「地域の本屋を守りたい…」 釜石高生がお薦め本を紹介 足運ぶきっかけ作り、書店不況打開の一助に
本屋に足を運ぶ楽しみを知ってほしい―。釜石高2年の小林桐真さんと澤舘慧斗さんは19日、釜石市大町の桑畑書店(桑畑眞一店主)で、お薦めの小説と漫画を紹介するイベントを開いた。文科省のスーパーサイエンスハイスクール(SSH)に指定されている同校の教育プログラム「探究活動」の一環で取り組んだもの。「本屋の不況の打開策を考える」というテーマを掲げた2人は、誘客のための方策として、同書店にお薦め本8作品を並べた特設コーナーを開設中。イベントではその中から5作品を紹介し、熱いプレゼンで本や書店の魅力を伝えた。
お薦め本は同校の全校生徒を対象に行った「好きな本、気になる本」のアンケート結果を基に選んだ。多くの支持があった小説「アルジャーノンに花束を」(ダニエル・キイス著、小尾芙佐訳)、漫画「カグラバチ」(外薗健作)と「ハイキュー!!」(古舘春一作)のほか、要望のあった恋愛漫画や小林さんと澤舘さんの“推し”本を集めた。
19日の書店イベントでは小説2作と漫画3作を紹介。物語のあらすじ、文章や作画の特徴、自身が共感した部分などを語った。小林さんが取り上げた小説「四畳半神話大系」(森見登美彦著)は、京都に住む大学生の日常が4つの並行世界で描かれるSF的要素を含んだ作品。内容に反し、「凝った文章、特異な比喩が魅力。テンポよく、するすると読み進められる」と小林さん。主人公の大学生が持ち続ける「あの時、こうしていれば…」という誰にでもある「たら、れば」に共感し、「後悔から脱却するにはどうしたらいいのか?読んでのお楽しみ」と興味をそそった。
2人が紹介した漫画3作はいずれも週刊少年ジャンプに連載され、単行本化されたもの。漫画「PPPPPP(ピピピピピピ)」(マポロ3号作)はピアニスト一家の物語。小林さんは「少年ジャンプとしては異質ながら、ピアノ勝負がバトル漫画チック。凡才、天才それぞれの葛藤、苦悩を両側面から描き出し、読者の心に刺さる」と分析。「音を“見せる”ために用いたファンタジーという演出がとにかく独特で面白い」とも話し、根強い人気をアピールした。
刀匠の父を謎の妖術師組織に殺され、復讐のため戦うことを決意する少年が主人公の「カグラバチ」。澤舘さんは“刀剣”つながりで、一大ブームを巻き起こした漫画「鬼滅の刃」の主人公との違いを考察。「カグラバチの主人公チヒロは無表情で敵を倒していくが、要所要所で感情を表に出すシーンがあり、そのギャップが魅力。単行本は5巻まで出ているが、アニメ化もまだ。ぜひ、先取りで」とPR。高校バレーボールが題材の「ハイキュー!!」は現日本代表選手も影響を受けたという作品で、昨年映画化も。澤舘さんは身ぶりも交え、魅力的な登場人物を紹介。「作品は没入型。実際に1試合を見たような感覚を味わうことができる。バレーボール初心者も読みやすい」などと熱弁した。
集まった人たちからは2人に対し質問や感想も。「読んでみたくなった」と、帰りに気になった本を買い求める人もいた。遠野市で書店を経営する内田正彦さん(46)は「高校生がどれほどできるのか見てみたくて」と来店。2人の大人顔負けのしゃべりに感心した様子で、「遠野でも中高生が書店に足を運ぶきっかけになるようなことをやってみたい」と話した。地域性を生かし、「遠野物語」の勉強会や怪談イベントも企画してきた内田さん。活字離れが進む若年世代の興味喚起につながる方策へ意欲を高めた。
インターネットの普及や電子書籍の増加で、情報や知識を得る手段が多様化。「欲しい本はネットで」「雑誌はスマホで」―と読者の購買行動が変化する中、書店を取り巻く環境は年々厳しさを増している。小林さんと澤舘さんが、その打開策をゼミテーマに選んだのは「本屋がなくなると困る」という純粋な思いから。「気になる本があった時、本屋ではその両隣にも自然と目がいく。ネットでは得られない周辺情報が入ること、さらには紙の手触りを感じられるのが本屋の大きな魅力」と小林さん。
2人は昨年5月にテーマを設定。「書店の売り上げ増になることを」と、推薦本の紹介コーナー設置を発案し、地元の老舗・桑畑書店の協力で実践の場を得た。校内アンケートを基に作品を選定。10月ごろから同書店内に特設コーナーを置かせてもらった。校内掲示用の宣伝ポスターも作成。桑畑店主から今回のトークイベントのアイデアももらい、約1カ月かけて準備を進めてきた。
初めての経験に緊張しながらも、伝えたいことを精いっぱい発表した2人。澤舘さんは「汗をかきながらの発表だったが楽しかった。これからも自分の好きな本を紹介できる人でありたい」。小林さんは「1万字もの原稿を書き上げられたのはいい経験。今回の活動を通して外部の人たちとつながり、いろいろな考え方を聞く機会を作れたのは大きな収穫」と話した。残りの活動では、紹介コーナーのポップ作成にも取り組みたい考え。
「面白かったぁー。私自身もいい刺激になった」。2人の発表に笑顔で聞き入った桑畑店主(71)。今回の高校生発の取り組みに「本屋という空間に興味を持ってくれてうれしい。こういう活動は大歓迎」と喜び、「若い人たちが本に親しむきっかけになれば」と願った。