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EVへの移行とエンジン部品の今(8)冷却ファン

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EVへの移行とエンジン部品の今(8)冷却ファン

エンジン車特有の部品事業の今をみる本連載、今回はエンジンを冷却するファンを取り上げる。
エンジンを搭載しない電気自動車(EV)では、当然、エンジン用冷却ファンは不要となり、エンジン車が減少すれば市場は縮小する。
しかし、冷却ファンは自動車の電動化でカギを握る「熱管理」システムを構成する一部品であり、バッテリーを冷却する用途では将来性がある。エンジン車で培った技術を生かし、電動車領域を開拓する動きが出ている。

▼EVへの移行とエンジン部品の今(シリーズ通してお読み下さい)
「EVへの移行とエンジン部品の今」シリーズ

ラジエーターとセットで搭載

冷却ファンは、エンジンが高温になるのを防ぐ「ラジエーター」とセットで搭載される。ラジエーターには、エンジンを冷やす冷却水が入っており、車が走行する時の風を受けて冷えた冷却水が、水路を通ってエンジンの温度を下げる。

車が停止している時など風を受けられない際に、強制的に冷却水を冷やすのが冷却ファンの役割だ。エンジン用の冷却ファンは車1台あたりに1~2個搭載されている。

冷却ファンとラジエーターを生産・一体化して完成車メーカーに供給する場合と、冷却ファンを生産するメーカーが、冷却ファンをラジエーターメーカーに供給し、ラジエーターメーカーが一体化して、完成車に供給する場合がある。

出所:総合技研株式会社「2023年版 主要自動車部品255品目の国内における納入マトリックスの現状分析」

国内ではデンソー、世界ではMAHLEが首位

図はエンジン用冷却ファンの国内市場シェア(2022年)である。デンソーがトヨタ自動車を中心にほとんどの日系完成車メーカーに供給しており、首位の53%。次いで、SUBARU、日産自動車、ホンダへの供給が多いミツバが21%。アイシン(アイシン化工)、臼井国際産業と続く。市場規模は約50億円となっている。

出所:株式会社富士キメラ総研「2023 脱炭素社会に向けた自動車部品市場の将来展望」

世界市場(2021年)では独自動車部品大手MAHLE傘下のMAHLE Behr(シェア17%)が首位となっている。仏Valeo(同15%)、中国のAir International Thermal(同15%)、デンソー(同12%)という顔ぶれだ。世界上位組は、ラジエーターと冷却ファンを一体化したシステムとして供給している。

エンジン向けは半減もバッテリー向けは拡大

EVの普及でエンジン車が減ると、エンジン用冷却ファン市場は縮小する。2045年に世界市場が2021年と比べると半減するとの試算もある。だが、冷却ファンはエンジン用途に限られるものではない。バッテリー用途は市場拡大が見込まれる。

中国を除く日本や韓国などのアジア地域では、バッテリーの冷却に空冷が多く採用されている。今後同地域で、ハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)の普及が見込まれ、バッテリー用冷却ファンも市場が拡大し、2035年には2021年比2倍となる見通しだ。

(EVについては、バッテリーを大量に搭載するため、より冷却効果の高い水冷の採用が広がり、バッテリー用冷却ファンの市場はEV普及に伴い長期的に減少するとの見通しもある)

バッテリー用では静粛性がカギ

エンジン用とバッテリー用、いずれの冷却ファンも部品構成は大きく変わらない。しかし、バッテリーを搭載する電動車は、エンジン車と比べると車内が静かになるため、モーター音や風切り音を抑えることが、バッテリー用冷却ファンの課題になる。

米ボルグワーナーは、ターボなどエンジン関連部品で知られるが、M&Aを活用し積極的に電動車対応を進めている。大型商用車向けのファンも長年手がけており、送風効率や駆動の仕方にノウハウを有する一方で、2022年にスイスのドライブテックを買収してインバーターのノウハウも獲得した。

ファンとモーターとインバーターで構成する独自の電動車向け冷却システム「イー・ファン(eFan)」は、これらのノウハウを組み合わせ、高い静粛性を実現、受注を拡大している。

商品力に直結する熱管理

車両のさまざまな部品や空間の熱を管理する技術が、電動化の進展とともに重要性を増している。熱管理は、エンジン車でも、電動車でも、重要な技術であることに変わりはない。

しかし、電動車では、バッテリーやモーター、インバーターの熱管理が必要になり、複雑化する。適切に熱が管理できないと、航続距離が短くなったり、故障のリスクが高まったりするほか、車内空間の快適性にもかかわる。自動車の商品力に直結する技術である。

「統合化」に向け世界的な再編が活発

冷却ファンは、カーエアコン、コンプレッサー、ウォーターポンプなどと並び熱管理システムを構成する一部品だ。世界首位のMAHLE Behrは2015年には米自動車部品大手アプティブ(旧デルファイ)のサーマルシステム部門を買収してシェアを上げた。

2021年にはケーヒン(現Astemo)の空調事業も買収。先述のボルグワーナーもそうだが、熱管理は世界的なM&Aが活発になっている分野でもある。

現在、エンジン、モーター、バッテリーなどでそれぞれ個別に熱を管理する手法が主流だが、今後は車両全体で熱を有効に使い切る「統合化」に向けて技術開発が進んでいく。

M&Aの活発化は、既存事業を拡大するだけでなく、統合熱管理システムという新たな領域を開拓する動きでもある。自動車部品メーカーが、既存事業を生かして新分野へと移行する取り組みとして注目に値する動きだ。

参考文献

総合技研株式会社「2023年版 主要自動車部品255品目の国内における納入マトリックスの現状分析」
株式会社富士キメラ総研「2023 脱炭素社会に向けた自動車部品市場の将来展望」
ボルグワーナー、バッテリー電気トラック向けイー・ファン(efan)システムを世界的oemより受注.pdf
2023/3/20 新エネルギー新報 「ボルグワーナー、日本企業の電気自動車開発支援・充電器を受注」
2021/10/12 日本経済新聞電子版 「エンジン部品のマーレ『地球上最後まで供給し続ける』」
ラジエーターとは?冷却水の補充や交換の方法、修理にかかる費用を解説 | 自動車保険の三井ダイレクト損保
EVの性能を引き出す「熱マネジメント」の重要性とは? | TDK

執筆者:フロンティア・マネジメント株式会社 池田 勝敏

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