【倉敷市】阪本鶏卵 水島商店街直売所 ~ たまごやと障がい者の相談支援事業所が手を組む、まちづくりのカタチ
ビタミンやミネラル、たんぱく質が豊富に含まれる卵は、完全栄養食とも呼ばれ、冷蔵庫に常備しておきたい食材のひとつです。
私も卵が大好きで、子どもの頃はお弁当にいつも卵焼きやゆで卵といった卵料理が入っていたことが記憶に残っています。
日々摂取する卵だからこそ、生産過程が明らかにされている卵を購入したい人におすすめなのが、阪本鶏卵です。
自社で生産から加工までを担う阪本鶏卵の直売所が、2025年4月に水島商店街に開店しました。店舗はなんと、障がい者を対象とした相談支援事業所に併設されています。
たまごやと障がい者福祉?
一見異色なコラボレーションで運営する阪本鶏卵 水島商店街直売所を紹介します。
「阪本鶏卵」とは
有限会社阪本鶏卵(以下、「阪本鶏卵」と記載)は、1966年に水島で創業した、たまごやです。
おもに水島コンビナート内企業向け産業給食の一品として、卵焼きを製造していました。
2003年からは、たまご豆腐や茶碗蒸しなど家庭向けの商品の製造も始まり、2011年には井原市美星町に自社養鶏場を新設。本社工場のある水島や、自社養鶏場のある美星町を中心に、地域とのコラボレーション商品やマルシェイベントの開催など幅広い事業を展開しています。
2025年8月現在の直売所は、以下の四か所。
・水島本社 工場直売所(2020年5月~)
・阪本鶏卵 美星直売所(2021年4月~)
・阪本鶏卵 水島商店街直売所(2025年4月~)
・阪本鶏卵 美観地区店(2025年7月~)
新鮮な朝採れ卵が購入できる美星直売所や、自分でたまごジェラートを作ってトッピングできる倉敷美観地区店など、店舗ごとにラインナップが少しずつ異なるのが特徴です。
また、「地域と共に本物の価値を追求していく」ために、鶏のエサとなる発酵飼料も自社で生産しています。
「相談支援センターいろどり」とは
相談支援センターいろどり(以下、「いろどり」と記載)は、特定非営利活動法人彩の事業のひとつで、相談支援事業をおこなっています。
相談支援事業所は、障がいのある人やその家族や支援者が無料で利用できるサービスで、利用できる福祉サービスについて相談したり、実際にサービスを利用する際の計画を作ってくれたりします。
いろどりでは、おもに三つのサービスを展開中です。
・相談支援
障がいのある人やその家族からの相談を受け、問題解決やニーズに応じた情報提供をおこなう。具体的には、福祉サービスの利用方法、医療機関や教育機関の紹介、生活支援に関するアドバイスなどが受けられる。
・サービス利用計画の作成
相談支援の過程で利用するサービスが決定した場合、そのサービスを利用する計画を策定。
・モニタリングと評価
作成したサービス利用計画が適切に実施されているかを定期的に確認し、必要に応じて見直しや改善をする。利用者の状況やニーズの変化に応じて、計画を調整もおこなう。
「阪本鶏卵 水島商店街直売所」とは
阪本鶏卵 水島商店街直売所(以下、「水島商店街直売所」と記載)は、水島商店街のいろどり内にある、2025年4月にオープンした阪本鶏卵の直売所です。
普段は、いろどりのスタッフが販売スタッフを務め、たまごサンドが入荷する毎週水曜日のみ、隣にある就労移行支援irodori(以下、「irodori」と記載)の利用者が販売を担当します。
障がい者の社会参加のきっかけとしても機能しているのが特徴です。
店内には、水島と阪本鶏卵の歩みが解説されたパネル展示もあり、阪本鶏卵の水島へ対する熱い思いが伝わってきます。
おすすめメニュー
水島商店街直売所では、卵焼きや茶碗蒸しといった加工商品だけでなく、生卵も販売しています。
阪本鶏卵の阪本晃好(さかもと あきよし)さんと、いろどりの佐藤将一(さとう まさかず)さんに、おすすめのメニューを聞きました。
たまごサンド
水島商店街直売所の一番人気商品はたまごサンド。
以下四種類のたまごサンドが、毎週水曜日の午前中に入荷します。
・ゆで卵サンド:420円
・煮卵サンド:420円
・厚焼サンド:420円
・鶏そぼろサンド:470円
価格はすべて税込
午後1時過ぎに水島商店街直売所を訪れたときには、すでに完売していました。
予約も受け付けていないので、確実にゲットしたいかたはお昼前に足を運びましょう。
ベースとなるサンドウィッチは、「ゆで卵サンド」です。
それが煮卵になったり、厚焼きになったり、鶏そぼろになったりとアレンジしたものがそのほかの味なので、初めて阪本鶏卵のたまごサンドを食べるかたには、ゆで卵サンドがおすすめです。
だし巻き卵
「だし巻き卵」は水島コンビナートで働く人たちの産業給食として長年製造されてきた、阪本鶏卵の代名詞ともいえる商品です。
ふわふわのだし巻き卵はそのまま食べられるので、夜ご飯のもう一品やお酒のおつまみにもピッタリ。いろどりの職員は、お昼のお弁当としても食べているそうです。
たまごやさんの茶碗蒸し
自社生産の星の里たまごと国産具材をぜいたくに使用した「たまごやさんの茶碗蒸し」は、具がゴロっと入っているのが醍醐味(だいごみ)です。
あたためて食べるのもおいしいですが、冷やしたまま食べてもおいしいのが特徴です。酷暑が続く夏でも、のど越しが良いので食が進みます。
茶碗蒸しも種類が豊富で、取材した2025年7月下旬は以下のラインナップが取りそろえられていました。
・たまごやさんの茶碗蒸し 美星産しいたけ
・たまごやさんの茶碗蒸し 海老
・たまごやさんの茶碗蒸し かに
・たまごやさんの茶碗蒸し 穴子
・たまごやさんの茶碗蒸し 白菜キムチ
・たまごやさんの冷やし茶碗蒸し 枝豆
・たまごやさんの冷やし茶碗蒸し つぶつぶコーン
たまごやと障がい者を対象とした相談支援事業所。
異色ともいえるこの二つが手を取り、水島商店街直売所を運営し始めて三か月。
双方の想いを、インタビューしました。
阪本鶏卵代表と相談支援センターいろどり代表へのインタビュー
有限会社阪本鶏卵 代表取締役社長の阪本晃好(さかもと あきよし)さん、相談支援センターいろどりの佐藤将一(さとう まさかず)さんに、水島商店街直売所オープンに至った背景や、今後の展望を聞きました。
水島商店街を盛り上げたい両者の「やりたい!」が一致して実現
──水島商店街に阪本鶏卵の直売所を出店した経緯を教えてください
阪本(敬称略)──
阪本鶏卵の本社工場が水島にあったので、幼い頃から水島商店街には親しみがありました。
幼い頃活気のあった商店街が大型ショッピングモールの出現などで衰退していくなか、かつての活気を取り戻したい気持ちが心のなかにずっとあったんです。
阪本鶏卵は、2020年に初めての直売所を水島本社工場に作りました。このとき、水島商店街に直売所を作る案もあったのです。
しかし、事情により本社工場横に作った水島本社工場直売所が第一号となりました。
でもやはり、水島商店街に直売所を作りたい気持ちはずっとあって、物件なども探していたんです。そのようなときに、佐藤さんから「いろどりに水島商店街直売所を出店しないか」と提案をいただいたんです。
佐藤(敬称略)──
「相談支援センターいろどり」は、2025年4月から本格的にサービスを開始しました。
ただ、相談支援センターは必要とする人が必要とするタイミングで来所する形式の場所です。そのため、作業所などと異なり、障がいのある人が随時ここにいるわけではありません。
そのため、地域の人たちに私たちの存在を知ってもらいたい反面、その術が見つかりませんでした。
どうしようかと考えていたときに、知人から「阪本鶏卵さんが、水島商店街で直売所を出店できる場所を探している」と教えてもらいました。
隣にある就労移行支援irodoriでは、阪本鶏卵さんの有機肥料を、肥料詰めからラッピングまでを一貫して生産活動として利用者さんが取り組んでいるので、阪本鶏卵さんの存在は当初から知っていました。
いろどりに阪本鶏卵さんの商品を置いたら、地域の人たちが気軽にここへ足を運んでくれるかもしれないし、商品を見に来たついでに「実は家族に障がいのある子がいて……」のような相談が始まるかもしれない。
今は健常者でも、病気や怪我で障がい者になる可能性は誰にでもあります。だからこそ、水島商店街直売所ができたら、ここを訪れたお客さんやその周りに障がいのある人がいたときに、「いろどりに相談してみよう」と思ってもらえるかもしれない。
阪本鶏卵さんと手を取り合うことで、いろどりにとってもさまざまな可能性が見えてくる気がして、ここに直売所を出店しないかとお声がけしました。
阪本──
佐藤さんとは一度話をしてみてすぐに「この人たちと一緒に直売所をやりたい」と思いました。
私たちにとって、直売所は家賃や人件費など課題も多くありましたが、いろどりの事業所を使えることで、家賃の面でも負担が抑えられます。さらに、品物の販売スタッフもしていただけることになったので、人件費も想定よりも抑えられました。
いろどりさんにとってもメリットのある直売所だと聞いて、トントン拍子で出店に向けての準備が始まり、2025年4月21日(月)に無事オープンしました。
いろどりが求めていた環境と阪本鶏卵が求めていた営業環境が、重なり合う直売所
──他の阪本鶏卵直売所と異なる、水島商店街直売所独自の試みはありますか?
阪本──
販売スタッフに当社の社員を置いていないことです。
水島直売所は本社工場の横にあるので、商品がなくなってきたら工場から商品を補充できますし、美星直売所も同様に在庫の管理がしやすい環境でした。
しかし、水島商店街直売所は工場などから少し距離があり、当社のスタッフも常駐していません。そのため、在庫の管理などが手探り状況でした。
また、外部のかたに販売をしていただくので、レジなども操作がシンプルなものに仕様を変更しました。いろどりのみなさんが随時やりかたを一緒に考えてくれますし、社員も定期的に顔を出すようにしています。
今後もさまざまな形態の直売所を作っていきたいと思っているので、社員が自分たちで一生懸命考えてここの運営に取り組んでくれることを、頼もしく思っています。
──いろどりは、水島商店街直売所をどのように活用していますか
佐藤──
いろどり内に水島商店街直売所を作ってもらったおかげで、週に一度たまごサンドが入荷する水曜日は隣のirodori利用者さんにレジを担当してもらっています。
普通に買い物に来て、レジをしているのがたまたま障がい者だった。
こういう形だと、地域の人が障がい者に接するきっかけになるし、利用者さんにとっても接客の訓練にもなります。阪本鶏卵さんの直売所がここの事業所内にあることは、福祉事業者である私たちにとって大変価値のあることだと思っています。
普段事業所のなかだけで就労訓練をしても、模擬的なものになってしまいかちです。でも、隣にある水島商店街直売所に行くとお客さんがリアルにやってくるので彼らにとってもメリットは大きいし、阪本鶏卵さんにとっても人件費などを抑えられるし、本当にウィンウィンの関係です。
アンテナショップ×障がい者の就労訓練は、ほかのお店や障がい者の就労支援施設でも再現性のある取り組みではないでしょうか。
阪本──
このように、福祉事業者と手を組んで店舗を運営しているところって、まだまだ少ないですよね。
このような「まだあまりやっていない」取り組みが好きなので、そういう意味でもワクワクしています。
企業と福祉とまちづくりが重なり合うきっかけの直売所
──お客さんからの反応を教えてください
佐藤──
相談者や、障がいのある当事者、いろどりのスタッフなど、私たちのなかにも阪本鶏卵さんのファンがたくさんいます。
特に相談を終えた後は疲れている人が多いので、ここでご飯のおかずを購入できるのは良いですね。
また、卵って必需品じゃないですか。
だから、私たち職員の台所にもなっていますし、週に一回とかそれくらいのペースで買いに来るリピーターのかたも多いです。
リピーターのかたは、水島商店街に相談支援センターがあることやたまごサンドの接客を障がいのある人がやっていることが、当たり前になってくると思います。
この当たり前が続いていくことで、水島に障がいのある人が暮らしていることが地域の人たちにとって自然な景色になっていってくれたら、素敵だなと思いますね。
ひいてはそれが、水島の魅力になってくれたらうれしいです。
阪本──
最初はあまり知られていなかったのか、人の出入りも少なかったのですが、水島はお店ごとのコミュニティが強いので、仲良くなったお店にショップカードを置いてもらうようにしています。
すると、そのお店の常連さんが、今度は水島商店街直売所に来てくれるんです。ありがたいですね。このように、少しずつじわじわと客さんが増えてきている印象があります。
また、水島本社工場直売所は町中から少し遠かったので、商店街に出店したことで地元のかたがたくさん来てくれるようになりました。
──今後、水島商店街直売所をどのように活用していきたいですか
阪本──
2020年に水島本社工場直売所を作ったとき、会社の存在を町の人に認知されていなくて衝撃を受けました。裏の工場の人でさえ、知らなかったんですよ。
そのときに、宣伝努力不足を痛感して、悔しい思いをしました。
現在は、今まで阪本鶏卵が水島の町と関わってきたのかを伝えるパネルを作ったり、地元企業などとのコラボレーションにも積極的に携わったりしています。
この水島本社工場直売所をとおして、さらにたくさんの人に阪本鶏卵のたまごやたまご製品を知ってもらいたいです。
おいしい卵を食べに、ぜひいらしてください。
佐藤──
私たちは障がい者の就労支援に携わっています。
そのときに意識しているのは、彼らはいずれ必ず社会と接続していくということ。
そういった意味で、まちづくりに関心があります。
この水島商店街直売所が、企業と福祉とまちづくりが重なり合うきっかけの場所、象徴の場所となるように続けていきたいです。
──読者へメッセージをお願いします
阪本──
水島商店街直売所を含め、どの直売所も最初はたまごサンドを購入しに来てくれたお客さんが「たまごがおいしかった!」と再来店して、二回目以降は卵を買って帰る。そのようなかたが多いです。
たしかに、スーパーマーケットなどとくらべて値段が高いと感じるかたもいるかもしれませんが、エサにこだわったおいしい卵を生産しておりますのでぜひお買い求めください。
佐藤──
阪本鶏卵さんの卵は本当においしいので、味わってほしいと思います。
それと同時に、この水島商店街に障がい者福祉の事業所があって、接客をする販売担当者のなかには障がいのある人もいる。そのようなこの町の風景を楽しんでいってほしいです。
おわりに
取材をしていて印象的だったことは、両者ともにひと言も「障がいのある人が頑張っているから」という枕詞を一度も使わなかったことです。
水曜日のたまごサンド販売に障がいのある人が携わるにあたって、レジの方法をシンプルにしたり、セット売りなどの煩雑(はんざつ)な販売方法を取り入れなかったりと、工夫はしていました。
でもそれは、今後阪本鶏卵が社員を常時配置しない形の直売所に挑戦するための手段であり、そこにさまざまな背景のある人が働く可能性を視野に入れた合理的配慮だと捉えているそうです。
阪本さんも佐藤さんも、ビジネスのパートナーとして対等な立場で直売所のこれからについて熱く語り合う姿が印象的でした。
阪本鶏卵水島商店街直売所を起点に、障がいの有無にかかわらずさまざまな人がともに暮らす風景が、今よりもっと当たり前になっていってほしいです。