湯種の魔術師が新店舗をオープン。フレンチトーストの進化系が完成。実食レポをお届け
『No.4』のベーカリーシェフだった川原司さんが、笹塚に『dough-ist(ドウイスト)』をオープンした。
No.4時代、川原シェフは、ほとんどのパンを湯種で作っていた。そのひとつ、湯種のブリオッシュで作るフレンチトーストも川原シェフが考案したものだ。フワフワでモチモチのフレンチトーストは人気商品に成長した。
新店舗ドウイストでは、それをさらにブラッシュアップ。「湯種ブリオッシュフレンチトースト」(330円/税込以下全て同じ)を完成させた。
フレンチトーストの常識を疑え
そもそも湯種ってどういう製法なのだろうか。
「小麦粉にお湯を注ぎ、お餅のようにモチモチとした食感の生地を作ります。ひと晩熟成させ、甘みを引き出したものに酵母を入れて発酵させた生地を焼きます」
湯種で作ったパンはおいしいだけでなく、水分が多いことからフワフワでモチモチの新食感が得られるのが特徴。
フレンチトーストをどう進化せたのかを教えてもらう前に、川原シェフの経歴を紹介する。
中央大学で哲学を専攻後、パン職人の道を歩みはじめた。
常識を疑うことが哲学。No.4時代、パンの常識を疑うことからパンを考えてきた。
ドウイストでもそのスタンスは変わらない。フレンチトーストの常識を疑うことにした。
「ラムシロップを塗ってありますが、ラムシロップが入ったスポイトを付けることにしました」
なぜ追いラムシロップにしたのだろう?
「焼き立てのフレンチトーストはおいしいのですが、時間が経つと固くなりやすい。しかも味が平坦で、途中で飽きてしまいがち。お好みでラムシロップを足して味変させてもらうことにしました」
教えてもらった通り、追いラムシロップにしたところ、しっとりとしておいしくなった。
「味だけでなく、スポイト付きのフレンチトーストは、見た目も面白くないですか?(笑)」
今回、湯種の割合を増やしたことでフワフワ感とモチモチ感がさらにアップ。
世界一柔らかくてフニャフニャなドーナツ
フレンチトーストと同じ湯種ブリオッシュで作ったのが、「湯種ドーナツ」(260円)だ。
「世の中にあるドーナツの中で一番柔らかいと思います」
川原シェフはドーナツ初体験。飲めるようなドーナツをイメージしたという。
※林さんへ ここに動画を入れてください
生ドーナツのさらに上をいく、飲むドーナツが完成した。
「食感がほとんどありません(笑)」
油で揚げているのだが、ほとんど油脂分を感じない。
飲めるドーナツは、シナモンシュガー、きな粉、レモングレープの3種類。
クロワッサンで作ったハニートースト
「可愛らしいハート型の『みたらしハニートースト』(350円)も食べてほしいです」
湯種クロワッサンを横に切り、広げてハート型に加工。片面に醤油、バター、蜂蜜、生クリームなどを塗って仕上げた。だからみたらしハニートースト。
「クロワッサンでハニートーストを作りたかったんです。そこに日本ならではのオリジナル感を出したかったことから、醤油を選びました」
外側はガリガリで、内側はモチモチ。醤油の風味に加え、バターの香りと蜂蜜の甘さが癖になる味。
「新店舗では、一見特徴がなさそうだけど、食べてびっくりなパンを作ろうと思いました」
みたらしハニートーストやフレンチトーストのように見た目がふつうではないパンもある。
けれど、第一印象と食べた印象がまったく異なるパンが多い。
第一印象を裏切る柔らかいパン
そのひとつが、屋号を拝命した「ドウイスト」(260円)だ。
硬そうに見えるけど、じつはフニャフニャ。しかも麹の香りがして、甘みがある。
「加水率が高く、ネチッとしていてプリッとしています。小麦粉と水と麹と酒粕と塩だけ。砂糖は使っていません。生地を熟成させることで甘みが出て、しっとりとしたパンになります」目ざしたのは、日本の新しい食事パン。
「食感がご飯に似ていると思いませんか(笑)。ご飯の代わりに、味噌汁や魚と一緒に食べてほしいです」
皮も柔らかいバゲットで作るホットドッグ
「笹塚ドック」(600円)も見た目と味わいにギャップがある。
「バゲットですが、かなりモチモチしています」
湯種だけでなく、川原シェフが得意とする複数の製法を取り入れた自信作。
笹塚にある肉屋『川島食品』のソーセージを使っていることから笹塚ドックと命名。
「トッピングは切り干し大根(笑)。宮崎県産梨大根の切り干し大根のラペです」
ザワークラウトにしか見えないが、食べた瞬間、切り干し大根だとわかる。
ホットドッグのなかにはパンの皮が固く、歯切れが悪いものもある。けれど、笹塚ドックのパンは湯種バゲットなので、噛み切りやすくてモチモチ。
具とパンの一体感を愉しめるサンドイッチ
最後に「ジャンボンブルー」(450円)を紹介する。
笹塚ドック同様、一見硬そうだけど、その反対。全粒粉を61%使用した湯種バゲットに生ハムと、厚めに切ったカルピスバターをはさんである。
「サンドイッチはパンが硬いと一体感がありません。おにぎりぐらい口のなかで一体感が欲しいと思っているので、モチモチ感としっとり感があるバゲットを使っています」
歯切れがよくて、皮が口のなかに残らず、おいしく食べられた。
「サンドイッチを冷蔵庫に入れると固くなりますが、ジャンボンブルーも笹塚ドックも固くなりません。モチモチ感としっとり感が持続します」
見た目はふつうかもしれないが、ドウイストのパンはユニークなものが多い。
「僕じゃないと作らなかったパンが多いと思います」
というか、川原シェフだからこそ作れたパンが並んでいる。
人は見た目が9割。けれど、ドウイストのパンは見た目とは大違い。いい意味で裏切られる、新食感のパンを体験しませんか。
【dough-ist】
住所/東京都渋谷区笹塚3-12-5ホワイトハウス
電話/ 03-4400-4182
営業時間/11:00~19:00
無休(夏季休暇と年末年始休暇あり)
(うまいめし/中島 茂信)