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【やまとさんの湯湯自適の記】#5 スパ・アルプス(富山市山室地区)連載とやまのおふろ

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【やまとさんの湯湯自適の記】#5 スパ・アルプス(富山市山室地区)連載とやまのおふろ

この連載は、富山県公衆浴場業生活衛生同業組合が行ったスタンプラリーで全45軒を制覇し、「富山銭湯マイスター」の称号を手にした会社員「やまとさん」が、日々の銭湯めぐりや強く惹かれた入浴体験をつづる不定期連載のコラムです。

#5 スパ・アルプス

好調を続けているサッカーJ3・カターレ富山がホームで思わぬ苦戦を強いられ、引き分けに終わった日。J2自動昇格圏内への突入を前に足踏みするモヤモヤとした結果に、馴染みの飲み屋の前まで足を運んだものの、どうにもこの日は呑む気になれなかった。

 

あぁ、こんな日は…「スパ・アルプス」だな。

スタジアムから来た道を戻り、東へ。山室のほうへと車を走らせた。

 

いまやサウナーの間では全国区の人気を誇る施設とあって、駐車場はいっぱいだ。日曜日の終わり、明日から始まる新しい週を前に、現実逃避の民が集っているのだろうか。タイミングよく空いたスペースへ、滑り込むように駐車した。


ーーー

 

受付を済ませて浴場に入ると、思いのほかスペースにはゆとりがあった。駐車場の混み具合からもう少しごった返した状況も覚悟していたが、ここには風呂、サウナのほかに、休憩スペースに食堂、宴会場、ゲームコーナー、リラクゼーションもある。うまく人が分散しているのだろう。

 

全身を洗い流し、白湯での「下茹で」作業を経て、スパ・アルプス名物「ロッキーサウナ」に入場。よかった、中もスペースにゆとりがある。

 

スパ・アルプスのロッキーサウナは、天井からストーブに水を注ぐ「オートロウリュ」が定期的に発動することで、高い温度だけでなく、ほどよい湿度がもたらされるフィンランド流。3段のタワーサウナは、上に上がるほど熱い空気に覆われる。私は、かつてこそ上段でグッと熱さに耐えることに美学を感じていたが、最近は下段に落ち着いている。じっくりと、ストレスなく熱気を楽しむスタイルだ。

高温適湿の環境で汗を流していると、そのうち施設の2階「アルプス食堂」のメニューを思い浮かべはじめる。スパ・アルプスではご飯を食べるまでが、外せない一連の作法。ここで何も食べずに帰る選択肢など、無い。

 

 今日はチャーハンにしようか。

 いや、定番のアルプス御前か。

 うーん、日替わり丼とうどんのセットも捨てがたい。

 いっそ今日は1セットだけにして、食堂に駆け込もうか。

……さまざまな声が頭の中を駆け巡る。

ととのうつもりが、食欲、雑念にかられ始めたところで、サウナ室を出る。いろんな意味で頭を冷やす必要があるのだ。

 

スパ・アルプスでは水風呂も名物のひとつだ。完全かけ流しの「北アルプスのおいしい天然水」による水風呂は、天井からの打ち水のほか、飲用の蛇口からも天然水が勢いよく放出されている。厳しい飲用検査をクリアした「飲める水風呂」として全国のサウナーに人気らしい。肩まで浸かり、上がり際に頭から打ち水を浴びると、すぐに身体が脈打つ「ととのい」のはじまりを感じた。

 

身体の水気を拭いながら、いそいそと外気浴スペースに出る。背もたれ付きの椅子に腰かけ、天を仰ぐと、建物とフェンスに挟まれた長方形の視界に宇宙を感じる。

恍惚。

傍から見れば、さぞかし間抜けな面だったろう。だが、それでいい。外気浴で人の目を気にするサウナーなどいない。頭の中のモヤモヤが、鼻から、口から、霧散していく。


ーーー

 

だらんと我を忘れてくつろいでるうち、腹が鳴った。すっかり中年、四十歳のだらしない腹の肉をつまむなどしながら、しばし考える。さっきまでの自分なら、ここで上がって、食堂に駆け込んでいただろう。だが今は、食欲に勝るサウナ欲。結局、しっかり3セット、サウナ、水風呂、外気浴のルーティンをこなした。こと3セット目に関しては身体も慣れ、ずっとサウナ室にいられる気さえしたが……さすがにそれは空きっ腹が許さなかった。

 

館内着に着替え、2階へと急ぐ。幸い、アルプス食堂のカウンター席は空いていた。「あんばやし」とノンアルコールビール、そして、アルプス御膳。やっぱり落ち着くところに落ち着くものだ。流れるようにオーダーをした。

 

遠くの席から、だし巻き玉子が売り切れたことにショックを受けた老紳士が、「うぇ!?」と銃で撃たれたような呻き声をあげるのが聞こえた。滑稽なようすではあったが、同時に湧き上がるのは「そんなにも美味いのか?」という疑問。次の機会に必ず頼もう。心に固く誓った。

 

ついこの間まで瓶で提供されていたノンアルコールビールは、中ジョッキに形を変えていた。これがまたキンキンに冷えてやがる!甘辛いショウガ味噌のあんばやしとも相性がいい。

ノンアルを半分ほど飲み進めた頃、アルプス御前も運ばれてきた。メインは新鮮な刺身と、カラッと揚がったエビ、野菜の天ぷら。この日の小鉢はとろろと、山くらげとかまぼこの煮物。それにご飯とすまし汁。スパ・アルプスの正統派、ど真ん中と言ってもいいだろう。定食としてはもちろんだが、酒のお供としても成り立つ、優等生ラインナップ。隅々まで余すところなく、美味い。一気呵成に食べ切った。

ここでは生ビール、ボトルキープの焼酎など、お酒を楽しむ諸先輩方も多い。刺身に焼き鳥、串カツ、餃子と、いわゆる居酒屋メニューが充実しているのだから、そりゃたまらない。


ーーー

 

食後は、休憩スペースで『島耕作』にサラリーマンのイロハを学ぶなどゆっくり過ごし、外に出たのが21時過ぎ。家に帰って飲み直すこともできる時間ではあったが、たまには休肝日も必要だろう。

いつか「スパ・アルプスで呑む」ことを夢見つつ、今夜は帰っておとなしく寝ることを決めた。

【スパ・アルプス】
住所 富山県富山市山室292-1
営業時間 24時間営業

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