【大河べらぼう】江戸庶民が楽しんだ戯作(げさく)とは何? 調べてみました!
令和7年(2025年)NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華之夢噺~」、皆さんも楽しみにしていますか?
本作では、主人公の蔦重こと蔦屋重三郎(つたや じゅうざぶろう)が活躍するさまが、存分に描かれることでしょう。
さて、後世江戸のメディア王と呼ばれた蔦重は、様々な出版人や文化人と交流がありました。
今回は彼らが生み出し、世に送り出した戯作について紹介したいと思います。
戯作とは何か
戯作(げさく・ぎさく・けさく・きさく)とは何かと言いますと、江戸時代中期(18世紀後半ごろ)から明治時代初期(19世紀後半ごろ)の約1世紀にわたって江戸で興った読み物全般を指します。
読んで字のごとく「戯れに作った(書いた)もの」の意味で、比較的堅苦しさがなく、読みやすい作品が主流でした。
戯作のジャンル
戯作にはいくつかのジャンルがあり、内容によってそれぞれ呼び名が異なります。
【戯作のジャンル一覧】
・洒落本(しゃれぼん)
・滑稽本(こっけいぼん)
・談義本(だんぎぼん)
・人情本(にんじょうぼん)
・読本(よみほん)
・絵双紙(えぞうし)
洒落本とは?
遊郭など風俗産業や性娯楽の様子を描いた作品で、楽しく正しい遊び方マニュアルとしての側面も。
山東京伝『傾城買四十八手』などが有名。現代で言うところの風俗雑誌ですね。
滑稽本とは?
その名の通り、滑稽で笑いを誘う物語が描かれています。
式亭三馬『浮世風呂』や十返舎一九の『東海道中膝栗毛』が有名ですね。
現代で言えば、文章多めのギャグ漫画でしょうか。
談義本とは?
義を談ずる、と書く通り、処世の教訓や人としてのあり方(義)をテーマとした作品が分類されます。
ですが、真面目で堅苦しいだけだと誰も読んでくれないので、滑稽要素も織り交ぜられました。
談義本のエンタメ要素を凝縮したのが滑稽本であり、その意味では滑稽本の走りとも言えるでしょう。
人情本とは?
現代的な人情のイメージ(慈善など)と少し異なり、恋愛がメインテーマとなっています。
恋愛物語のモチーフは様々で、為永春水『春色梅児誉美』や『春告鳥』などが有名ですね。
読本とは?
中国大陸の白話小説(はくわ~。通俗小説)に由来し、史実を元ネタに思想性(勧善懲悪など)を強めた創作文学を指します。
娯楽性と文学性を両立するジャンルとして、当初は知識人層によって書かれました。
上田秋成『雨月物語』や曲亭馬琴『南総里見八犬伝』などが知られています。
口絵や挿絵よりも文章が中心であることから、読本と呼ばれました。
絵双紙とは?
絵がメインでストーリーが書き添えられたスタイルの読みもの。現代で言えば絵本ですね。
別名を草双紙(くさぞうし)、あるいは単に絵本などとも言いました。
ジャンルによって細かく分類されたそうです。
赤本とは?
子供向け絵本。桃太郎などの民話や昔話が主体となっています。
黒本とは?
青年以上向けの仇討ち(曾我兄弟など)や忠義物語(忠臣蔵など)、武勇伝などがメインとなっていました。
青本とは?
少年や女性向けで、主に芝居の筋書きや解説が書かれており、今で言えば映画のパンフレット感覚でしょうか。
黄表紙(きびょうし)とは?
青本の中でも特に娯楽性(大人向け要素)が強く、より深い読み解きや評論が特徴です。
表紙は黄色かったので黄表紙と呼ばれますが、江戸時代の人々は特に青本と呼び分けてはいませんでした。
※要するに、黄表紙とは後世の便宜的な呼び名です。
合巻(がっかん)とは?
物語が長いため一冊には綴じ切れず、三冊以上にまとめられたものを言います。
内容は絵入りの読本といったものが多く、やがて絵双紙の代名詞的存在となりました。
戯作の歴史
戯作という言葉は漢語に由来し、日本でも江戸時代より前から動詞として使われています。
日本語で言うところの筆遊(ふですさび)的な感覚でしょうか。
正統的な文学表現に対して、諷刺やパロディ性を志向した作品を戯作と呼ぶようになっていきます。
戯作が世に広がり始めた当初、その担い手は平賀源内(ひらが げんない)や、大田南畝(おおた なんぽ)などの武士階級が主体でした。
やがて寛政の改革によって反骨的な文学表現に対する規制が強くなると、式亭三馬(しきてい さんば)や、十返舎一九(じっぺんしゃ いっく)など、庶民層から戯作者が頭角を現していきます。
しかし、明治時代に入ると権威主義や旧弊を笑い飛ばす作風はウケなくなっており、戯作は古典文学にカテゴライズされるようになりました。
やがて、坪内逍遥(つぼうち しょうよう)らが興した近代文学の波に呑まれていきます。
終わりに
今回は江戸時代を賑わした文学ジャンルの一つ・戯作について紹介してきました。
果たしてNHK大河ドラマ「べらぼう」では、どんな戯作が登場するのでしょうか。
今から楽しみにしています!
※参考文献:
・岡本勝ら編『新版近世文学研究事典』おうふう、2006年1月
・木村八重子ら『新日本古典文学大系 草双紙集』岩波書店、1997年6月
文 / 角田晶生(つのだ あきお) 校正 / 草の実堂編集部