周知が進む防災ドローンから新登場の空飛ぶクルマまで[危機管理産業展2024][フライングカーテクノロジー]
2024年10月9日から、東京ビックサイトで開催した「危機管理産業展(RISCON TOKYO)2024」と「フライングカーテクノロジー」をレポートする
10月9日から、東京ビッグサイト西1・2ホールでは、危機管理産業展(RISCON TOKYO)2024が開催、東6ホールでは「フライングカーテクノロジー」が開催された。
危機管理産業展(RISCON TOKYO)2024では、ドローンは防災や警備の分野での活用が期待されていることから、ドローンによるサービスや関連製品を展示する「危機管理ドローンソリューション」ブースが設けられた。
フライングカーテクノロジーでは、空飛ぶクルマの研究・開発に携わる企業が一堂に会し、製品や研究成果を展示した。国産機体と海外機体の実機展示や、空飛ぶクルマの離発着場となる「バーティポート」の環境整備を提案する「バーティポート整備ゾーン」や「位置情報・気象情報活用ゾーン」などが特設された。
危機管理産業展
JDRONE
JDRONEのブース。DJIのドローンポート「DJI Dock 2」やMatrice 300などが展示された
福島県で長く空中での放射線量の測定に携わっている。その経験を活かして、防災・災害対応でのドローン運用を事業の中心に据える。ブースには運用しているヘリコプタータイプのヤマハ「FAZER R G2」や、DJIの物流ドローン「DJI FlyCart 30」が展示された。
現在力を入れているのは火山の観測だ。小笠原諸島にある父島の西約130kmにあり、1973年と2013年以降の噴火で拡大した西之島の調査など、4つの火山についてドローンを使用し調査している。
調査で確認するのは熱源の分布。熱くなっている場所や熱源の広がりをサーマルカメラでチェックし、オルソ画像を作ることが一番の目的だ。これによりマグマが上昇しているかがわかり、山体膨張や地震に関するデータなどと合わせて、危険度を判断する材料にしている。
エアロセンス
展示されたエアロボウィングとシミュレーター
VTOL機として初めて第二種型式認証を取得した「エアロボウィング」の実機を展示。約2mの翼幅を持つ機体はブースの中で存在感を放っていた。
2024年6月に型式認証を取得したが、国家資格・無人航空機操縦者技能証明と合わせての運用というよりは、まだ従来の許可・承認に基づいた飛行が多いようだ。
エアロボウィングは防災や、河川の巡視点検といった利用方法で関心を持つ事業者から引き合いがある。会期中は自治体や、航空測量を手掛ける事業者がセスナの補完用途で興味を示していたという。
ブースには機体だけでなく、このほど開発したシミュレーターも展示された。実機を飛行させる前の研修に使用できるほか、エアロボウィングに搭載された安全機能が作動したときのシミュレーションにも対応しており、より実際の現場に即した訓練が可能になった。
サクラテック
ドローン搭載遭難者捜索用システム(レーダー&カメラ)がAirpeakに搭載されている
開発中のドローン搭載遭難者捜索用システム(レーダー&カメラ)を展示。樹木の葉などに隠れている状態の人間を、搭載したレーダーにより見つけ、地上の端末に情報を表示するというシステム構成だ。
カメラは光学または赤外線のいずれかを搭載。重量はバッテリーを含めて1.3kg以下となっている。ブースではソニーの「Airpeak」に搭載されていたが、他の機体でも搭載可能だという。
Swift Xi
SWIFT CRANEを前から見上げた。機体前方にプロペラを3つ搭載する
Swift Engineeringは1983年の創業時からレーシングカーの設計・製造を手掛けていたが、2000年に航空宇宙工学分野に転向。Swift Xiは同社の子会社となる。ブースには自社開発した垂直離着陸型の「SWIFT CRANE」を展示した。
電動ながら最大飛行時間は1.5時間を誇る。災害・防災用途を想定しており、長時間飛行できる性能を活かして、発災時に被災地上空からの監視に利用する考え。最大離陸重量は20kgと比較的軽量だ。
着陸時は翼を地面に対して垂直にする形で接地する。離陸時はロケットのように真上に上昇し、高度を取ってから機体を傾け、翼を地面に対して水平にして飛行する。空中で姿勢を変化させることはリスクがありそうだが、これまでの飛行でトラブルは発生していないという。
SWIFT CRANEを後ろから見上げた。オレンジ色のパーツが接地時に使用するスキッド
TOMPLA
SMALL DOCTORの機体重量は275g。機体寸法は対角210mmとなっている。四角形のプロペラガードが特徴的
新潟を拠点にドローン物流の社会実装を目指す会社だが、近年では技術開発にも積極的に取り組んでいる。ブースに展示されていたのが、自社開発した屋内狭小部点検用の小型ドローン「SMALL DOCTOR」だ。
屋内点検用の小型ドローンは、ブルーイノベーションの「ELIOS 3」やLiberawareの「IBIS2」など、他社でもラインナップが増えている。そんななかでSMALL DOCTORが強みとしている点は、非GPS環境下でも安定したホバリング性能を誇ること。そのため少しの練習で操縦をある程度マスターできるという。
また、1年契約でリース料は月額15万円から、さらに技術指導もするという手厚い支援を準備している。1年後には最新機体への更新にも対応する。
人手不足が叫ばれる中、ドローン専属のスタッフを置くことが現実的でない企業も多い。同社では、導入企業の社内リソースに過度な負担をかけずにドローン技術を身につけてもらい、現場DXの実現を支援していくという。
JUIDA
ドローン防災スペシャリスト教育を紹介するパネル
能登半島地震や奥能登豪雨で、ドローンを利用した災害対応の陣頭指揮を執るJUIDA。その活動報告をパネルで展示した。
JUIDAでは災害現場での豊富な活動実績を活かして、「ドローン防災スペシャリスト教育」を近日リリース予定だ。能登半島地震をはじめとした災害支援活動でドローンがどのように活用されてきたのか、そのノウハウを収録している。
また、災害に関する基礎知識をはじめ、自治体や関係機関、ドローン運用に関する知識についても身につくという。発災時と平時で関連する法律がどう変わるのかといった、ドローン防災独特の法律知識なども学べる。
防災分野でのドローン利用は期待が大きいものの、人材育成はこれからというのが現状。JUIDAでは「ドローン防災スペシャリスト教育」を活動の新しい柱にし、人材育成に臨んでいきたい考えだ。
manisonias
左が画像可視化システム「ivcs」。上の処理後の画像では対象物がはっきり映っていることがわかる
水中ドローンが送信するリアルタイム映像を鮮明にする画像可視化システム「ivcs」を展示。ブースで実際に収録した映像を確認すると、画像処理前には曇ってしまいよく見えなかった被写体が、処理後にははっきりと見えるようになっており、性能の高さがうかがえた。
手に入りやすい小型バッテリーを使用し、機材自体が非常に小型になっている点も、ほかの可視化システムと異なる特徴だ。
ブースではレスキュードローンも紹介された。救命浮環(うきわ)と海面を着色し要救助者の位置を明示するシーマーカーを搭載している。2026年4月頃の事業化を目指している。
レスキュードローン。右側の赤いものが救命浮環で、ケースから取り出してドローンに搭載される
フライングカーテクノロジー
白銀技研
白銀技研が開発するBeedol。プロペラが地面に対して45度傾けて取り付けられている。
白銀技研は富山県に接する岐阜県北部の飛騨市に本拠を構える空飛ぶクルマの機体開発メーカーだ。その名を広めるきっかけとなったのが、2024年6月の自社開発機体「Beedol」による初フライト成功だ。
「たった4人で組み上げた」Beedolは全長と全幅が約3.6m、重量は操縦者を含めて245kg。連続飛行時間は15~20分というスペックだ。
4分の1モデルで試験をしたり、プロペラ1つずつの出力を確認したりして問題がないことを確認したうえで初フライトに臨んだという。その際は70kgのダミー人形を乗せ、約4分間、水平飛行を成功させた。
今回、Beedolの実機を展示した。横から見ると「くの字」型のボディで、その両端に翼を2枚取り付け、そこにプロペラをそれぞれ4つ、合計8個設置した独特な形状が印象的だ。
プロペラは地面に対して45度傾いており、離陸時は地面に水平に、離陸後の水平飛行時は地面に垂直になる。それにあわせてコックピットを含めたボディの角度が変わるので、リクライニングシートの設置など快適性を向上することも今後の課題とのこと。また搭乗人数も現在の1人から4人へ増やすという。
現在は、ボディがまっすぐで、翼を折りたたんで収納可能な新Beedolの開発を進めている。将来的には商用バンへの積み込みも可能なサイズでの製造を狙うとしている。
新Beedolのモックアップ。実機では自重162kgを目指すという
スカイリンクテクノロジーズ
STORKの1/6サイズの試験飛行機。主翼全体の角度が可変する
航続距離1400kmを時速650kmで飛行できるVTOL(垂直離着陸)機「STORK」を開発しているのが兵庫県神戸市のスカイリンクテクノロジーズ。エンジン駆動と翼が90度可変するチルトウイングにより高速・長距離飛行を実現するとしている。
1400kmという航続距離は日本国内を概ねカバーでき、時速650kmであれば1.5時間程度の所要時間で飛行できる。現在他社で開発が進められる空飛ぶクルマは電動で短距離移動に適したタイプのため、STORKと使用用途が重なることはない。
一方で、このスペックでは通常の旅客機の用途とほとんど変わらないような印象を受ける。担当者に確認すると、垂直離着陸が可能という特性を活かして、乗降場所を増やし、手軽に空の移動を利用できる環境を整備することで、旅客機と差別化を図っていきたいという。
会場には飛行試験に使用される1/6モデルが展示されていた。2025年度からは試験機を使った検証を開始し、30年代なかばを目処に商用機を市場投入していきたい考えだ。
IHI運搬機械
車輪ユニット。手前が機体をリフトアップしたときの形態。真ん中の機体を支える棒がせり上がっている
IHI運搬機械は、「IHIグループ」の1社で、立体駐車場などの製造を行う会社だ。そんな同社は空飛ぶクルマの離着陸場の提供を検討している。立体駐車場の屋上は駐車スペースとして使用されていないケースもあるという。
上空に構造物がない立体駐車場の屋上であれば、空飛ぶクルマの離着陸には最適解のひとつといえる。同社では立体駐車場を「モビリティハブ」ととらえ、地上を走る自動車と空飛ぶクルマの乗り換え地点とするような使い方を想定する。
空飛ぶクルマの離着陸場には設置場所や運用する機体数などに応じて「バーティストップ」「バーティポート」「バーティハブ」という3つの形態があり、同社はいずれのタイプにも、グループで開発している技術を活用し、充電や機体搬送などのサービスを提供する考えだ。
ブースには空飛ぶクルマの搬送に使用する車輪ユニットが展示された。空飛ぶクルマでは地上に接地するスキッドしか持たず自力で地上移動ができないタイプもある。車輪ユニットは自走できない空飛ぶクルマのスキッドに取り付け、機体を持ち上げられる機構となっている。
また、IHIグループは、ガスタービンエンジンを活用したパワーパックを搭載する長距離飛行可能なVTOL機の開発を進めている。その試験機も展示された。
IHIグループが開発する試験機
一般社団法人MASC
V2000CGに関するパネル展示
中国で初めて2都市間(深セン市~珠海市)飛行を達成した空飛ぶクルマ・AUTOFLIGHT「V2000CG」。その初号機は現在、岡山県で空飛ぶクルマやドローンの社会実装に向けた取り組みを行うMASCに納入された。
現在、岡山県の岡南飛行場にあり、駐機場が建設中だ。担当者はV2000CGについて、各地から飛行依頼が届いているが、現在は国内での飛行許可を取得している最中だという。
MASCは空飛ぶクルマのフライトシミュレーター体験コーナーを設置。リアルな操作感が楽しめた
参加して感じたこと
危機管理産業展では、ドローン展示エリアが出入口の正面に集められていたこともあり、多くの参加者が歩みを止め、展示を見ていた印象だ。
防災に使用される大型ドローンはとくに注目の的で、自治体の関心も高い。機体に関する周知は進みつつあるのではないか。
今後は、実際に現場でドローンが活動するためのルール整備など環境づくりと、その周知が大切になってくる。
フライングカーテクノロジーでは、MASCが空飛ぶクルマehang「EH216-S」の実機を展示し、搭乗体験を楽しむ人の姿が見られた。
しかしながら空飛ぶクルマは、国産機体も海外機体もまだ型式認証を取得できておらず、運航時期は見えていない。違う視点でみると、日本企業が得意な事業領域において参入する余地があるといえる。
今回、白銀技研も実機を展示し、注目を集めていた。実機を見ると実用化への期待がより膨らむ。空飛ぶクルマの実用化は確実に進んでいると実感できる展示会だった。