2100年までにほぼすべての<サンゴ礁>が成長不能に? 沿岸の浸水リスクに深刻な影響
豊かな海洋生態系を育むサンゴ礁ですが、人間の生活とも密接な関係があることを知っていますか。
世界の熱帯沿岸においては、サンゴ礁が最大97パーセントの波のエネルギーを吸収。これにより洪水被害などを回避し、経済効果は年間30億ドルを超えと推定されています。つまり、サンゴ礁は自然の防波堤としての役割もあるのです。
しかし、近年の温暖化によりサンゴの白化現象や死滅が拡大。サンゴが減少し多様性も失われています。これに海面上昇も加わり、将来的に沿岸防御機能に深刻な影響が出ることが懸念されているのです。
そうした中、日本も含む国際研究チームは400カ所以上のサンゴ礁を調査。様々なデータとの組み合わせによりサンゴ礁の成長を分析しました。この研究成果は『Nature』に掲載れています(論文タイトル:Reduced Atlantic reef growth past 2℃ warming amplifies sea-level impacts)。
防波堤としてのサンゴ礁
サンゴ礁は豊かな海洋生態系を形成し、多種多様な生物の住処となっています。
それと同時にサンゴ礁は水質浄化や防波堤としても機能しており、海だけではなく人々の生活を守る役割も果たしています。
熱帯沿岸におけるサンゴ礁が吸収する波のエネルギーは最大で97パーセントとも言われており、洪水被害の回避による経済効果は年間で30億ドルを超える推定だとか。
しかし、近年の地球温暖化による海水温の上昇、水質の悪化によりサンゴの多様性と減少が進行しています。
特に西大西洋ではミドリイシ属のサンゴが壊滅的であり、サンゴ礁の成長力が弱まった結果、多くの場所で成長よりも浸食が上回っているようです。
こうした状況が海面上昇の作用とも重なることで、将来的に沿岸防御に悪影響を及ぼすことが懸念されています。
サンゴ礁の成長力が弱まっている?
サンゴ礁の成長力が弱まっている中、日本を含めた8ヵ国が参加する国際研究チームはフロリダやメキシコなど400カ所以上のサンゴ礁を調査。過去の化石サンゴ礁のデータと現在の生態データを組み合わせ、サンゴ礁の成長力を算出しました。
特に今回の研究ではサンゴの種類ごとに異なる骨格の空隙率(空隙率とはサンゴの骨格内の空隙の割合)を精密に測定し、従来よりも正確な成長速度が推定されています。
このままだとほぼすべてのサンゴが成長不能に
分析の結果、多くのサンゴ礁の成長速度はすでに海面上昇の速度を下回っていることが判明。現状と同じレベルのCO2排出が続いた場合、2040年までに70パーセント以上が侵食状態に転じることが明らかになりました。
また、2100年までに気温上昇が2度を超えると、ほぼすべてのサンゴ礁が成長不能になり、削られる方向に進むと予測されています。この場合、サンゴ礁の成長不足に海面上昇が重なり、礁上水深は平均0.7~1.2メートル増加。高潮や波浪の影響を強く受けることになるのです。
これにより沿岸の浸水リスクが大幅に高まり、サンゴ礁の背後にある生態系を大きく変化させる可能性があると考えられています。
国際的な対策と並行して地域レベルの管理も
今回の研究により、サンゴ礁の将来が気候変動と密接に結びついていることが改めて示されました。このことから、気温上昇を現在から2度未満に抑えることで、一部地域のサンゴ礁が海面上昇に対応できる可能性が残るとされています。
この課題を解決するためには温室効果ガス排出の大幅な削減が不可欠とした上で、今後、水質改善や過剰漁業の抑制といった地域レベルの管理の強化も必要とのことです。
(サカナト編集部)