【食のプロの台所】必要なものだけがあるいさぎよさ。 料理研究家 村上祥子
台所は暮らしの中心を占める大切な場所。使い手の数だけ、台所のありようがあり、その人の知恵と工夫が詰まっています。83歳の今も全国を飛び回る村上祥子さんのキッチンは、シニアが負担なく毎日料理を続けられるシンプルなもの。生きる力を支えてくれる存在です。
村上祥子
料理研究家、管理栄養士、福岡女子大学客員教授。短時間でもおいしくできる電子レンジに着目し、第一人者に。モットーは「ちゃんと食べてちゃんと生きる」。著書は『60歳からはラクしておいしい 頑張らない台所』(大和書房)など、600冊以上。
村上祥子料理教室 Webサイト
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よく使う道具や調味料は「手の届く場所」に「見える状態」で収納。使いたい時にさっと取れ、てきぱきと調理ができる。パック保存した肉、野菜をマグカップに入れてレンジ調理する“ シニアのおひとりさまレシピ”もここで考案。
「食べる力」を支えてくれる
今日は東に、明日は西に、83歳となった今も全国を精力的に動き回る、“空飛ぶ料理研究家”村上祥子さんの台所とあらば、さぞ大きく豪華なものと思いきや、わずか6畳。「子どもが皆独立したのを機に、17年前、娘の部屋を改装しました」
大家族のために毎日料理する生活から、夫婦2人の生活へ。作ったのは、シニアが負担なく毎日料理を続けられるシンプルキッチン。システムキッチンは既製品を60㎝の長さにセミオーダー(トーヨーキッチンスタイル製)。夫が腰をかがめなくても使えるように92㎝の高さにし、IH調理器を1台はめ込んだ。鍋など調理器具は引き出し一つに収納、調味料類は134L の冷蔵庫とキャスター付きワゴンに収める。食器も「本当に好きなもの」だけ2人分を残し、壁に造作した棚に見せて収納する。
多くを手放した一方で、これだけは!という道具も。大病で18本抜歯して介護食を食べる経験をしたこともあり、短時間で軟らかく調理できる「電子レンジ、圧力鍋、フードプロセッサーは三種の神器です」。
11年前には夫が亡くなり、一人暮らしになった。「年をとると食事そのものが面倒になってくる。でも、それではだめです。食べる力は生きる力。頑張らなくていいシンプルなキッチンが、いくつになっても、一人になっても、私らしく生きる暮らしを底支えしてくれると思うのです」
カウンターの裏側に扉なしの棚を設え、電子レンジを収納。
電子レンジで加熱してすぐに食べられる、1回の食事に必要なタンパク質食材50gと野菜100gを小分けして冷凍。
(雑誌『料理通信』2020年2月号掲載/本文はウェブサイト用に一部調整しています)