『DIZZY MIZZ LIZZY』30周年を祝った特別な空間! ディジー・ミズ・リジー@豊洲PIT 2025.9.3
アルバムと全く遜色ない艶やかさ
ディジー・ミズ・リジーが1994年にリリースした作品『DIZZY MIZZ LIZZY』は、当時平均21歳の若者たちが生み出した1st作としては異例中の異例と言えるほど高度な音楽性を備えた完成度の高い内容を誇っており、母国デンマークではロック・アルバム売り上げランキングのトップを更新。それどころか熱は遠く離れたここ日本にも大きく飛び火し、洋楽としては珍しい10万枚の売り上げを超える大ヒット作となる。かくして彼らは瞬く間に人気バンドの仲間入りを果たした。
ただ、それほどの衝撃をロック界に与えておきながら、デビューからわずか4年でバンドは解散に至っており、紆余曲折の末に本格的再始動を果たしたのは2014年。であるが故に、ことさら1stアルバムの周年記念タイミングというのはなかなか訪れなかった。デビュー31年目にして、ようやく日本のファンがそれを祝うことができる今回の来日公演は、本当に特別な機会だったと言っていい。遅ればせながら去る9月3日、豊洲PITにて行なわれた彼らのパフォーマンスの模様をここにお伝えしよう。
1stアルバムのジャケを廃墟の壁に写したようなバックドロップを背に、「The Ricochet」のSEが流れる中、メンバー3人が順に登場すると大きな歓声が上がる。前回公演時は『ALTER ECHO』(2023年)の世界観を再現するためサポートのキーボーディストを含んでいたが、今回は従来の彼ららしいトリオ編成だ。ティム・クリステンセン(g, vo)の黒いストラトから飛び出すムーディなギター・リフに導かれ、マーティン・ニールセン(b)とソレン・フリス(dr)の重厚なリズムが入ると、ヘヴィに始まったのはその最新作からの「In The Blood」。31年前の彼らとは全く異なるドゥームな曲調だが、そんな音楽性の振れ幅ぐらい問題なく受け入れるファン…というのが、ブランクはあれど歴史あるバンドならではだ。
2曲目に披露されたのは2016年の再結成3rd作『FORWARD IN REVERSE』からの、元気よく飛び跳ねるかのごときタイトル・トラック。さらに「今晩はみんなと30周年を祝うのを楽しみにしていたよ。でもその前に他のアルバムから少し…」というMCの後、同作の人気曲「I Would If I Could But I Can’t」、2nd『ROTATOR』(1996年)からの「Thorn In My Pride」「Rotator」、最新作からの「The Middle」…と続き、観客のリアクションは曲が進むに比例して大きくなっていく。彼らのライヴでは常に驚かされることだが、ティムの歌声はアルバムと全く遜色ない艶やかさであり、全くつられることなく流麗に奏でられるギター・プレイは、1人の人間が同時にパフォームしているとは思えない素晴らしさだ。
あくまでもショウとしての楽しさを最優先に
そんな、前置きと言うにはぜいたくな序盤戦が過ぎると、今回のライヴの本題。止まない拍手と歓声の中、1stアルバムの最後に収められていた怪しいSE(Gammel Intro)がじわりと流れ出す。先陣を切ったのはヘヴィなリフと透明感あるポップな歌メロ対比が面白い「Mother Nature’s Recipe」で、待ちに待った瞬間に対して観客たちから上がったリアクションは実に大きい。後半の展開部ではヘヴィなリフを引き伸ばすちょっとしたアレンジがあり、そのリズムに合わせてそこかしこで人々が飛び跳ねる場面も。続く「For God’s Sake」でもティムはブルージーなリフを自由に崩しながら弾き、適度なフックを曲に加える。ここまでで既に分かったのは、1stアルバムの30周年を祝うことを主題としながら、彼らが“完全再現”を全く念頭に置いていないこと。あくまでもショウとしての楽しさを最優先に曲を並べ、バンドの成熟とともに変わった曲の姿を見せる。アニヴァーサリー・ライヴとして実に正しい姿勢だ。「これが30周年記念ショウの始まりだ、足を運んでくれてありがとう。そして30年間も僕らの音楽を愛し、サポートしてくれて本当に感謝しているよ」…そんなティムの言葉に続くのは「Barbedwired Baby’s Dream」で、定番曲であるだけにアレンジも頻繁に変わる。今回はギター・ソロの後に不思議な浮遊感あるセクションを追加して披露され、最新の形を観客は思い思いに楽しんでいた。
「今晩は1stアルバムの曲をすべてやるよ。その中には僕らが長年プレイしてこなかった曲もある…」そんな前置きを挟んで演奏されたのはメロウなバラード「Hidden War」、スピーディに疾走する「Wshing Well」、不安定な音使いのリフを核とする「…And So Did I」。ここ日本での披露は2010年の一時的再結成ライヴ以来で、それは先述の「Mother Nature’s Recipe」と「For God’s Sake」も同じだ。悪い言い方をすれば“人気作の中でも地味な曲たち”だが、ファンな視点で言えば珍しい曲をじっくりライヴで観られるレアな機会でもある。少なくともこの場に集った観客の中で、喜んでいない人は1人もいない。
そんなマニアックな時間が過ぎると、必然的に人気曲が固められたセットリスト終盤へ突入。「次の曲はみんなで一緒に歌えるチャンスだよ」…そんな呼びかけから始まった「Love Is A Loser’s Game」は、ティムのソロ・ライヴでもお馴染みの、ギター1本のみによる弾き語り形式だ。と言ってもアコースティック・ギターが登場するわけではなく、現在の彼が愛用するストラトにはすべてL.R.バッグス製のピエゾ・ピックアップが組み込まれており、素晴らしいそのクリーン・サウンドがメロディの良さを生々しく浮き彫りにする。その余韻も醒めないうちに間髪を容れず、再び3人体制に戻って「67 Seas In Your Eyes」がスタート。この曲は中間に毎回長いインプロ・セクションが設けられることでお馴染みであり、今回は空間系エフェクトを思い切り効かせつつソロを弾きまくるという珍しい姿を観せるティム。総尺10分に渡って熱演を繰り広げた。
牧歌的なレア曲「Love Me A Little」(これも2010年以来)を挟み、「これでアルバム全曲かな? …いや、まだこんな曲もあるよね!」と始まったのは、1st作のオープニングを飾る「Waterline」だ。オクターヴ奏法による冒頭リフはやはりインパクト絶大で、どこもかしこも異様に難しいこの曲を弾きながら歌う、その異次元の技巧には舌を巻かざるを得ない。そんな一人二役ぶりは「Silverflame」でも同様。テクニカルさとはまた別のエモーショナルな表現力を、歌とギターの2本柱で、しかも圧倒的なクオリティで見せる。繰り返される情感豊かなメロディで大きな歌声を呼び起こし、本編は感動的なラストを迎えた…が、これで終わりではないことは集った観客の誰もが知っていた。手拍子に導かれて間を置かず再びステージに現れると、彼らは「日本では一度もやったことがない曲」との説明に続けて軽快な「Too Close To Stab」をプレイ。そんなアルバム一番のマニアックな曲の後は、もちろん最後まで引っ張りに引っ張って出し惜しんだ「Glory」だ。ラジオでのヘヴィローテーションにより、彼らがブレイクを果たすきっかけとなったナンバーでもある。ここでも後半にはギター・ソロを倍以上の尺に引き伸ばす自由なアレンジが施され、誰もが聴き慣れた曲にさらなる魅力を加えるあたりがニクい。そしてアウトロのギター・リフで巻き起こすのは、この日一番の大合唱。30年という時を過ぎても全く色褪せないその音楽の魅力を、これでもかとばかりに証明してみせるのだった。
ディジー・ミズ・リジー 2025.9.3 @豊洲PIT セットリスト
SE(The Ricochet)
1. In The Blood
2. Forward In Reverse
3. I Would If I Could But I Can’t
4. Thorn In My Pride
5. Rotator
6. The Middle
7. Gammel Intro~Mother Nature’s Recipe
8. For God’s Sake
9. Barbedwired Baby’s Dream
10. Hidden War
11. Wishing Well
12. …And So Did I
13. Love Is A Loser’s Game
14. 67 Seas In Your Eyes
15. Love Me A Little
16. Waterline
17. Silverflame
Encore:
18. Too Close To Stab
19. Glory
(レポート●坂東健太 Kenta Bando pics●Yuki Kuroyanagi)