第7回 「人」が動かす地域づくりの力—— 後編 (蔡紋如「MAHORA西野谷」代表)
蹦火仔(ポンフオザイ) 写真提供・富吉 268 號
直近の注目記事をピックアップし、日曜日に再掲載します(編集部)
初回掲載:2025年7月25日(再掲載:8月3日)
前回は、台湾・新北市金山区で「金山漫遊 DMC」が立ち上がるまでの経緯や、3 年間にわたるワークショップを通じて地域住民と信頼関係を築き、共通の目標を見出していった「人をまとめる力」について紹介しました。今回は、その続きとして、地域資源を活かした具体的なコンテンツ開発や、福祉と観光の融合に挑戦する取り組みについて触れていきます。
消えかけた伝統漁法を観光資源に
金山区では、地域資源を活かした観光コンテンツの開発が進められていま す。中でも印象的だったのが、コロナ禍や環境変化によって消滅の危機にあっ た伝統漁法「蹦火仔(ポンフオザイ)」の再生です。この漁法は 100 年以上の 歴史を持ち、5 月から 9 月にかけて金山区沖の夜の海で行われてきました。かつては盛んだったものの、近年は維持が難しくなり消えつつありました。
しかし、これを観光プログラムとして再活用し、新北市の文化遺産に登録されたことで地域の新たな魅力としてよみがえりました。案内人を務めた地元出身の若者が「好きな漁村を新しい形でお客様に紹介できる」と語っていたのが印象的で、まさに「産業を守る形にはさまざまな方法がある」という言葉を象徴する事例だと感じました。
地域福祉と観光の融合
さらに注目したのが、地域のお寺が所有していた建物を改装した複合施設です。ここでは高齢者がカフェを運営し、シルバーの共同食堂や放課後クラブなども併設。地域福祉の拠点として機能するだけでなく、観光客も立ち寄れる場となっています。
この施設の仕組みもユニークです。屋上で育てた野菜の収益を放課後クラブの運営に充てるなど、地域内で経済循環を生み出しながら、5 年間かけて高齢 者がコーヒーの淹れ方を学び、現在では日替わりで店長として活躍。年齢を重ねても学び続け、誰かの役に立とうとする姿勢に強い感銘を受けました。
「高齢者は世話される存在」という意識が根強く、「姥捨て」という言葉に 象徴されるように、高齢化を負の側面として捉えがちです。しかし、金山区では高齢者が「自ら元気に活動し、誰かを支えることでえ生きがいを見出す」ことが当たり前のように行われていました。この複合施設はまさにその象徴であり、地元の子どもたちとの交流の場にもなっています。
立地にも工夫があり、この施設は金山老街という観光エリアの中にあるため、高齢者も徒歩で無理なく通うことができます。日本の里山で同様の取り組みを進めるには、高齢者の移動手段の確保が重要な課題になると感じました。
DMO や DMC という言葉だけが先行するのではなく、地域の人々と同じ目線 で信頼関係を築き、地域資源を丁寧に活かすこと。金山区の取り組みは、その 実践例として多くの学びを与えてくれました。今回の視察を通じて、観光は地 域を元気にする一つの選択肢であることを再認識し、これからも「人と人をつ なぐ観光のあり方」を丁寧に考え続けていきたいと思います。
蔡紋如(サイ・ウェンル)
台湾出身。2014年に結婚し、夫とともに妙高へ移住。独学で総合旅行業務取扱管理者の資格を取得し、妙高市観光協会に積極的にアプローチしてインバウンド専門員として採用される。主にアジアの華僑系顧客をターゲットにプロモーションを展開し、企画制作を担当。また、FacebookなどのSNSを活用して日本での生活をPRする活動も行う。コロナ禍で観光業が大きな打撃を受けたことで、地域のために何ができるのかという強い危機感を抱くようになる。2023年、農業と観光業を通じて地域を活性化することを目指し、合同会社穀宇を設立。2024年には京都大学経営管理大学院観光経営科学コースを卒業。同年4月に築120年の文化複合施設「MAHORA西野谷」を開業する。
【関連サイト】
MAHORAホームページ
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