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絶対に食べてはいけない<ケブカガニ> 夜の海辺を歩く不気味な海藻のようなカニの正体とは?

サカナト

ケブカガニ(提供:椎名まさと)

夜、潮が引いたサンゴ礁を散歩していると、昼間とはまた違う生物の営みを観察することができます。とくに甲殻類は夜行性のものが多く、ユニークなものと出会えるでしょう。

その中でも筆者がとくに「推し」ているのがケブカガニ。見た目が大変に面白いカニで、味噌汁の具にでもしたらおいしそうなサイズですが、絶対に食べてはいけません。

ケブカガニがどのようなカニなのか、見ていきましょう。

潮だまりでケブカガニに遭遇!

2019年、沖縄本島中部の潮だまりを夜間に歩いていると、さまざまな生物を見ることができました。

その中でも多く見られたのは夜行性のヤドカリ類やカニ類。少々水が残っている場所ではエビや小魚、貝の仲間がはい回っていました。

小さなスズメダイの仲間を見つけ、写真を撮っていると、すぐそばで“フサフサな毛のカニ”が歩いているのに遭遇しました。

ケブカガニ(提供:椎名まさと)

そのカニはケブカガニ。その名の通り、甲や鉗脚、そして歩脚に細長い毛が見られるのが特徴です。

潮だまり(タイドプール)でも多く見られるこのカニは、動かなければとてもカニのようには見えません。夜間になると、餌を探して歩き回ります。

その様子はまるで海藻が歩いているようで、ちょっと不気味です。

ケブカガニとは

ケブカガニPilumnus vespertilio(Fabricius, 1793)は十脚目(エビ目)・ケブカガニ科に属するカニの仲間で、甲長2.3センチ、甲幅3センチほどの大きさです。従来はオウギガニ科とされていましたが、現在はケブカガニ科とされていることが多いようです。

昼間は岩の隙間や死サンゴ塊の下に潜み、夕方から夜に出てきてサンゴ礁の浅瀬を徘徊します。

ケブカガニ(提供:椎名まさと)

特徴は、指部と呼ばれる、鉗脚(はさみ)の先端部が黒くなっているということや、甲の表面に顆粒が散在しているなどの特徴もあります。しかし、なんといってもその最大の特徴は、甲や脚、鉗脚が剛毛に覆われているという点で、種標準和名はもちろんのこと、英語圏においてもHairy crab (毛深いカニ)、またはTeddy bear crab (テディベアガニ)なんて名前で呼ばれています。

この毛は天敵の多いサンゴ礁域において、擬態に役立っているようで、細かい毛の生えた岩に擬態することにより、天敵から身を守るものと思われます(後述するように毒があるとされるものの、産地や個体群などにより毒がなかったり、毒が効かない生物もいると思われる)。

ケブカガニを飼育する

2019年はケブカガニの当たり年だったのか、沖縄の磯だけでなく、高知県西部の黒潮あたる海でもその姿を見ることができました。その際に採集したケブカガニをお持ち帰りしてみました。

飼育方法は一般的な海水魚(クマノミなど)が飼育できる環境であれば特に問題なく、脱皮をしながら何年も生きてくれます。

餌として、ほかの魚の残り餌を食べてくれるほか、たまに魚の切り身や乾燥クリル(オキアミ)を海水につけておいたものでも与えれば大喜びで食らいつくでしょう。ただし、このような餌は与えすぎると水質悪化につながりやすいので、ほどほどにします。

ケブカガニをお持ち帰り(提供:椎名まさと)

しかしながら、この手のカニというのは海藻は食べてしまいますし、サンゴやスナギンチャクの類なども食べてしまうことがありますので、そのような生物を飼育している水槽では飼育しにくいところがあります。そのような場合、隔離ケースを使って飼育してもよいと思います。

もちろん飼育しきれなくなっても、海へ逃がすことはやめましょう。

ケブカガニは絶対に食べてはいけない!

「鉗脚や体に毛が生えているカニ」として私たちがすぐに思いつく生物としては、クリガニ科のケガニが有名です。

ケガニはケブカガニよりも大型で甲長8.5センチ、甲幅7.9センチほどになりますが、ケブカガニはそれよりも小型で、またケガニは冷たい海を好むカニであり、主に鳥取県および茨城県以北の海にすむのに対し、ケブカガニは暖かい海を好むカニで、関東地方および九州北岸が北限とされます。

食用種のケガニ(提供:椎名まさと)

私たちが利用する上で、ケガニとケブカガニのきわめて大きな違いとしては、ケガニは重要な食用種であるのに対し、ケブカガニは有毒とされ、食べることができないという違いがあります。

ケブカガニ。鉗脚の先端が黒い(提供:椎名まさと)

よく有毒のカニと無毒のカニを見分けるための方法として、「毒があるカニはハサミの先端が黒い」とされています。

しかし実際には、有毒のカニについては鉗脚の先端が黒いものが多いものの、すべての有毒のカニで鉗脚の先端が黒いわけではありません。

逆に、食用になるマツバガニ(山陰地方でいう「まつばがに」はズワイガニのことであり別種)では鉗脚の先端が黒くなるため、この特徴にはあてはまりません。

有名な毒ガニ スベスベマンジュウガニ(提供:椎名まさと)

ケブカガニと対照的な和名と見た目をもつスベスベマンジュウガニを含め、一般的にはオウギガニ科やそれに近縁の分類群のカニのうち、いくつかの種では毒を持つことが周知されています。

沖縄県内においては有毒のカニ類による中毒例が(公式には)長らくなかったのですが、2024年に同県・八重山諸島において県外からの観光客がウモレオウギガニを食べて中毒を起こした事例もあり、注意しなければなりません。

原則として、琉球列島などでカニの仲間を食べるときは、ワタリガニの仲間やノコギリガザミ、あるいはアサヒガニなど、一般的にお店で販売されたものだけを食するようにし、自分で採集したカニの仲間は絶対に食べないようにしましょう。

(サカナトライター:椎名まさと)

参考文献

橋本芳郎(1977)、魚介類の毒、学会出版センター

三宅貞祥(1983)、原色大型甲殻類図鑑(II)、保育社

野口玉雄(1996)、フグはなぜ毒をもつのか 海洋生物の不思議、日本放送出版協会

下瀬 環(2021)、沖縄さかな図鑑、沖縄タイムス社

琉球新報-海で捕まえたカニ、ゆでて食べ食中毒 八重山で観光客の男性 有毒「ウモレオウギガニ」事例は87年以来 沖縄

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