用バラの栽培を始めた経緯や、栽培するうえでの哲学、福山ブランドの食用バラを知ってもらうための「バラ摘み体験」「カフェ」について、代表取締役・町本義孝(まちもと よしたか)さんと奥様の町本静子(まちもと しずこ)さんに話を聞きました。
繊維業から新規事業としてバラ栽培へ
約20年前、繊維業を営んでいた義孝さんは国内での新規事業を模索するなかで、「福山のお土産品が少ない」という課題を知り、福山物産協会で「食用バラ部会」を立ち上げ、部会長となってバラ栽培を始めました。
「当時、私は何も聞いていなくて、土やバラの苗がたくさん届いて、『あ、なにか始めるんだ』って思ったんですよ」と笑う静子さん。
「ためしに50本程度を植えてみると、手を掛けなくてもきれいな花が咲いたので、これは簡単!と思って始めたが、3年、4年と経つうちに土が弱り、バラに虫が付いたり病気になったりして収量が減ってしまった」と義孝さんは言います。
こだわりの栽培方法で差別化を図る
バラが病気にならないよう、一般的なバラ栽培では農薬や化学肥料を使いますが、安心安全な食用バラを育てるマチモトではそれらを使わず、当初から今に至るまで次の「食用バラ栽培の5つのこだわり」を守り続けています。
・清浄な土壌:過去に農薬使用履歴のない真砂土を使用
・きれいな湧き水:ミネラル豊富な自然水を使用
・農薬を使わない:農薬を一切使用しない
・有機肥料の使用:発酵牛糞バークなどの有機肥料のみ使用(化学肥料は使わない)
・露地栽培:ハウスではなく屋外で自然に育てる
徹底して農薬や化学肥料を使わないため、病気になった株があれば抜き、新しい株を植えるという手間のかかる作業を長年続けているそうです。収量は農薬などを使う場合の約半分程度とのこと。
それでも栽培方法にこだわるのはなぜなのか。その理由を義孝さんは次のように語ります。
「食用バラの需要が高い東京に、千葉県の農家は朝摘んで昼に提供という当日配送が可能。また、鹿児島県などの遠方の産地も、飛行機輸送によって当日届く。
一方、福山からではどうしても翌日の配送となってしまう。
これに対抗するには、栽培方法にこだわり差別化するしかない。加工品も香料、着色料、保存料を入れないこだわりが必要」
しかし、この理念を実践するのは難しく、当初は十数社いた食用バラ部会のメンバーも、今ではマチモトだけになってしまったそうです。
「人がやらないことをやるのはなかなかしんどい。それでもこだわり続けるのは、自然にも人にも『ここちいい』を大切にしたいから」と義孝さんは言います。
「安易に農薬や化学肥料を使えば、それらがやがて川を経て海にそそぎ、魚となって自分たちに戻ってくるだろう。ラクなほうに流れてはいけないと思う」と、目先の手間だけでなく、将来の環境も見据えて取り組んでいるのです。
「農薬はバラの香りも殺してしまう。農薬を使わなければ、バラは自力で強靭(きょうじん)に育ち、バラ本来の色と香りが保たれる」と義孝さんは言います。
こうして栽培方法にこだわりながらさまざまな品種を育てた結果、現在では四季咲きの赤色と、春に咲く香りの強いピンク色という「色と香りに優れた2種のバラ」に絞り込まれました。
農薬を使っていない食用バラは、バラ酵母を取り出す花としても欠かせないそうです。
色と香りが優れた食用バラと独自技術で六次産業化の認定を取得
事業として成功させるには「色と香りが優れた食用バラ」だけでは難しいと考えた義孝さんは、産学官(東部工業技術センター、福山大学、広島大学)と連携して香りの研究を進め、バラの香りを従来よりも多く抽出する技術で特許を取得。
栽培(一次)から加工(二次)、販売(三次)までを一貫しておこなう「六次産業化」の認定を取得しました。
「色と香りが優れた食用バラ」と「香りの抽出技術の特許」という二つの強みを得てからは、商品化や販売が比較的順調に進んでいるそうで、老舗「にしき堂」などの商品開発にも協力しています。
「ここまでくるのにいろんな人にお世話になった」と義孝さんは振り返ります。
「にしき堂さんをはじめ、栽培方法へのこだわりを理解してくれる人は、東京のホテルやレストランもずっとうちの食用バラや商品を使ってくれている。ただ、食用バラそのものの販売は、その特長が伝わりにくいのが悩み」と話す義孝さん。
「同じような見た目だから、ハウスの中で減農薬で育てた食用バラのほうが安ければ、そちらを買う人も多い。うちの食用バラの特長を知ってもらうには、この場所に来て、栽培しているようすを見て、花の香りをかいだり、味わったりしてもらうのが一番」と言います。
その想いから、カフェの営業資格を取り、予約制の「バラ摘み体験(バラの花摘み+スムージー作り)」と「カフェ」を始めました。春には東京や名古屋など遠方からも多くの人が体験に訪れるそうです。
自然なバラの香りを体感する「バラ摘み体験」と「カフェ」
義孝さん、静子さんの思いが詰まった「バラ摘み体験」と「カフェ」を筆者も体験させてもらいました。そのようすを紹介します。
マチモトの哲学が伝わるバラの花摘み
バラ園と聞いて、バラの花が隙間もないほど咲き誇るようすをイメージしていました。しかし、実際には思っていたよりも間隔を開けて植えられています。バラは風通しの良い環境を好むためだそうです。
花数は少ないですが、香りの強いバラなので辺りはバラの香りに包まれ、幸せな気持ちになります。
義孝さんは「今年の夏は暑かったから、花付きが悪い」と言いながら、そのなかでも美しく咲いたバラを摘んでいきます。
バラの花数が多い時期は、自分で摘むこともできます。
園内には栽培用のバラ以外に、ミヤコイバラやナニワイバラ、原種バラのモリイバラなどが自生していました。「こうした日本古来のバラを保存していくことも大切」など、体験中の会話からも義孝さんの哲学が伝わってきます。
摘んだばかりのバラを味わうスムージー作り
摘んだばかりのバラをカフェに持ち帰ると、静子さんと一緒に花びらを摘み取って洗い、牛乳・バラジュース・氷を加えてスムージーを作ります。
「山の中で空気も水もきれい。農薬を使っていないから、ササッと洗うだけでいいんです。だから香りや色も失われないんですよ」と静子さんは言います。
摘んだばかりの花びらを使ったスムージーは色合いも美しく、見ているだけでぜいたくな気分です。
摘みたてのバラのスムージーは、口にした瞬間、バラ本来の自然な芳香がのどから鼻の奥を通り、脳内へと広がっていきます。
農薬を使わず清浄な水と有機肥料で育ち、力強く咲いたバラの香りをまるごといただくスムージーは、特別な体験となりました。
バラ摘み体験(バラの花摘み+スムージーづくり)は1,500円/人(前々日までに電話で要予約。TEL.0120-68-1188)。
原則として最終受付の午前9時までに来園すること。
「カフェ」だけの利用も歓迎
「バラ摘み体験」以外にも、予約すれば「カフェ」でバラの紅茶やバラのアイスを楽しむことができます。筆者は「バラの紅茶セット」をいただきました。
この日はバラの紅茶(バラのジャム付き)のほかに、生の食用バラをまるごと味わえるバラのゼリー、赤色とピンク色の2種のバラのジャムを味わえるクラッカーがセットになっていました。
バラの紅茶は青黒く見えますが、このあとレモン果汁を加えると紅茶の色に変わります。そこへスプーンにのせたバラのジャムを加えると、紅茶の中で花びらが開いていくようすを楽しむことができます。
カフェでは食用バラを加工した紅茶やジャム、ジュース、アイスなどを購入することも可能なので、ぜひ足を運んでみてください。
カフェを訪れる場合も前々日までに電話で要予約。
今後の展望と伝えたい思い
今後の展望を尋ねると「自然を相手に『咲いてもらう』という気持ちでオンリーワンを目指して頑張っている最中だからね。どうなるかわからないよ」と笑う義孝さん。
「ただ、福山市周辺に住む人にはぜひ、ここに来て自然の中のバラを見てみてほしい。そして、農薬を使わず有機肥料で育てた食用バラならではの香りや味を楽しみながら、『このバラを育てるのに必要な清浄な水、土を守るには、森を守ることが必要』…そのようなことにも思いを馳せてほしい」と語り、バラのまち福山の市民レベルから、意識の変化を望んでいるようでした。
おわりに
自然を守りながら、農薬を使わず有機肥料で食用バラを育て続けるマチモト。「自然も人もここちいい」を実践し続ける企業姿勢と、それを証明するバラの香りに感動しました。
現在は長男夫妻も後継者として、さらにこだわりのバラ栽培を実践しており、栽培や「バラ摘み体験」などのようすをInstagramで発信しています。
マチモトの食用バラは現地を見て味わうのがおすすめですが、オンラインショップでも購入できます。
ぜひ、「福山ブランドの食用バラ」を体感してみませんか?