大阪・関西万博・滋賀ブースをデザインしたアーティスト松尾高弘さんインタビュー
【大阪・関西万博・滋賀ブース/松尾高弘さんインタビュー】
大阪・関西万博の会場で、ひときわ異彩を放つ空間があります。
滋賀県が出展する「関西パビリオン」内の滋賀ブースです。
中に入ると、目の前に広がるのは幻想的な風景。
桜が舞い、蛍が飛び、炎がゆらめく——
まるで琵琶湖の上を旅しているような、不思議な体験に包まれます。
この空間を手がけたのは、光のアーティスト・松尾高弘さん。
彼が開発したのは、世界初となる体験型の空間装置「Kinetic Light Vision(キネティック・ライト・ビジョン)」です。
世界初の空間アート装置、その名も「Kinetic Light Vision(キネティック・ライト・ビジョン)」
展示を見上げると、直径45ミリの球体が450個、空間に浮かんでいます。
そのすべてにモーターと光の演出が仕込まれ、映像と連動しながら、やわらかく、滑らかに、動き出します。
「たとえば桜のシーンでは、球体がふわっと上から舞い降りて、淡いピンクの光が灯ります。蛍の場面では、ゆっくりと点滅して。まるで夜の湖畔で蛍を見ているような感覚に近いんです」
松尾さんはこの表現を「非言語」と語ります。
言葉を超えて、誰が見ても“感じ取れる”。そんな展示を目指してつくられました。
映像だけでは足りない。松尾さんの挑戦
「万博には、おそらく映像だけの展示が多くなると思ったんです。だからこそ、“映像+実体”の展示で、体験の質を上げたいと考えました」
近年話題のドローンショーや、東京五輪で話題となったピクトグラムのパフォーマンス。
そうした“記憶に残る体験”を、室内で再現できないか。その想いから、この展示は生まれました。
見るだけでは終わらない体験。
記憶に残り、誰かに伝えたくなるような展示を目指して——。
滋賀という“モチーフ”との出会い
「じつは僕、滋賀との縁はなかったんです」と松尾さんは笑います。
それでもこのプロジェクトを通して、1年かけて春夏秋冬すべての季節に滋賀を訪問。
「朝焼けの琵琶湖に船が浮かぶ景色とか、潮の香りがしない快適さとか。すごく印象に残っています」
海のように広いのに淡水。
ベタつかず、すっきりとした空気感。
実際に足を運んだからこそ気づけた、滋賀の魅力がそこにありました。
「話題になる」から「記憶に残る」へ
この展示には、もう一つの狙いがあります。
「たくさん写真や動画を撮ってもらいたいんです。万博会場にお越しの方は、自身のスマホやカメラで様々なものを撮ると思うんですが、映像だけの展示だと面白さが伝わりにくい。でも、この展示は映像だけでなく動きもあるから、スマホで撮っても面白い。SNS映えもします。撮りたくなるビジュアルなんで、ぜひたくさん撮って、たくさんSNSにあげてほしいですね」
ただ美しいだけでは終わらない。その場で感じた“驚き”や“感動”を、誰かに伝えたくなるような体験へ。
その先に、滋賀という地名が記憶されていくんだと思われます。
松尾さんが目指す、未来の展示とは?
展示が終わっても、ふとした瞬間に思い出す風景。
「そういえば、あの滋賀のブースすごかったな」——そんな記憶の断片こそが、アートの力だと松尾さんは言います。
「話題になって、“行ってみたい”と思ってもらえたら。その先に滋賀があって、“行こうかな”って思ってもらえる。それってすごく自然で、心地いい流れだと思うんです」
美しい風景や文化を、アートの力で伝える。
それが、松尾さんが目指す“記憶に残る体験”のかたちです。
2025年、大阪万博の滋賀ブースで体験できるのは、単なる映像でも、ただのインスタレーションでもありません。
そこに広がるのは——光と動きがつくり出す、記憶のアート。
そしてその先には、滋賀の魅力との出会いが待っています。
(取材・文・写真 しがトコ編集部)
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