アスベストの危険性を「見える化」し、社会全体が認知している世界をつくる。現場経験を生かし業界の底上げに挑む<株式会社都分析 福田賢司さん>【大阪府大阪市】
アスベストが原因で亡くなる人は、日本国内で近年、年間約2万人にのぼります。1970〜90年代に大量に輸入されたアスベストが原因で、10〜50年という潜伏期間を経て発症することが背景にあります。しかし、その危険性が社会全体に十分認知されておらず、適切な対応が行われていない現状があります。
この問題に向き合い、アスベストの危険性を広く周知したいと強く願うのが、株式会社都分析の代表・福田賢司(ふくだ・けんじ)さんです。アスベストの現場経験と深い知見を生かし、アスベスト調査のプロフェッショナルとして人材の育成や業界全体のボトムアップに取り組んでいます。社会課題に挑む福田さんに、都分析の取り組みや挑戦についてお話を伺いました。
都分析はアスベストのプロフェッショナル。アスベストは「静かな時限爆弾」
天然の鉱物繊維であるアスベストは1970~90年代に大量に輸入され、安価な建材として耐火や保温の目的で使われていました。しかし、有害性が問題となり、国は2006年に製造や使用を全面禁止にしています。
吸い込んでから肺がんや中皮腫などを発症するまで数十年かかるケースが多く、「静かな時限爆弾」とも呼ばれるアスベスト。厚生労働省によると、2023年度にアスベストにより労災認定を受けた人は1232人で、今なお新たな被災者を生み続けています。アスベストを含む建物は今後、解体工事のピークを迎えるとされ、解体業者は建物の事前調査や石綿の除去といった対策が義務づけられています。
都分析は、アスベスト問題に立ち向かおうと、グループ会社で環境に関わる測定・分析を幅広く行う株式会社サン・テクノスと共同で、アスベストの目視調査や建材採取、分析をしています。
作業員は防護服なし。アスベストの粉塵を浴びながら作業をしていた現場作業員
アスベストの取り扱い基準を定めた厚生労働省令第21号「石綿障害予防規則」が施行された05年までは、アスベストは「危険な物質で、発がん性がある」と認識されている程度で、その危険性も十分に認知されていない状況でした。当時、アスベストの危険性を知っていた福田さんは、解体現場で粉塵(ふんじん)が発生する中、防護服も身につけない状態で作業をする作業員たちの姿を目の当たりにし、強く危惧しました。
同時期には、メディアで大きく報じられた「クボタショック」(05年)が起こりました。これは大手企業クボタの工場周辺でアスベストによる健康被害が多数発生し、企業責任や環境対策が社会問題化した事件です。この出来事をきっかけに、国内でアスベスト規制の強化が進みました。
「アスベストの危険性を伝え続けなければならない」という強い思いが生まれた福田さんは、環境測定や分析を手掛けるキャリアを積みながら、アスベストの調査と対策に精通する専門家としての道を歩み始めました。
法改正に先駆けてアスベスト調査・分析専門の会社を設立
福田さんは、大気汚染防止法や石綿障害予防規則の改正が施行された21年に合わせて、都分析を20年に設立。
法改正にともない、建物に使用されている建材(天井、壁、床など)にアスベストが含まれているかどうかをしっかり調査し、結果を確認したうえで工事を進めることが法律で定められました。
しかしいまだに、解体やリフォーム現場で適切なアスベスト調査が行われないまま作業が進み、周囲に粉塵が飛散させてしまうケースがあるのだそう。
「例えば、空き家のリフォームや古民家再生などで、アスベストが含まれる建材を適切に処理しないことで違法となる可能性があります。知らずに行ったリフォームが、結果としてアスベスト粉塵を周囲に拡散し、健康被害を引き起こす危険があるため、こうしたリスクについての周知が不可欠です」
業界全体のボトムアップ、有資格者や専門家の人材不足解消に向けて
しかし、アスベストに関する専門知識を持った人材が不足している現状があるほか、資格は持っていても、「9割以上が調査や報告書作成を十分に行えない状況にある」と言います。
さらに、アスベストの危険性に関しては、日本国内でも「伝わりにくい」のが課題です。アスベストの影響は長期間にわたるため、即座に影響が現れず、リスクの認識が広がりにくいという難しさがあるのです。
福田さんは「調査者の実務能力の向上に加え、効果的な広報活動を通じて社会全体の理解を深めることが重要だ」と訴え、周知人材の育成と会社規模の拡大に取り組んでいます。
危険物質の飛散事故ゼロに向けて。人々の健康を守る業界のパイオニアになりたい
アスベスト問題は日本国内だけの課題ではありません。特に東南アジアなど多くの国でアスベスト規制が未整備。福田さんは、「発がん性物質であり、危険度が最も高いアスベストの認知と問題を解決するための活動を国内外で広げ、最終的には被害を完全になくす取り組みを進めていきたい」と強調します。
同時に、アスベスト以外の今後規制がかかる可能性のある物質にもいち早く対応できる体制作りへも尽力し、「業界のパイオニアとして活動していきたい」と話します。福田さんの挑戦は、今後も続いていきます。
聞き手:手島慧・藤木彩乃 執筆:坂本友実