【劇団四季ミュージカル『キャッツ』】この夏、静岡公演を観に行く方必見!長年愛される作品には「原作」があった!劇中歌にもさまざまな音楽的要素が。
静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「劇団四季ミュージカル『キャッツ』」。先生役は静岡新聞教育文化部長の橋爪充が務めます。 (SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」2024年7月24日放送)
本題の前に。直木賞予想外れました…
(山田)本題に入る前に、橋爪さん、ちょっと皆さんに言うことがあるんじゃないですか。3時のドリル水曜日を楽しみにしている方に。
(橋爪)先々週、私、直木賞の予想をしたんですけれども外れました(笑)。ごめんなさい。岩井圭也さんと柚木麻子さんの小説を挙げたところ、一穂ミチさんの「ツミデミック」(光文社)が選ばれました。
(山田)別に謝らなくてもいいですよ。どれも素晴らしい作品ですから。
(橋爪)そこを強調したいんです。直木賞候補にノミネートされただけでもとても高い評価ですし、私は全部読みましたけど、読んで損したと思う作品は一つもないので。今からでも候補作を読み続けるのは良いと思います。
(山田)今、本屋さんには直木賞のノミネート作品がずらりと並んでいますからね。
さて、本日のトピックにいきましょう。今日取り上げるのは劇団四季ミュージカル『キャッツ』。静岡公演が始まりましたね。
(橋爪)多くの人が楽しみにしていたのではないかと思いますけども。
10年ぶりの『キャッツ』静岡公演が開幕!
(山田)静岡では10年ぶりですね。
(橋爪)今回の静岡ロングラン公演は7月17日にスタートしました。9月23日まで続きます。14日間休演がありますが、1日2公演の日もあるので、全部で63公演になります。
(山田)すごいですね。俳優さんたちもスタッフさんたちも。
(橋爪)7月27日から9月中旬までは土曜日は毎週2回公演が基本となるので、見やすくなっています。会場は静岡市内ですが、『キャッツ』を見るチャンスなので、ぜひ静岡県の東部や西部からも劇場に足を運んでもらえたらと思っています。
私は取材を兼ねて17日の夜の公演を観劇しました。演劇は大きいものから小さいものまでいろいろと観ているという自負はあって、劇団四季も初めてではないんですが、実は『キャッツ』は初見でした。
(山田)そうなんですか。
(橋爪)客席に座ると満席で、周囲の方々の声に耳をそばだてていると強者ばかりなんですよ。
(山田)今日はあの役は誰が演じるのかとかね。
(橋爪)たぶんまだ観たことがないであろう友達との会話などを聞いていると、「あの猫は後半、これこれこういう形で出てくる」などという解説もちらほら聞こえてきて、初日だからこそ観に行きたいという思いで来ている方もいるんだなという気がしました。
(山田)皆さん、ワクワクしてね。それで初めて観てどうでした?
(橋爪)感想は後ほど話すとして、改めていろいろと資料を調べて感心した『キャッツ』のあらましについて先に喋ってもいいですか。
(山田)お願いします。
日本初演は1983年。2019年には通算入場者1000万人突破!
(橋爪)皆さんご承知の通り、『キャッツ』は長い歴史があるんですよ。日本公演は1983年11月11日の東京・キャッツ・シアター西新宿が一番最初でした。
(山田)僕が生まれる前だ。
(橋爪)40年以上前ですよね。記録によると1984年11月10日の千秋楽まで474公演を行って、総入場者数48万1000人だそうです。
(山田)最初から大ヒットしたミュージカルなんですね。
(橋爪)その後、大阪に進出したりして内容をアップデートしながら現在まで続いているということです。2019年3月12日に通算公演回数1万回という想像もできない数に達していまして、同じ年の4月21日には通算入場者数1000万人を突破。1000万人が観ているってすごくないですか。何回もご覧になっている方も当然いるし、そういう方が支えているという話も聞きますが、単純に計算すると日本の人口は約1億2000万人なので、12人に1人は観ている計算になります。
(山田)舞台芸術ではなかなかないかもしれませんね。
(橋爪)もう一つびっくりしたのは、1983年の初演以降、1994年を除いて毎年、日本中のどこかで『キャッツ』の公演をやっているんですよ。東京だけでなく、大阪、札幌、名古屋、福岡だったり。静岡もそのうちの一つです。
圧巻なのは2004年11月11日に、東京・五反田のキャッツ・シアターで開幕した超ロングラン公演。千秋楽が2009年5月3日なので4年半にわたって開催しています。公演回数は1563回、176万4000人を動員しています。目を疑う数です。
(山田)大好きな人たちがたくさんいて、何回見ても面白い作品というわけですよね。
(橋爪)静岡公演は今回が3回目。初回は2003年4月、2回目は2013年9月の開幕でした。
劇中歌にはゴスペル、スイングジャズ、ロックなどの要素も⁉
(橋爪)それほど歴史があるのに私は初めて観たので偉そうなことを何か言えるわけではないんですけど、率直に感想を述べると、とにかくあらゆるエンタメの要素が詰めこんであるなと。特に音楽は非常に魅力的でしたね。いわゆるミュージカル的な楽曲ばかりかと思いきや、実はいろいろな音楽の要素がチラチラと入っていました。
(山田)いろいろな音楽の要素?
(橋爪)山田さんは観たことはありますか?
(山田)もちろんあります。
(橋爪)私が聴いた限りだと、ゴスペル的な要素がありました。
(山田)確かに。ゴスペル入ってますね。
(橋爪)あとスイングジャズ。これは割と前面に出ていましたね。
(山田)ロックも入ってますよね。
(橋爪)あとはファンクとか。ちょっとレゲエ的な部分もありました。
(山田)レゲエも?
(橋爪)裏のリズムではなくてベースのラインがそれだなと思う部分がありましたね。
(山田)へぇー。そうした音楽的な要素がいろいろと入ってると。
(橋爪)ニューオーリンズ的な感じや中華ポップの音階とかも入っていて楽しかったです。
(山田)基本的にセリフはほとんどなく、歌のみで進んでいくお話ですから、ミュージカルの中でも音楽が占める部分は大きいんでしょうね。
(橋爪)それと、役者さんの身体能力の高さにも度肝を抜かれましたね。これは実際に観てみないとわからなかったところでした。
(山田)役者さんに聞いたら、猫の骨格を勉強するそうです。柔軟性に加えて、いかに関節を使って歩くかを意識しているようです。
(橋爪)四つん這いのシーンが特に流麗で。これはかなり激しいトレーニングをしないとできないぞと思わされました。
(山田)あと、これから観る方は歌っている猫だけではなく、舞台上にいる他の猫たちにも注目してみてください。関係ないところで遊んでいたりとかしています。その動きが全部猫なんですよ。
(橋爪)止まっているだけでも身体的にはつらいと思うんですが、ピタッとした姿勢を続けるのはすごいですよね。
原型は詩集。劇団四季は創立時から作者を意識していた?
(橋爪)私にとって、『キャッツ』との接点はミュージカルそのものより、実はこのミュージカルの原型となった詩集の作者T・S・エリオットなんです。
(山田)原作のようなものがあるんですか?
(橋爪)原型になった詩集があります。
(山田)詩集なんですね。
(橋爪)エリオットは米国生まれで、ノーベル賞を取っている作家であり、詩人、劇作家、批評家、保守思想家です。最も有名な詩集は1922年の「荒地」という作品です。私は、この方の作品については何度かコラムでも引用させてもらっています。
(山田)静岡新聞のコラムでも。
(橋爪)ここで一つ小ネタがあります。ものの本によると、劇団四季は1953年、浅利慶太さんを中心に学生10人で創立されたされたんですが、当初は劇団名を「劇団荒地」とするつもりだったらしいんです。それなので、最初から明らかにエリオットを意識しているのではないかと。
(山田)そうなんですか。
(橋爪)そうではないかと思われます。だから、30年後に『キャッツ』を上演するのは、必然だったかもしれません。
(山田)ちょっと今の小ネタもらってもいいですか。この夏使っていこう。
(橋爪)『キャッツ』は1939年に発刊されたエリオットの詩集「Old Possum’s Book Of Practical Cats」が原型になっています。これに作曲家のアンドリュー・ロイド・ウェバーが曲を付け、1981年に英国ロンドンで初演されました。
エリオットは1965年に亡くなっているので、このミュージカルを見ていないんです。自分の詩がミュージカルとして上演されるなんて、おそらく考えてもいなかったはずです。
「Old Possum’s Book Of Practical Cats」はけっこう日本語訳がたくさん出ていて、それぞれに訳が違っていて面白いです。きょうは手元に2冊持ってきました。
(山田)2冊とも猫ちゃんのイラストがとってもかわいい詩集ですね。
(橋爪)1つが柳瀬尚紀さん訳の2009年初版発行。タイトルは「ポサム親爺の手練猫名簿」。もう1つが、たぶんこれが一番新しい訳ではないかと思うのですが、佐藤亨さん訳の「オールド・ポッサムの抜け目なき猫たちの詩集」です。2023年5月初版発行で、イラストレーターの宇野亞喜良さんが絵を描いていて、とても素敵です。
翻訳者による描写の違いも興味深い!
(橋爪)これらの本で興味深いのは、ミュージカルに出てくる有名猫が、実際のところ、「原作」ではどう描写されているか、なんです。どのような記述になっているか少し紹介しますね。
(山田)はい。
(橋爪)私が目についた有名猫といえばミストフェリーズ。
(山田)マジシャン猫ですね。♪驚いたもんだ 素晴らしい奴さ マジカルミスター・ミストフェリーズ♪
(橋爪)すごい、歌える!
(山田)歌えます。大阪芸大に通っていたときに何かの授業であったりしたので。
(橋爪)そうですか。すごく切れのいいダンスとマジックを披露するなど見せ場の多いキャラクターですよね。佐藤亨さん訳の「オールド・ポッサムの抜け目なき猫たちの詩集」ではこんなふうに語られます。
待ってました、ミスター・ミストフェリーズ
奇術師猫の元祖が登場
(これについては一点の曇りなし)
からかっちゃダメだよ、はなしを聞いてほしい
くり出す技は猫の手を借りない
同じ場所が柳瀬尚紀さん訳の「ポサム親爺の手練猫名簿」ではどうか。まず、名前が違うんですよ。
(山田)えー。
(橋爪)ミストフェリーズは「カスミトフェレス氏」と呼ばれています。では、訳を読み上げますね。
カスミトフェレス氏、いざ登場
この奇術猫、創意満身
(疑うなかれ、これぞ正真)
あざ笑わずに聞いてほしいね、わが口上
創意工夫にひたすら邁進
何か割と五七調じゃないですか。
(山田)なんか難しい感じがしますね。
(橋爪)なんとなく、柳瀬さんの猫の方がちょっと重々しく感じるような気がします。佐藤さんの訳のほうが少し軽めと言うか。
(山田)ポップな感じがしますね。
(橋爪)ミュージカルに接していない人は、まず原作の詩を読んでみて「舞台上ではこの猫はどんな動きをするんだろう」と想像を膨らませてから劇場に向かうというのも悪くないなと思いました。
(山田)そうですね。でも、原作が詩集というのもなんか納得です。ミュージカル自体も24匹の猫たちのいわゆるキャラソンですもんね。
(橋爪)そうですね。元々『キャッツ』のミュージカルに親しんでいる方も、自分のお気に入りの猫がいれば、詩集でどのように描かれているかを確かめてみるのも面白いかもしれませんね。
(山田)そうですね。
(橋爪)そうやって舞台と書物を相互に行き来するのも『キャッツ』の楽しみ方なのではないかと思います。
(山田)これから行かれる方はぜひ原作の方もチェックしてみてください。今日の勉強はこれでおしまい!