【倉敷市】自分のペースで心と身体を整えよう！町家を生かした茶屋「士水（しすい）」の朝ごはん
日々の生活が忙しくなるほど、つい手を抜いてしまいがちなのが朝食。
私は朝が苦手なので、気持ちよく起きられない日はプロテインで済ませてしまう日もあるのが、実際のところ。
でも、心のどこかではあたたかいご飯や野菜がたっぷりと入ったお味噌汁を欲しているようで、少し早く目覚めた日は倉敷美観地区から少し離れた東町にある茶屋「士水（しすい）」に朝ごはんを食べに行っています。
士水の朝ごはんに込められた思いを、紹介します。
「士水」について
士水は、2024年1月9日に倉敷美観地区の本町通りを抜け、奥倉敷とも呼ばれる東町で創業した茶屋です。
築100年以上の町家である又長商店の建物を生かした、どこか懐かしさを感じさせる店内。
「士水」と書かれたシンプルだけれどもしっかりとした存在感のある暖簾（のれん）が目印です。
お店は、田中薫美（たなか くみ）さんと靖記（やすのり）さんがご夫婦で営まれていて、朝ごはんは薫美さんが担当。朝7時から売り切れまでの時間帯は朝ごはんのお店として、午前11時からは茶屋として再度開店します。
朝ごはんの提供が終わると、茶屋の開店までは仕込みのため一度店を閉めています。
士水の朝ごはん
士水の朝ごはんは、午前7時から始まります。
メニューは朝ごはん「一汁一菜」750円（税込）のみ。
ご飯・お味噌汁・お漬物・鰹節を一枚のお盆に載せて提供されます。シンプルですが、野菜と穀物をたっぷり食べられる栄養満点の朝ごはん。ご飯は、白米・玄米・おかゆのなかから好きなものを一つ選べます。
削りたてのカツオと昆布で出汁をとったお味噌汁には、季節の野菜がたっぷりと入っています。素材はなるべく地元岡山県内で採れたもの、無農薬・無化学肥料にこだわった生産者から購入するようにしているのだそうです。
お漬物は、ぬか漬け。もちろんこちらも、店主が丹精込めて漬け込んだ野菜です。少しクセのあるぬか漬けの風味がご飯のお供によく合います。
また、鰹節は提供直前に目の前で削られたもの。削りたて独特の香ばしい香りがたまりません。こちらは、店主の友人が作る先代の木桶を修繕し引き継ぐミツル醤油と一緒にいただきます。
どれも素材の味を生かした一品で、身体に良いものを摂取できますよ。
朝ごはんを提供する田中薫美さんインタビュー
東町にある築100年を越える町屋を生かした茶屋「士水」で、一汁一菜の朝ごはんを提供する田中薫美さんにインタビューしました。
──創業から半年以上が過ぎましたね。普段はどのようなお客さんがいらっしゃるのですか。
田中（敬称略）──
日本的なお料理を提供する場所なので、当初は海外から観光に来るお客さんがメインのお店になると思っていました。でも、想像以上に日本人のお客さんが喜んでくれてびっくりしています。
ご年配のかたは幼い頃の生活を懐かしみながら、若いかたも土間や一汁一菜の朝食の経験はないと思いますが「落ち着く」と言ってくださるんです。
毎日ぬかをかき混ぜて作る漬物も削りたての鰹節を食べる生活も、日本人にとっては馴染みのある風景で、本当は日常に取り入れたい人って多いんじゃないかと思うんです。
でも、現代を生きる人たちにはそのような余裕はないことが多くて。ご飯も味噌汁も、一人で作っても余らせてしまうからレトルトのもので済ませる人もいるのではないかと思います。
──たしかに、自分一人のためだと朝食を適当に済ませてしまうことが多いので、こうやってあたたかいご飯が出てくるのはうれしいです。
田中──
ありがとうございます。
あるお客さんに「士水で生活を取り戻している」と言ってもらったことがあって。
海外からの観光客のかたは、異文化を味わって「日本の食卓ってこういうものなのか」とあっさりとした感じで過ごされるかたが多いんですけど、日本人のかたは想いを馳せるっていうんでしょうか。ぽつりぽつりと自分の経験を語りながらじっくりと懐かしんでいくお客さんの多い印象があります。
最近「ていねいな暮らし」に憧れを抱く人が増えてきているのも、そういう理由なのかもしれません。
ここで、かつてあった暮らしを思い出して「またやってみようかな」と思って帰ってもらえたら良いなと思っています。実際にやるかどうかはさておき、生活に関する行動の取り掛かりのような存在になれたらうれしいです。
──接客の際に心がけていることはありますか。
田中──
どのお客さまにも、「今ここで過ごす時間」をたっぷり楽しんでもらいたいので、長時間のご利用も大歓迎です。
お待ちのお客さまを見ると「早く席を譲らないと」と思ってしまいますよね。そのような遠慮をせずに、お客さまのペースで心と身体を整えてほしいと思っています。
──最後に、読者へメッセージをお願いします。
田中──
士水での過ごしかたに、決まりはありません。かつての日本の暮らしに想いを馳せるお客さまで静まる時間もあれば、常連さんがやってきて井戸端会議が始まる日もあります。私たちはいつでも、今そのときいらっしゃるお客さまにあわせた過ごしかたを提供するだけです。
それなので、この昔ながらの建物やお店の道具を眺めながらゆったりとそれぞれの時間を過ごして、ご自身の生活を取り戻していってほしいです。
おわりに
倉敷美観地区の本通りから一本奥に入った東町に位置する士水は、通りに面しているのに静かで心地良い風の吹く場所です。
お料理もどれも優しい味で、お店の雰囲気も相まって親戚のおばあちゃんのお家に遊びに行ったかのような穏やかな気持ちになれる場所でもあります。その秘訣は、店主が私の「今ここで過ごす時間」をていねいにくみ取ってくれているからだったようです。
倉敷美観地区観光の前に、ゆったりと落ち着いた朝を過ごしたいときに、士水でのひとときはいかがでしょうか。