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ソングライター小泉今日子の魅力「Ballad Classics Ⅲ」キョンキョンの素敵な年齢の重ね方

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2024年09月25日 小泉今日子のベストアルバム「Ballad Classics Ⅲ」発売日

アーティスト & 作詞家 & 歌手 小泉今日子が味わえる「Ballad Classics Ⅲ」


1989年発売の『Ballad Classics Ⅱ』(以下:『Ⅱ』)以来、実に35年ぶりの続編としてリリースされた小泉今日子のバラードベスト『Ballad Classics Ⅲ』(以下:『Ⅲ』)。10月から始まるバラード中心のツアーに合わせたリリースで、ファンにとってはこの上ない朗報である。

1987年リリースの『Ballad Classics』はペーター佐藤による小泉の肖像画、『Ⅱ』は粟津潔の天使のイラストがジャケットを飾ったが、今回のジャケットは小泉と旧知の仲のEd TSUWAKI(エドツワキ)が担当。パンが頭の女性のイラストで、彼らしく、またキョンキョンのアルバムらしいなあ、という印象だ。

収録曲は16曲すべて既発曲をリマスターしたもので、新規にレコーディングした曲はない。だが、いちばん古い曲が1987年リリース、銀色夏生が作詞だけでなく作曲も手掛けた「サーチライト」(アルバム『Phantásien』エンディング曲、土屋昌巳編曲)で、他は90年代以降の曲が中心。また9曲が小泉自身の作詞である。“アーティスト & 作詞家 & 歌手 小泉今日子” の魅力をじっくりと味わえる1枚だ。

音のほうも、Goh Hotodaがオリジナルマスターから完全リマスタリングを行い、演奏はもちろん、小泉の繊細な息づかいがより伝わる音作りになっている。サブスクでもすでに配信されているが、懐に余裕のある方は、小鐵徹のカッティングによる重量盤2枚組もぜひ聴いてみるとよろしいかと。

オープニング曲は「小雨の記」


さっそく内容を見ていこう。シングルA面曲は4曲目「優しい雨」(1993年、小泉作詞、鈴木祥子作曲、オリコン最高1位)、9曲目「La La La...」(1990年、小泉作詞、藤原ヒロシ・屋敷豪太作曲、オリコン最高10位)の2曲だけ。あとはシングルのカップリング曲とアルバム曲で、このあたりは『Ⅱ』のコンセプトを継承している。

オープニング曲が「小雨の記」(小泉作詞、梅林太郎作曲)というのにまずヤラれてしまった。この曲は、デビュー30周年記念アルバム『Koizumi Chansonnier』(2012年)収録曲で、“小雨” とは当時小泉が飼っていた猫の名前だ。40代になって再び独り暮らしを始めるときに “相棒が欲しいなぁ”と 思って飼い始めた愛猫で、この曲の詞は小雨の視点から書かれている。

「♪私の名前は小さな雨と書く しがない猫です 少しデブなんです」

「♪彼女の名前はきょうの子供と書く しがない女です 独り者なんです」

「♪二人の暮らしは実に 慎ましい秩序と愛情」

正確には “1人と1匹” だが、キョンキョンにとって小雨は家族であり、“二人” が正しい表現だ。この “慎ましい秩序と愛情” というフレーズがまさに “キョンキョン流” で、お互いを尊重し合い、かつ愛情を込めて接するというポリシーが貫かれている。愛をもって接すれば、人と猫の間に壁なんてなくなるのだ。

「♪昨日が去って 今日が生まれたよ 今日が去って 明日がくるんだよ ずっとずっと 明日を待とうね ふたりきり」

12年前、初めてこの曲を聴いたとき、この部分でちょっと涙腺が緩んでしまった。私も40代の独り暮らしだったからだ(猫は飼っていなかったが)。そしてまたジーンとしてしまった50代の私がいる(依然独身)。この曲を『Ⅲ』のオープニングに据えた理由が、私にはとてもよくわかる。

シンガー 小泉今日子の幅の広さがわかる「最後のkiss」と「君はSunshine」


3曲目「最後のKiss」は、小泉最大のシングルヒット「あなたに会えてよかった」(1991年)のカップリング曲で、アルバム『afropia』(1991年)にも収録されている佳曲だ。これも作詞は小泉で、このフレーズが切ない。

「♪空っぽな心の中で 小さくつぶやく 
こんなにそばにいるのに 星より遠い」

作曲はJAGATARAのギタリストで、TOMATOSのメンバーでもあり、小泉のバックバンドも務めたEBBY。『afropia』にはEBBY作詞・作曲の「君はSunshine」(『Ⅲ』には収録されず)も収録されていて、どちらも主人公が星空を見上げる設定だ。 「最後のKiss」は女性視点、「君はSunshine」は男性視点と対になっているので、ぜひ聴き比べてもらいたい。シンガー小泉今日子の幅の広さがわかる。

当時気鋭のミュージシャンたちと組んで作った「厚木I.C.」から2曲が収録


2曲目の永積タカシ(ハナレグミ)作詞・作曲「きのみ」、15曲目の曽我部恵一(サニーデイ・サービス)による「また逢いましょう」はいずれもアルバム『厚木I.C.』(2003年)収録曲。キョンキョンにはフォーキーなサウンドも似合う。アルバム『厚木I.C.』は、2001年放送のTBS系ドラマ『恋を何年休んでますか』で小泉が宮沢和史と共演したことがきっかけとなって生まれた。

宮沢に “来年がデビュー20周年(2002年)ですけど、アルバム作らないんですか?” と聞かれ “ベスト盤を作る話がある” と答えた小泉に “だったら、今歌える新しい音楽を作ったほうがいいですよ” と新譜のレコーディングを勧めた宮沢。その提案に応え、当時気鋭のミュージシャンたちと組んで作った作品が『厚木I.C.』だ。厚木は小泉の “地元” である。自分の原点を見つめ直し、新たなスタートを切ったアルバムの曲を、22年後、またこうして新譜に入れた意味。たぶん “今度のツアーでも歌うよ” ということなのだろう。すごく楽しみだ。

作詞:小泉今日子 作曲:筒美京平が実現した「ガラスの瓶」


もっともっと各曲について細かく語っていきたいが、キリがなくなりそうなのでもう1曲だけ。6曲目「ガラスの瓶」は、シングル「BEAUTIFUL GIRLS」(1995年、小泉作詞、筒美京平作曲、オリコン最高14位)のカップリング曲だ。 “作詞:小泉今日子 / 作曲:筒美京平” というクレジットの曲を作ること… これは小泉の担当ディレクターを長年務め、彼女が作詞を手掛ける道筋をつけた田村充義氏の願いでもあった。「BEAUTIFUL GIRLS」と「ガラスの瓶」はその夢がついに実現した作品である。

ちなみに筒美は小泉に30曲以上の曲を提供。シングルA面曲(タイトル曲)は実に10曲を数え、そのうち5曲がオリコン1位に輝いている。王道アイドル路線を歩んでいた小泉を変革した「まっ赤な女の子」(1983年5月、康珍化作詞、オリコン最高8位)も筒美の作品であり、小泉にとっては “大恩人” でもある。

コロナ禍中の2021年3月21日、デビュー39周年記念日に小泉はビクター青山スタジオから無観客配信という形でソロライブを行った。題して『唄うコイズミさん 筒美京平リスペクト編』。前年10月に亡くなった筒美への感謝を込めたこのライブで小泉は「ガラスの瓶」を歌った。

「♪誰かに見つかったら 君に会えなくなるね そっと瞳を閉じて 二人の愛閉じ込めよう 永遠の 永遠の愛だから」

これは観ていて胸が熱くなった。その時点でレコーディングから26年が経過していたが、29年後、こうしてまたアルバムに収録された。キョンキョンの筒美への思いは “永遠の、永遠の愛だから"。

あらためて、相手との関係を大事にするキョンキョンの実直さ、素敵な年齢の重ね方を実感できるアルバムだし、久々に新録音のアルバムを作ってくれそうな、そんな予感もする1枚だ。ああ、ライブが待ち遠しい!!

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