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はみ出す!100年残るイチョウと明治学院大の歴史

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今日は、東京都港区にある明治学院大学の正門前の大イチョウの切り株をどうする?というお話。

正門の前には、高さ18.5メートル、幹回り4.2メートルの立派なイチョウの木がありました。しかし、港区は2023年に樹木医の空洞率の診断を元に、「倒木の危険があり」「延命処理も不可能」として明学の了承を得たうえで伐採され、切り株だけになってしまいました。

切らない約束を東京市長と交わして100年残ったイチョウ

この正門前大イチョウについて、伐採後に立ち上がった教職員有志の会の、明治学院大学国際学部・戸谷浩教授にお話を伺いました。

明治学院大学国際学部 戸谷浩教授

「最初は明治学院大学の構内にあった木の一つだったんですね。それが、バス通りが作られるってことになって、それに引っかかってしまう、と。

で、その時の総長だった井深が、土地を削って譲ることはやぶさかではないけれども、あの木だけは地域の風致を守るために残してほしい、という条件で、そういう条件を付けるっていうことは逆に言うと、当初から出っ張ってるってことは分かってたっていう、普通なら切っちゃうかもしれませんけれども、残してほしいっていうことを、当初から東京市に約束させたっていうことだと思うんですね。

少なくともそれが守られて道は広げられてもあの木だけは100年ずっと残ってた。

それが、然したる議論もなくて、しかもバッサリ切られてしまうと。もちろん、人命に関わるようなことがあってはいけないので、それを問題にしてるわけではないですけど、ただ、あまりにも話が急だったということと、明治学院にとって意味のあるものをそんな短時間で議論もなく処置してしまうということ、あるいは処置するにしても善後策を考えるということが、果たしてあったのかっていうのが大きく疑問とするところですね。」

1921年に、明治学院2代目総理の井深梶之介先生が、東京市長の後藤新平さんと、切らないという約束を取り付け、その後100年ずっと残っていた大イチョウ。

それが、2023年6月28日に、明治学院のホームページに、中の空洞化率が高く、枝が落ちたり倒れる可能性があるので切らなければならないと告知が載り、しかも、7月、8月は台風が来るので悠長なことは言ってられない、と、7月の中旬にすぐに伐採。

あっという間に切られてしまった事実を受け、その反省と、経緯などを問い直すことがあって然るべきなのでは、と教職員の有志が声を上げました。

実際に、各所に聞いて回り判明したこともありますが、例えば、空洞率の検査の資料開示はしてもらえなかったそう。今回、空洞率は70%を超える、とされているのですが、開示してもらえた3年前の検査では30%で、十分に元気で健康な木という診断がされていた。(3年でそんなに?との疑問も湧きますよね。)

切られても生きていた!切り株からすくすくと胴吹きが!

しかし、枯死していると言われたこの大イチョウが元気な証拠に、バッサリ切られた切り株から胴吹きが出て、今、すくすくと育っているんです!100年の歴史が途絶えていなかったことに、胸をなでおろしている有志の会なのですが、実は問題も。街の方の声をお聞きください。

・「気持ち的には残してやりたいんですが、ただこの狭い道にかなり出てますよね、切り株が。それって交通の邪魔になるような気がして、やっぱり撤去せざるを得ないかな~っていうのが、私の本音です。」

・「ここまで育ってきてるのを、またこれを切るっていうのはすっごい心が痛むんですけど、ただ根っこのところを見ると、かなり道路にはみ出してる。うまくこちらに収めるような形であれば残してほしいな~。」

・「道路をうまく工夫して、なんとか残すことを考えてもらえればなと思います。これだけのものはなかなか無いように思いますし、大変面白いですよね。」

・「こんなにすごく伸びていくんだったら、そのうち信号も見えなくなったりして、邪魔になるのかなとも思います。だから、ちゃんとメンテナンスできれば、残してほしいなと思ってます。」

この大イチョウは歩道と車道に半々で生えているんです。

(車道と歩道にまたがって生えています。ちなみに道路側は区の人が定期的に刈っているとか・・・。)

この道は、目黒通りと国道一号線をつなぐ桑原坂と呼ばれる道で、バスも通ります。国道一号に交わることもあり、交通量も多め、なのに、片側一車線・・・という道路。

そこに、今2メートルほどの高さでイチョウが生い茂っているので、確かに邪魔、ではあります。ドライバーの視野への影響も気になります。ただ、その生命力を目の当たりにして、残してほしいという要望もあり、港区は、安全第一で、残すか、伐根するか検討中、とのこと。

戸谷先生は、港区に限らず今、街路樹は道路の付属物で、街灯やガードレールと同じ。壊れたら直す、邪魔だからどかす。外苑の森が象徴的だと思う、あれだけ立派なものでも黙ってたら切られたり動かされてしまっていたかもですから。まして、明治学院の一本のイチョウに歴史があるって言っても、いや別にそれは、っていう感じでしょう、と。

はみ出してた方がいい それが明治学院の姿勢であり、歴史

しかし、されど一本のイチョウ。なんとか命を吹き返したイチョウをこの先100年つないで行きたい、と戸谷先生は話します。

明治学院大学国際学部 戸谷浩教授

「僕なんかは歴史をやっているので、やっぱり井深がなぜそれを残せって言ったっていうか、道から出ててもいい、道から出てる形で残してほしいっていうのは、ある意味で、井深の考えと言うか、その後の明治学院の姿勢っていうか、考えっていうか、歴史も反映してるように思えて、戦前の軍国主義に最後まで抵抗しようとした明治学院の姿勢だったりとか、考え方によったら余計なことじゃないですか。

でも、そうはみ出してた方がいいっていうのが、ある意味で明治学院の一つの有り様だと。

そこにあった時からそんなことをすごく毎日認識して、ピクピク感じてたっていうわけじゃないですけど、いざ、無くなってしまうと、あるいは出っ張ってたから切るよ、なんていう風に言われると、んん?っていう感じですよね。出っ張ってたからこそ意味があったし、そういう明治学院だったということなので、まあ、遅かりしということはあったかもしれないけれども、逆に自分のアイデンティティを認識させられたっていうことですね。」

東ヨーロッパの歴史が専門の戸谷先生。ベルリンの壁があった場所にタイルで線が残されているように、イチョウを学内に移動して、今のはみ出している場所にタイルで円を残せれば、といったことも考えています。

やはり、明治学院らしさを示す大事なイチョウは、現物があるかないかは、この歴史や姿勢を伝えていく、つないで行くために大事と考えますから、と。

胴吹きが元気に茂ったことで、港区が危険を理由に伐根してしまう可能性も高まっていると思うので、慎重に、でもなるべく急いで、アイデンティティのイチョウをどうするか、考えて行動していきたい、と話していました。

木や緑を東京都がどう考えているのか。他にもたくさんこうしたことがあるのかもしれないな、と心配になってしまいました。

(TBSラジオ『森本毅郎・スタンバイ!』取材・レポート:近堂かおり)

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