書評家・東えりかさんに聞く 読書週間 川崎の今を知る本
10月27日(日)から読書週間が始まる。川崎市制100周年の今年、宮前区在住の書評家・東えりかさんは、「川崎とは何か」を考えて本を開く機会が増えたという。本と向き合い続ける東さんが薦める「川崎を知る本」を、2回に分けて紹介する。
東さんは千葉県出身で1995年から宮前区犬蔵で暮らす。毎年200冊以上の本を読み、ノンフィクションや文芸作品の書評を執筆している。
今年は「市制100周年」関連のイベントで講演依頼が増え、少し困ったそうだ。「川崎はエリアごとに文化が違い、全体のイメージをつかむのが難しい」と語る。
そんな時に図書館で出会ったのが、市立小学校で3年生から配られる副読本『かわさき2024』だった。「開いてびっくり。歴史や文化、産業など、知りたい情報が網羅されている。川崎の今を知るにはぴったりの一冊」と絶賛する。
市では小学校の地域学習の資料として、副読本『かわさき』を1955年から発刊してきた。ただあくまで教材のため一般市民は図書館で探すほかない。東さんも図書館の「郷土史コーナー」で偶然見つけたそうだ。
北部の歴史は面白い
続く一冊は、同じく宮前区在住の文筆家・小倉美恵子さんの『オオカミの護符』(新潮社)だ。
東さんが転居したてのころ、犬蔵地区には田畑や里山が広がっていた。散策中、所々で黒い犬が描かれた護符に遭遇した。「何かが分からず、不気味だった」
数年後、ドキュメンタリー映画「オオカミの護符」を見て正体が判明。田畑を守るために農民たちが「お犬様」に祈りを捧げた信仰の跡だった。感銘を受けた東さんは映画製作者の小倉さんに手紙を出し、書籍化を懇願。そして2011年秋に出版された。「足元の歴史への好奇心をかきたてる一冊。私も、川崎の北部の歴史は面白いと気付かされた」と語る。
もう一冊、「北部の歴史」関連の本として、宮前区在住のノンフィクション作家、高橋秀実さんの『パワースポットはここですね』(新潮社)を挙げた。地盤が安定している市北部には古墳や遺跡が多く、土器などが度々出土する。高橋さんは自宅敷地で土器が出土した話も交え、現代人が歴史と共にあることを伝える。東さんは、本の「パワースポット」も歩いてみたそうだ。「土地の歴史を知らない人たちに薦めたい」と笑う。
東さんは「土地の歴史」という観点から、約40年前に話題を集めた本の名も挙げた。写真家の藤原新也さんの『東京漂流』(新潮文庫)だ。藤原さんは著書の中で、ある殺人事件で全国区になった「宮前平」を、宅地化により大地の歴史が寸断された「新しい日本の家と土地」として憂いている。
「40年が過ぎ、彼が憂いた未来とは異なる風景が広がっていると思う。そういう意味で興味深い」と東さん。10月26日(土)には高津区梶ヶ谷のカフェ「アンジュ」で、藤原さんと小倉さんのトークイベントも開かれる。