「蛇聟(むこ)入り」と「北条時政」 藤沢に残るヘビ伝説
今年は巳年。ヘビというと細長くてヌメヌメしていて、最近はあまり見かけず、見かけたら少し怖い――。
そんなイメージは古来からのものだったかもしれない。『藤沢の民話第二集』(藤沢市教育文化研究所)や『藤沢のむかし話』(名著出版)には「蛇聟(むこ)入り」の伝承が記載されている。
蛇聟入りは、全国各地に類話が伝わる異類婚姻譚の一つ。『藤沢の民話』で紹介される、下土棚に住んでいた明治18年生まれの女性の話によると、若い男に化けたヘビが人間の娘の家に来て子を成したという伝承があるという。遠藤や石川にも同様の話が伝わり、そこでは菖蒲湯に入るとヘビを産まずに済むという対処法が記されている。
このように超常的な力を持つとも見られていたヘビ。藤沢でヘビの神といえば江島神社奉安殿の国重要文化財「八臂弁財天御尊像」だ。弁財天の頭頂部に鎮座する「宇賀神」は、ヘビの体に老爺の顔を持ち、五穀豊穣の神とされた。普段は冠に隠され拝観者は見ることができないが、今年は宇賀神のみを撮影した写真も飾られている。
「江の島とヘビの関係は他にもある」と同神社の堀嵜壮さんは話す。それは中世の軍記物『太平記』に記された、鎌倉幕府初代執権・北条時政にまつわる伝説だ。子孫の繁栄を祈り、江の島に参籠した時政。37日目、突如目の前に「端厳美麗」な女性が出現する。女性は時政に、神仏の教えに則った善政を敷けば子孫は長く繁栄するとし、背けば七代で亡ぶと告げた。その後女性は「大蛇」となり、海へと帰っていく。その際に落とした三つの鱗を時政は祀り、北条氏の家紋としたとされる。「八岐大蛇など、日本では古来からヘビが信仰されてきた」と堀嵜さん。「昔からヘビは畏敬の対象だったのかもしれない」と話す。