メガネの選び方からトレンドまで、アイウエアについて知っておきたい10のコト。
基本的なフレームのデザインは? アイウエアにトレンドってあるの? そんな“アイウエア”にまつわる疑問に答えるべく、知っておきたい基礎知識を「パリミキ」プロダクトマネージャー・増井孝安さんに教えてもらった。
「パリミキ」プロダクトマネージャー・増井孝安さん
1998年に老舗アイウエアブランド「パリミキ」に入社。店頭での販売スタッフを経て商品開発に携わり約20年が経つ。メガネ造りの聖地、福井県・鯖江市には月1度訪れており、私物のコレクションはその数100を超える
1.アイウエアの歴史。
今日ではファッションアイテムとして定着しているアイウエアも、元を辿れば視力を矯正するための“道具”にすぎなかった。
その歴史はかなり古く、13世紀ごろにイタリアで発明されたといわれている。初期のアイウエアには耳にかける「テンプル」が存在せず、手に持って使用するか、落ちないように注意しながら鼻にかけて使用するのが一般的であった。当時は高級品であり、一般層にまで普及していなかったともいわれている。
日本への伝来は、16世紀であるという説が濃厚。時を経て1800年代には大阪を中心に工場が集結し、国内での製造が本格化すると、その後福井県・鯖江市が国内における主要な産地となった。
2.各部名称。
各部位の名所は図の通り。“道具”としての機能美こそがアイウエアの魅力。ほかのファッションアイテムに比べて非常に小さいプロダクトであるにも関わらず、デザインやディテールは多種多様である。
3.基本のレンズシェイプ
ボストン
真円をやや縦に潰したようなシェイプが特徴。逆三角形を丸くしたようなシェイプともいえる。現在では最もベーシックなデザインのひとつであり、目元から上品な印象を醸し出してくれる。ヨーロッパではパントゥと呼ばれる。
ウェリントン
台形の上下を反転させたような形状が特徴的なシェイプ。角が丸みを帯びているのも特徴で、ビジネスからカジュアルまで幅広いシーンに対応。英国の名優、マイケル・ケインが作中でかけていたことでも有名なクラシカルな型。
クラウンパント
シェイプの形状はボストンに似ているが、上部が一直線上になっている。直線と曲線が組み合わさることで個性的な雰囲気に仕上がっている。「クラウン」は王冠、「パント」は丸形を意味する。フレンチヴィンテージに多くみられる。
ボストンウェリントン
その名の通り、ボストンとウェリントンの中間に位置するようなシェイプ。一般的なウェリントンに比べるとやや丸みがあり、シャープでありながら柔らかな印象も併せ持つ。旧きよきアメリカンアイウエアにおける定番の型である。
ティアドロップ
涙のしずくのような形をしていることからその名が付いた。元々は、パイロットが視野を広げるために開発されたミリタリー由来のシェイプで、「アビエーター」とも呼ばれる。サングラスとも相性抜群のレンズシェイプである。
オーバル
横に伸びた楕円形(=オーバル)のシェイプで、1990年代後半から2000年代前半にかけて流行。レンズが横に広く、非常に個性的な印象となる。ながらく流行から遠のいていたが、近年は再びトレンドに浮上している型のひとつ。
ラウンド
「アイウエアの歴史」の項で紹介した昔のアイウエアのシェイプもラウンドであるように、最も歴史のあるレンズシェイプ。シンプルな真円型の形状で、知的でクラシックな印象を醸し出す。最もベーシックな型のひとつといえる。
オクタゴン
目元にひとクセ欲しい時に有効な八角形型。直線的で個性的なルックスながら、顔の形を問わずに合わせられる汎用性の高さに定評あり。ほかにもシンプルな四角形の「スクエア」、六角形の「ヘキサゴン」などが存在する。
フォックス
今回紹介するシェイプのなかでも最も個性的でデザイン性が高いシェイプ。レンズの目尻部分が上向きに吊り上がっており、キツネの目のように見えることからこの名で呼ばれる。似たようなシェイプとしてキャットアイも存在する。
4.主な素材。
アイウエアは素材によっても印象が大きく変わる。大きくは「プラスチック」と「メタル」に分けられるが、その中でも「アセテート」、「セルロイド」、「チタン」の代表的な3つの特徴を紹介する。
アセテート
木材パルプを主な原料としたセルロースに、酢酸を結合させて作られる繊維。発火性が低く、取り扱いが容易なこともあって、現代では最も一般的なプラスチック素材である。セルロイドに比べると安価である点も見逃せない。
セルロイド
世界で初めて工業化されたプラスチック素材ともいわれている。発火性が高く、火事などの原因となりうるため、徐々に減少していった希少な素材だ。独特のぬめり感とツヤ感が特徴で、ヴィンテージアイウエアに多くみられる。
チタン
メタル素材のアイウエアの大半はこのチタンが用いられる。非常に軽量でありながら耐久性にも優れており、錆びにくさも兼ね備えた機能素材である。金属アレルギーが起きにくいのも特徴。加工には高い技術力を要する。
5.サイズ表記。
アイウエアを選ぶうえで重要となるサイズ選び。現行で購入できるアイウエアのほとんどに、テンプルの内側に3つの数字が記載されているのをご存知だろうか。これが各部の寸法を表しているのだ。
左から「46」、「24」、「145」と3つの数字が記載されている。これらは左から「レンズ幅」、「ブリッジ幅」、「テンプル幅」を表しているのだ(単位は㎜)。一般的なアイウエアのサイズの目安としてはレンズ幅は52~56㎜、ブリッジ幅は16~18㎜、テンプル幅は138~145㎜といわれることが多いが、デザインによるところも大きい。
6.フレームデザイン。
レンズシェイプと同様にアイウエアの印象を大きく左右するのがフレームのデザイン。リム(縁)の有無やプラスチックとメタルの切り替えなど、様々なデザインが存在する。これを知ればより一層アイウエアへの理解が深まるだろう。
リムレス
リム(縁)がないフレームデザイン。レンズに穴を開けて、テンプルやブリッジを直接固定しており、ネジの数によってツーポイントとも呼ぶこともある。レトロな印象を醸し出し、近年はトレンドに浮上している。
ハーフリム
上半分がアセテートやメタルで縁取られ、下半分はナイロン糸で固定されている。簡単にいうと上半分にリムがあり、下半分にはリムがないデザイン。リムレスに比べて主張が少なくスタイリッシュな印象。
ブロウ
フロントの眉部分がプラスチック素材で、それ以外がメタルでできている。眉毛を意味する「アイブロウ」が語源。混同されがちだが、「サーモント」はアメリカンオプティカル社が開発したフレームの名称。
ツーブリッジ
左右のレンズを繋ぐブリッジが2本付くデザイン。本来は耐久性向上のために開発されたディテールでパイロット用のアイウエアに用いられたと言われている。クラシカルでありながらややクセのある印象。
セル巻き
メタル素材のリムの外周を覆うように薄いプラスチックを巻きつける技法。19世紀末から用いられた旧きよき製法であり、いまとなっては作ることができる工場は限られている希少なデザインだ。
イチヤマ
一見すると変哲のないデザインだが、よく見ると鼻にかけるパッドが存在しない。ブリッジが直接鼻にかかる設計になっており、非常にクラシックな意匠である。シンプルですっきりとした印象となる。
7.主な生産国。
ヴィンテージ市場においてはアメリカ製や英国製などが存在するが、現代におけるアイウエアの3大生産国として挙げられるのは日本、中国、イタリア。ブランドやメーカーによる部分もあるが、各国の簡単な特徴を紹介する。
日本
いまでは世界屈指のアイウエアの産地として知られる福井県鯖江市を筆頭に、クラフトマンシップに定評あり。1980年代までは大量生産に優れていたが、徐々に中国生産のボリュームが増していった。現在では鯖江発の様々なブランドが台頭し、クオリティの高さも随一だ。〈ディグナ クラシック〉のアイウエアも鯖江で生産されている。特に、加工が難しいとされているメタル製のアイウエアにおいては、鯖江製のクオリティは世界一との呼び声高い。
中国
かつての日本から徐々に移行し、大量生産という点に関しては世界屈指。広大な面積を活かし、多くの工場が存在しており、圧倒的な量のアイウエアを生産し続けている。加工が比較的に簡単なプラスチック製を中心にコストパフォーマンスの高い現行のアイウエアのほとんどは中国製だと思ってよいだろう。特に、比較的安価なアイウエアを展開するジャパンブランドが登場した2000年代初頭を境に日本でも多く流通し、近年はファッション性の高いアイウエアも製造。
イタリア
クラフトマンシップは日本、大量生産が中国なら、イタリアはデザイン性の高さが最大の特徴。1878年に創業した〈ロッツァ〉をはじめとする歴史あるアイウエアブランドが数多く存在し、革新的なプラスチック素材の先駆的な使用から生み出された独創的なデザインや、道具としてのシンプルな作りとは異なる“ファッション的”なアプローチによるこれまでにはなかった色使いが特徴的でハイブランドのアイウエアの製造を請け負う工場も多く存在する。
8.選ぶ時のポイント。
レンズシェイプやフレームデザインも重要だが、アイテム単体で見るのと実際に身につけるとでは印象は大きく異なる。ここでは店頭で試着する際に注意したい基本的なポイントを4つを紹介する。
【ポイント①】サイズ
服と同様に、第1に重要なのはサイズ。いくら気に入ったデザインでもサイズが合わなければ、かけた時にしっくり来ない。顔の大きさも人それぞれであるため、試着したうえで、レンズのサイズやテンプルの長さなどを店頭のスタッフとしっかり相談すべし。
【ポイント②】フレームの太さ
意外と重要なのがフレームの太さ。特にプラスチックであれば、生地が肉厚のものからやや薄めのものまで存在する。一般的にはフレームが太いと主張が強く、細いと主張は抑えめ。自身の顔の印象や普段のコーディネイトをもとに熟考する必要がある。
【ポイント③】フレームの素材、色
フレームの太さとも関係するが、フレームの素材や色も重要なポイントだ。まずプラスチックとメタルのふたつでも大きく印象は異なる。またプラスチックならブラックやブラウン、メタルならシルバーやゴールドなど色が変わるとかけた時の雰囲気も一変する。
【ポイント④】レンズの色
レンズの色選びも重要なポイントだ。クリアを選ぶか、色を入れるか。色を入れる場合は何色を入れるか、濃度はどうするか、偏光レンズか調光レンズにするか、など。選択肢が多い分、非常に迷うポイントでもあるため、しっかりと考えたうえで決断されたし。
9.近年のトレンド。
アイウエアにおけるトレンドの移り変わりは、ファッションシーンと比べるとややゆったりとしているという。そんななか、近年は1970~90年代に流行した個性的なデザインが再興しているのだとか。
クラシックなアイウエアの基本ともいえるラウンドやボストンといったシェイプは1930〜60年代にかけて成熟。当時のレンズはいまでは希少なガラスレンズが主流であった。その後、70年代からはパイロットグラスを出自とするツーブリッジやスクエア型、オーバル型など、より“ファッション的”な側面から個性的なアイウエアが登場し、トレンドとして浮上。しかし、90年代後半から再びクラシック回帰の傾向が始まり、2000年代初頭から約20年にわたって続いたが、近年は“流行は巡る”というべきか、再び個性派なデザインが浮上しているという。
10.長持ちさせるためのメインテナンス方法。
最後に、長く愛用するためのメインテナンスについて。修理が必要な場合はその道のプロに依頼するのがもちろんベターだが、日々着用するなかで、自宅で簡単にできるメインテナンス方法を紹介する。このひと手間がのちに大きな差となるので、必ずや実践してほしい。
【STEP①】水に浸してホコリを取る。
まずは水洗いをしてホコリを落とす。写真のように容器に水を張って浸してもよし、容器がない場合は、蛇口から水を出して直接洗ってもOK。ただ、お湯で洗うのはNG。高温になるとレンズのコーティングにダメージを与える恐れがある。
【STEP②】ティッシュで水気を取る。
水洗いをした後は、余分な水分を拭き取る。メガネクロスでなくて良いの?と思われるが、ここでは完全に水分を取り除くわけではないため、自宅にある普通のティッシュペーパーで問題なし。ただ、荒い素材でレンズをガシガシ拭くのはNGだ。
【STEP③】クリーナーで油分を取り除く。
次に油分を取り除く。メガネクリーナーを塗布してメガネクロスで拭き取るのだが、クリーナーは薬品であるため、拭き残しがないようにしっかりと拭き取るべし。ここでもレンズをガシガシと拭くのは傷をつける恐れがあるため気をつけたい。
【STEP④】メガネケースで保管する。
クリーナーを拭き取った後は、メガネケースに入れて保管する。その際に注意するのはケース内にメガネクロスを敷くこと。そして、レンズを下にして入れることである。ともにレンズを保護するためであり、上向きよりも下向きの方がベターだ。