社会人に必要な語彙力 「謝罪」の表現を知り仕事のピンチを切り抜ける
ビジネスの場では多くの失敗をしがちです。しかし、適切な謝罪の言葉を伝えることで、相手に好印象を与え、その後の人間関係を変えていくことができます。言いづらいことでも上手に伝えるには、語彙力が必要です。語彙力を高め、臨機応変に使えることで、自分の心からの「お詫び」の気持ちを適切に表現できるでしょう。
高村史司氏の『社会人に必要な語彙力が身につく本』(大和書房刊)は、喜怒哀楽を的確に表現する「謝罪・恐縮・拒絶のことば」「困惑・反省のことば」「怒り・罵倒・叱責のことば」などについて意味や例文だけではなく、注意する使い方についても解説しています。
謝罪・恐縮・拒絶のことば
ご放念ください
「ご放念(ほうねん)ください」とは、気にかけないでくださいという意味です。間違って相手にメールを送ってしまったとき、「廃棄してください」と伝えるより、スマートな印象を与えます。相手に気をつかわせたときに「先にお伝えした内容はご放念ください」と使うことも可能です。
例)先日はけっこうな品をありがとうございます。今後はお気づかいなく、ご放念ください。
失念しておりました
「失念(しつねん)しておりました」とは、すっかり忘れていたという意味です。メールの返信を忘れたり、スケジュール変更が遅くなったりなど、自分の軽い失敗に対して使います。ただし、知っていたけれど、つい忘れていた場合に使い、もともと知らないことには使いません。また、他人が忘れたことについても使いません。
例)打ち合わせ延期の連絡を失念してしまいました。改めてご連絡いたします。
不徳の致すところです
「不徳(ふとく)の致すところです」は、自分に人間性や人望が欠けていたために、ご迷惑をかけてしまいましたということ。謝罪会見でよく使われる表現です。ただし、現在は謝罪の決まり文句になっているため、謝罪としては通じません。間違いの内容について伝え、再発防止策も具体的に提示する必要があります
例)この失態は私どもの不徳の致すところであり、今後は信頼回復に努めてまいります。
困惑・反省のことば
忸怩たる思い
「忸怩(じくじ)たる思い」とは自分自身や自分たちの行為を深く恥じ入る気持ちのこと。将来を見通す眼力のことも指します。「悔しい」「残念だ」「腹立たしい」といった感情を表す場合に使うのは間違いです。ただし、間違った使い方をされることが多いため、正しく使っても誤解される恐れがあります。「深く恥じ入っております」と伝えた方が相手に誤解を与えないでしょう。
例)この度の部下の不祥事については、忸怩たる思いでいっぱいです。
齟齬が生じる
「齟齬(そご)が生じる」とは意見や考えがうまく合っていないこと。「齟齬をきたす」とも言います。ビジネスの場で、当初の認識と違う場合に「話が違う」と喧嘩腰に伝えるよりも、「齟齬があるようですね」と伝える方が柔らかい印象を与えます。ただし自分のミスが原因である場合に使ってしまうと、責任逃れに聞こえてしまうので、使うのは避けたほうが良いでしょう。
例)資料と私の説明とに齟齬があったようで、申し訳ありません。
鋭意進めております
「鋭意(えいい)進めております」とは頑張って取り組んでいますという意味です。例えば、仕事において、上司や取引先にせっつかれたときに、この表現は使えます。ただし、この表現は、実際に仕事が進んでいないときの言い訳として使われることが多いようです。相手に対して「鋭意進めております」を伝える際は期限も伝え、遅れを挽回することが重要です。
例)今後もご期待に添えますよう、鋭意努力をしてまいります。
他山の石とする
「他山(たざん)の石とする」とは他人の失敗を参考にして、自分は繰り返さないようにすること。似たような言葉として「反面教師にする」があります。しかし、最近では「先生のやり方を他山の石として精進してまいります」のように間違った使い方をされることがあります。先生が反面教師であると言っていることになるため、誤用には気をつけましょう。「反対語」は「対岸の火事」。よそで起きた悪いできごとに対し、自分とは関りがないと放置することです。
例)社内の部署再編に当たって、ライバル社の失敗を他山の石とする。
怒り・罵倒・叱責のことば
逆鱗に触れる
「逆鱗(げきりん)に触れる」はうっかり目上の人を激しく怒らせること。自分より目上の人に使うため、下の立場の人には使いません。激怒させたわけではなく、単に相手を不機嫌にさせてしまった場合、「不況を買う」を使います。
例)行きつけの店の店長の逆鱗に触れて、出入り禁止になってしまった。
打てば響く
「打てば響く」とは、相手の働き方に対して素早く反応すること。「打てば響く人」は、相手の意図を理解して機転を利かせる人を指します。
例)基本的なことを説明するだけで、彼女は打てば響くように行動してくれる。
児戯に等しい
「児戯(じぎ)に等しい」とは、子どもの遊びと同じくらいに価値がないこと。優れた人と比較し、「下手くそ」「レベルが低い」と見下す言葉です。似たような言葉として「子どもだまし」があります。子どもでも騙せるという意味ですが、「児戯に等しい」と同様に使うことができます。
例)私がやっているボランティア活動なんて、児戯に等しいものだよ。
一顧だにしない
「一顧(いっこ)だにしない」とは、全く検討に値しないこと。かなり強い否定の表現であり、相手の提案や申し出があまりにひどく、呆れてものが言えない様子です。似たような表現として「一瞥(いちべつ)」があります。
例)そんなつまらないSNSの書き込みは、一顧の価値もない。
この記事では、高村史司著『社会人に必要な語彙力が身につく本』から、「謝罪・恐縮・拒絶のことば」「困惑・反省のことば」「怒り・罵倒・叱責のことば」を要約・抜粋してご紹介しました。