広島県福山市「とおり町Street Garden」はアーケードを改修し緑あふれる開放的な商店街に。全国に先駆けたウォーカブルな街
全国にさきがけて「ウォーカブル」な街を目指した福山本通商店街・本通船町商店街
2020年、改正都市再生特別措置法(ウォーカブル推進法)が成立し、国土交通省が「まちなかウォーカブル推進プログラム」を推進するなど、「ウォーカブル」を合言葉にし、国を挙げて「居心地が良く歩きたくなるまちづくり」が推し進められている。
福山市中心市街地にある「とおり町 Street Garden(とおりちょう ストリートガーデン)」は、全国に先駆けて居心地が良く歩きたくなる街を実践したことで、注目される。とおり町 Street Gardenとは、「福山本通商店街」(以降「本通商店街」)が、南に連なる「本通船町商店街」と共にアーケード商店街を一新し、緑あふれる明るい雰囲気の商店街として生まれ変わったもの。2020年よりも4年も早い、2016年のことだ。
なお、とおり町 Street Gardenという名称は改修・リニューアル後の両商店街の愛称で、正式な名称は、福山本通商店街および本通船町商店街のままである。
本通商店街は福山中心市街地にあり、JR福山駅の南東に位置する。南北に約320m続き、北はJR山陽本線・山陽新幹線の高架で、同市の今町から笠岡町を経て、船町の一部に至る。なお、本通船町商店街は本通商店街から続く形で南に延び、船町の国道2号線まで続く、総延長約120mの商店街だ。
江戸時代初期に福山城が築城され、城下町が整備された。福山城の東側を南北に街道が通り、その街道沿いに発達した商人町が本通商店街、および本通船町商店街の起源である。当時は「通町(とおりちょう)」と呼ばれた。
かつて福山には、福山城の外堀と入江を結んだ運河(入川、浜川)があった。そして、運河と通町の交わるところに「木綿橋(もめんばし)」という橋が架かっていた。この橋は福山の城下町の起点とされており、通町、つまり現在の本通商店街や本通船町商店街は福山城下の経済の中心的な場所として栄えたのである。なお、運河は戦後に埋め立てられた。
通町は、明治時代以降も福山の商業地としてにぎわい、やがて本通商店街と本通船町商店街に。両商店街にはアーケードが設置され、福山市きっての商店街として多くの人が訪れた。なお、両商店街の境は福山船町郵便局があるところで、かつて運河が流れていたところが境界になっている。
そして2016年、本通商店街と本通船町商店街がアーケードを改修・リニューアルし、とおり町 Street Gardenとして一新された。改修・リニューアルをするきっかけは、本通商店街だったという。本通商店街の関係者や福山市役所職員など、当時アーケード改修関わった方々に話を聞いた。また、商店街の今後の展望などについて、現在本通商店街の取組に関わっている方々にも話を聞いた。
ネックになったアーケードの維持管理費を「緑のアーケード」のアイデアで打開
アーケード改修の大きなきっかけは、老朽化だったという。アーケードは1928年(昭和3年)に初めて設置され、改修前のものは三代目のアーケードになっていた。三代目のアーケード設置は1965年で、設置から30年以上経った2010年ごろから、アーケードの老朽化が目立つようになる。老朽化により、昼でも薄暗い雰囲気があった。
それだけでなく、屋根の一部が落下し、通行者に当たって怪我をする事態が発生。これを受けて、商店街の組合員からアーケードの改修の話が持ち上がったが、ここで大きなネックとなったのが維持管理費の問題。アーケードの維持にかかる費用は、簡単に見積もっても年間で100万円はかかる見通しだった。本通商店街は全国的に見ても、立派なアーケードを持つ商店街だったが、それが負担にもなっていたのだ。
さらに1990年代後半以降、郊外へにぎわいが移っていったことから、商店街には空き店舗が多くなっていた。全100軒のうち、約30軒が空き店舗という状況であった。そのためアーケードの改修や維持・管理にかかる組合員への経済的負担は、いっそう大きなものになる。
そこで、思い切ってアーケードを撤去しようという案が出る。実は、本通商店街の近隣にある「久松通り商店街」が、2001年にアーケードを撤去し、明るく開放的な雰囲気の通りにリニューアルしていた。本通商店街も、久松通り商店街に負けない、明るく開放的な商店街を目指すことになったのである。
組合員から「商売をするなら、福山城公園にあるふくやま美術館前のような自然豊かで緑あふれる場所でやるのが理想」との声があった。これをヒントに「構造物はお金をかけても経年劣化するが、植物であれば経年劣化しない」というアイデアに至り、植物をアーケードに見立てた「緑のアーケード」の構想が生まれることになる。
なお商店街の道路は、福山市が管理している。そのため、アーケードの改修・商店街のリニューアルは、福山市の協力が不可欠である。しかし福山市は、本通商店街だけでなく、南側に続く本通船町商店街も含めて一体的に整備することを条件とした。市民にとっては、連続する2つの商店街は一体的なものとして捉えられているからだ。本通船町商店街にも理解をしてもらい、2014年から、本通商店街・本通船町商店街のアーケード改修・商店街リニューアル事業が始動することになった。2016年が福山市政施行100周年でもあり、それに合わせる形で完成するように進められた。プロジェクトは「とおり町 Street Garden」と名付けられる。そして2016年、アーケード改修・商店街リニューアルが完了した。
歴史と誇り・団結の証を残しつつ、緑豊かで開放的な雰囲気を目指したデザイン
とおり町 Street Gardenの事業計画は、安全性・使いやすさ・施工性・費用の4点をポイントとして進められた。計画は、大きく分けてアーケード部分と道路部分の二つだ。アーケード部分は商店街、道路部分は福山市が主体になって行われ、全体のデザインは市内の建築事務所・株式会社 UIDの前田圭介さんが担った。
コスト面を理由に始まったとおり町 Street Garden。しかし実施する以上、明るく心地の良いものに仕上げたいと商店街は考えた。そこで白羽の矢が立ったのが、前田さんだった。前田さんが手がけた地元のこども園を商店街関係者が見て、Street Gardenのイメージに当てはまったからだ。
アーケードでポイントになるのが、ステンレスワイヤーのアーケードと、支柱である。もともとアーケードは撤去の方針であったが、アーケード撤去に反対する組合員もいたという。反対の理由には、福山随一の商業地として栄えた歴史の証ともいえる全国的にも立派なアーケードであったという本通商店街の誇りようなものがあった。
そこで、双方の気持ちを取り入れて考え出されたのが、ステンレスワイヤーのアーケードのアイデアだった。アーケードを撤去したときのような開放感があり、空も見える。しかも、維持・管理にかかる費用も抑えられた。ステンレスワイヤーは、前田氏が雲をイメージしてデザインしたという。ワイヤーの数は、本通商店街・本通船町商店街で合わせて約7,000本になる。
さらに支柱は、改修前のものをそのまま活用している。本通商店街の長い歴史を残す意味と、商店街の団結の証という意味があるという。
アーケードはステンレスワイヤーになり、支柱は既存のままであるため、本通商店街・本通船町商店街のアーケードは「撤去」ではなく、あくまで「改修」という形で落ち着いた。
道路部分でのポイントは、街路樹と照明、路面だ。街路樹は、前田さんが高木(こうぼく)を中心に植樹することを提案した。そこで問題になったのが、木々の管理である。道路は市が管理しているため、街路樹も市が管理することになる。
しかし、市は街路樹の管理まで行う余裕がなかった。そこで商店街は「グリーンパトロール隊」と名付けた、商店街の店主らが管理する仕組みを市に提案し、了承を得たのだ。この商店街が自ら植樹を管理する仕組みが、Street Garden実現のポイントであり、全国的にも類を見ない取組となった。
次に警察との協議が難航した。道路である以上、歩行者の通行を妨げず、安全を確保しなければならないからである。歩行者の安全が担保できる植樹の範囲はどこまでか、警察と何度も話し合ったという。また植樹の支柱を地下に設ける「鋼製地下支柱」の採用により、歩行者の安全を確保しながら高木の植樹を可能にした。
照明も議論になったという。木々を下から照らすアッパーライトか、上から道路を照らすダウンライトにするか、意見が分かれた。アッパーライトは木々を照らし、通りの雰囲気を良くするが、道路を照らさないので歩行者の安全確保の問題や、雨天時に故障しやすいなどのデメリットがある。
植樹が終わったあとに、両方のライトを取り付けて実験してみたところ、ダウンライトに照らされて木々の影が路面に投影される景観が美しかったことが決め手になり、ダウンライトの採用が決定する。
路面は、神社の石畳をイメージして、白御影石のノミ切り仕上げが計画されていた。しかし歩行・走行のしやすさとコスト面から、白御影石の粗ビシャン仕上げに変更し、デザイン性と利便性の両立を目指した。
改修後約9年で空き店舗が約30%から10%未満に減少し、人通りも増加
改修から9年経った2025年。取材で話を聞くと、商店街への新規出店は、改修前より大幅に増加したという。改修前の本通商店街は、100軒のうち約30軒が空き店舗、割合にすると約30%だった。改修を機に入居者が少しずつ増えていき、2025年現在では空き店舗は10%未満になっており、改修前に比べて活気が出ている。
たとえば「umbrella(アンブレラ)」。アーケードの改修・リニューアルを機にオープンした、カフェ併設のコミュニティハウスだ。2階には古本屋、輸入壁紙ハンドメイド作家、洋服のデザイナーなどが入居している。もともと本通商店街ではイベントが盛んだったが、改修後はイベント時以外にもにぎわいを生む必要性があった。そこで、商店街の改修が完了する直前の2016年夏に、まちのコミュニティの場としてumbrellaはオープンした。
本通商店街・本通船町商店街の工事で、おもにアーケードの施工を請け負った福山市内の建設会社の大和建設は、2023年に新事業として本通商店街に「imanoma(イマノマ)」をオープン。imanomaはキッチン付きのレンタルスペースで、「今の間、この瞬間に色んなヒト・モノ・コトの今が集まる場所」をコンセプトにしている。単なる場所の貸出ではなく、本通商店街のさらなる盛り上がりにつながる拠点を目指している。
また改修後、人通りは明らかに増えているという。通学・通勤で、あえて本通商店街を選んで通行している人も見られるとのこと。緑が多く、明るい雰囲気が通りやすいのだろう。夜も明るく、安心して通行できるのも理由として考えられる。
結果、学術的な高評価にもつながった。改修が完了した翌年である2017年、日本デザイン振興会の「グッドデザイン賞」の金賞を受賞。また同年に、土木学会の「デザイン賞」で優秀賞を受賞した。
なおリニューアル後、商店街の店主らによりグリーンパトロール隊を組織して植樹の維持・管理をしてきた。その後、商店街の個々の店が店頭の植樹を維持・管理をするシステムに移行。より効率的な管理方法を取り入れている。2025年には「みどりのお手入れガイドブック」を製作し、関係者に配布。知識やノウハウがなくても、植樹の手入れがしやくすなる工夫を取り入れている。
イベント力のある商店街が、改修でより活発にイベントを開催
本通商店街では昔からイベント開催が盛んだった。改修後、通りの個性を生かしたイベント開催が盛り上がっている。
特に代表的なイベントが、改修前から毎年開催されている「とおり町七夕まつり」。改修前はアーケードを開放して行う、風船飛ばしが人気だった。改修でワイヤー型のアーケードになったことで、新たに「アンブレラナイト」を実施。これは前田さんが考案したもので、いろとりどりの傘をたくさんワイヤー型のアーケードに吊るすもの。本通商店街のイベントで、もっとも人が集まるという。
また、毎年3月と11月に開催される「福山まるしぇのマルシェ」、5月のばら祭のときに開催されている「ふくやまワインまつり」、6〜8月の毎週土曜日に開催する「毎土夜店」も人気のイベントとなっている。小規模なものや単発的なものも入れれば、かなりの数のイベントが行われ、商店街の活性化を図っているのだ。
イベント以外の取組みとして、家庭で出た生ゴミをコンポストに集め、堆肥をつくって植樹されている街路樹に使用する「とおり町 コンポストプロジェクト」の活動も行われている。商店街自ら街路樹を管理している本通商店街ならではの取組みだ。
取材時には「おもしろいことをしていかないと生き残れない」という声もあった。実際に、イベントで新しい客層が商店街に来ているという。もともとイベント力があった商店街という下地があるからこそ、リニューアルの効果が現れているといえるかもしれない。
懐の広い商店街という利点を強みにし、みんなで育てる通りに
改修により明るい雰囲気に変わり、人通りや新規出店が増えた本通商店街。一方で課題もある。
新規出店が増えたが、一方で高齢化・後継者不足で閉店する店も存在する。出店希望者がいても、閉めた店の人が貸出を希望しない場合もあるそうだ。出店希望者と家主とのマッチングに難しさを感じており、今後の課題になっているという。
また、Street Gardenのコンセプトのように、子どもたちに通りを公園のように使ってもらったり、ピクニックに活用したりしてほしいという思いをもつ人も。
本通商店街は新たな人を受け入れる土壌があり、懐の広い商店街だという。新たな仲間を受け入れた上で、単に儲けるだけでなく、広い視野を持ってみんなで通りを育てていきたいとのことだ。
空が見える開放的な雰囲気になり、緑あふれる明るい通り「とおり町 Street Garden」をテーマに生まれ変わった福山本通商店街。歩いて楽しい通りを舞台にした、商店街の今後の展開に期待したい。
※参考記事:
福山駅前・市街地で広がるリノベーションまちづくり。リノベリング主催の視察ツアーで「まちづくりの民主化」の最前線を歩く
※取材協力:
福山本通商店街振興組合
https://www.hondori.shop/
大和建設 株式会社
https://www.daiwakensetsu.co.jp/